PIVOT TALK BUSINESS
(114)
6,036回視聴
2025年4月22日

GPUを武器に、世界トップクラスの企業へと成長したNVIDIA。その経営の「3つの秘密」とは何か?今後の「5つの死角」とは何か?勃興期から取材し続けている日経BPシリコンバレー支局の島津翔記者に話を聞いた。 <ゲスト> 島津 翔|日経BPシリコンバレー支局記者 日経BP入社後、建設系専門誌記者、日...
AIブームを牽引するNVIDIA。学習フェーズで「無双」状態だった同社だが、AIが推論フェーズに移行する中で競争環境が変化している。日経BPシリコンバレー支局の島田記者が語るNVIDIAの現状と未来の展望を紐解く。

AIの進化には「学習」と「推論」という2つのフェーズがある。学習フェーズはテスト勉強のような過程で、AIに大量のデータを処理させて能力を高める段階だ。一方、推論フェーズはテスト本番のように、学習したAIが実際に回答を生成する過程を指す。
現在、AIの開発サイクルが学習中心から推論中心へと移行しつつある。この変化がNVIDIAの株価下落の一因になっている。学習に使う半導体と推論に使う半導体は種類が異なる特性を持つ。学習用チップは高い計算性能と大きなメモリが必要だが、推論用チップには低遅延、低消費電力、低コストが求められる。
NVIDIAのGPUは学習に最適化されているため、推論フェーズへの移行は一般的にNVIDIAにとって逆風と言われてきた。しかし、状況は単純ではない。

従来の常識が崩れつつある。OpenAIが最近発表した「Oシリーズ」と呼ばれる推論モデルは、推論に時間をかけることで性能が向上するという特性を持つ。これはテスト時間が長くなれば点数が上がるという、わかりやすい例えで説明できる。
OpenAIは「推論にも計算資源を多く投入すると精度が上がる」という新たな概念を提示している。この流れに呼応するように、Amazon Web Services(AWS)も興味深い動きを見せた。AWSは推論を第4の柱として位置づける一方で、推論用チップの開発を中止し、学習用チップで推論を高速化するサービスを発表した。
これらの断片的な情報を総合すると、推論フェーズでも学習用の強力なチップ、つまりGPUが使われる可能性が高まっている。NVIDIAのGPUシェアは確かに下がるだろうが、推論市場でも40〜50%程度のシェアを維持できるのではないかと予測する。
Google、Microsoft、Amazonといったクラウド大手は全て独自の半導体を開発しており、クラウドサービスを通じて他社に提供している。これらの企業のチップは特に推論処理に強みを持つと言われており、NVIDIAの直接的な競合となる。
さらに、ChatGPT以降、シリコンバレーでは数十社の半導体スタートアップが誕生している。これらのスタートアップは初めから推論専門のチップ開発を目指しており、強力なライバルになるだろう。
しかし、これらの競争激化にもかかわらず、AI市場全体の拡大により、NVIDIAは成長を続けられる可能性が高い。効率が上がるとエネルギー消費量が下がるはずが実際は増えたという「ジェボンズのパラドックス」のように、半導体の利用効率が上がると、新たなAIサービスやアプリケーションが生まれ、結果的に半導体の使用量は増加する可能性がある。

NVIDIAは次のビジネスとして「物理AI」に注目している。これはロボットや自動運転など、リアルな物体にAIを組み込み、身の回りで動くものを指す。NVIDIAのCEOであるジェンセン・フアン氏は、「ロボティクスやメカの重要技術の半分を日本企業が保有している」と述べており、日本企業にとって大きなポテンシャルがある。
日本企業の勝ち筋としては以下の3つが考えられる:
1. 生産性向上 - 工場へのAI導入など、トヨタ自動車はNVIDIAのシミュレーション技術を使って工場のデジタルツインを構築し、効率化を図っている。
2. 新たなサービス展開 - 日立製作所が欧州で展開している鉄道車両の予防保全にAIを活用するサービスのように、リアルな製品とAIを組み合わせた価値創出。
3. 半導体製造 - 推論チップの多様化に伴い、スマートフォン、ロボット、工場ラインなど用途に特化した少量生産の半導体が必要になる。日本の半導体ベンチャー「Rapidus」にはこの分野での可能性がある。

自動運転技術は大きな変革期にある。以前は車の制御はAIには任せず、認識のみをAIに任せる方式だったが、現在はエンドツーエンドで認識から制御まで全てAIに任せる開発手法に変わってきている。
この変化により、車内に高性能な半導体を搭載する必要性が高まり、NVIDIAの存在感が増す可能性がある。トヨタ自動車とNVIDIAは2025年1月に提携を発表したが、2017年5月にも同様の提携を行った経緯がある。以前の提携では目立った成果がなかったため、今回も量産車への技術搭載には時間がかかる可能性が高い。
自動運転技術を一般消費者向けの手頃な価格で提供するというハードルは依然として高く、短期間でNVIDIAの半導体を搭載したトヨタ車が市街地を走るという未来は現実的ではないだろう。
ロボット産業が大きな注目を集めている。半導体スタートアップと同様に、ロボットスタートアップも非常に活発だ。最近のCES(Consumer Electronics Show)では14体のヒューマノイドロボットが展示されたが、日本企業からの出展はゼロだった。
物理的な製品を扱う取材対象としてロボットや車には特に興味が湧く。日本からもヒューマノイドロボット分野で新たな企業が登場することを期待したい。