PIVOT TALK BUSINESS
現代アートの楽しみ方 #2
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2025年5月2日

ビジネスでの「アート思考」に注目が集まっている現代。世界のエリートたちがアートの素養を鍛えるのには理由がある。ビジネスに効くアートの視点を、「美術解説するぞー」さんが解説。 <ゲスト> 鈴木博文(美術解説するぞー)|美術解説家 9年間の美術教員経験を経て、子どもよりもまずは大人にアートの楽しさを...
アートから学ぶイノベーションの考え方:前提を疑い、新しさを生み出す秘訣
アートの世界では常に新しさを追求し、既存の常識や前提に疑問を投げかけてきた。それはビジネスの世界でも応用できるイノベーションの考え方とも言える。美術専門家の鈴木博文氏が語る「アートから学ぶ新しさの創造方法」の核心を探っていく。

Q.アートはどのように新しさを提案するのか?
アートの歴史を紐解くと、どのように新しいものを生み出していくのかが見えてくる。具体的な作品を通じて理解することで、イノベーションのヒントを得ることができる。
例えば、約500年前のルネサンス期のイタリアでは、キリスト教のルールによって裸の一般女性を描くことは禁止されていた。しかし、神話に関わる内容であれば許されていた。
ジョルジョネの「眠れるビーナス」とティツィアーノの「ウルビーノのビーナス」を比較してみると、同じような構図だが明らかな違いがある。ジョルジョネの作品は屋外で眠る女神であり、神話の要素で正当化された。一方、ティツィアーノの作品は室内で、従者がいて、明らかに誘うような視線を送る女性が描かれている—これは当時のルール的には「アウト」のはずだった。
Q.なぜティツィアーノの挑戦的な作品が許されたのか?
ティツィアーノの「ウルビーノのビーナス」が受け入れられた理由は複合的だ。当時の社会では人文主義が台頭し、キリスト教の厳格なルールに対する疑問が生まれていた。また、芸術家自身の欲求表現という側面もあった。
重要なのは、前の時代に「眠れるビーナス」という先例があり、その構図を踏襲することで新しい表現を可能にした点だ。つまり、既存の認められたものと新しい要素を組み合わせることで革新を起こしたのだ。
「全く新しいものだけを提示していたら、即座に拒絶されていただろう。みんなが認めている部分も織り交ぜることで新しさを受け入れやすくしている」

Q,風景画はどのようにして生まれたのか?
もう一つの例はクロード・ロランの風景画だ。当時の美術は宗教のために描くものという前提があり、風景だけを描くことには価値がないとされていた。
しかし、クロードの「シバの女王の御難」という作品は、一見すると美しい風景画だが、画面の隅に宗教的場面が小さく描かれている。これにより形式上は宗教画として認められながら、実質的には風景画という新しいジャンルを切り開いた。
「宗教という共通項をピボット(支点)にしながら、宗教2割・風景8割という絵を描くことで、風景画というジャンルを確立した」

Q.アンディ・ウォーホルの革新性とは?
現代に近づくと、アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローの連作がある。従来、芸術作品は一点ものであり、作家が丹念に時間をかけて描くものという前提があった。
ウォーホルは社会が大量生産・大量消費の時代になる中で「絵画も大量生産できるのではないか」と問いかけた。キャンバスと絵の具という伝統的な材料を使いながら、シルクスクリーンの技法で同じ画像を複製し、色を変えて量産するという革新を起こした。
「キャンバスに描いてさえいれば『アート』と認識される前提を守りつつ、『絵画は大量生産してはいけない』という誰が決めたルールに疑問を投げかけた」

Q.アートはどのようにグレーゾーンを開拓するのか?
アートは白か黒かという二元論ではなく、その間にある曖昧な領域を積極的に開拓する。例えば、ゲルハルト・リヒターの「フィレンツェ」という作品は、写真に絵の具を載せたもので、写真なのか絵画なのか判断できない。
「これは写真か絵画か」という問いに対して、「平面作品」という新しいカテゴリーを提示した。このような「どちらでもありどちらでもない」領域を認めることも、アートの重要な側面だ。
Q.アート思考をビジネスに活用するには?
アートから学べる最も重要な考え方の一つは、「前提を疑う」ことだ。例えば「絵画」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、四角い形で、絵の具を使い、筆で描かれたものだろう。
これらの前提を一つずつ分解し、「本当にそうなのか?」と問いかけることで新しい可能性が見えてくる。例えば「絵の具は使うが筆では描かない」「四角い形ではない」「絵の具を使わない」など、様々な革新が生まれる。
「前提条件を因数分解した上で、新しい提案、少し一部を変えていくことで、新しさを提案する。これがアート思考の発展形だ」
Q.アートを身近に感じるためのアドバイスは?
最後に、ビジネスパーソンがアートに触れる際のアドバイスとして、あまり肩肘張らずに楽しむことを勧めている。「教養のため」「ビジネスのため」と目的を持ちすぎると苦しくなる。
「気軽にレジャーや観光、SNS投稿の写真のためでも構わない。エンターテイメントとして入り、『あの作品何だったんだろう』という好奇心から始めるのが良い」
アートに触れると、新しい視点や考え方に出会う扉が開かれる。それはビジネスでの思考の幅を広げ、イノベーションを起こすヒントになるかもしれない。