PIVOT TALK BUSINESS
トランプ関税と自動車業界へのダメージ
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2025年4月14日

25%の追加関税が4月3日に発動された自動車産業。日系メーカーにどの程度のダメージをもたらすのか?米国市場で日本メーカーの存在感は下がるのか?ジャーナリストの井上久男氏に聞いた。 <ゲスト> 井上久男|ジャーナリスト 1964年生まれ。88年九州大卒。NECを経て92年朝日新聞社に中途入社。202...
トランプ関税ショックで日本の自動車産業はどうなる?専門家が解説する米国25%追加関税の影響
「大変なことになった」と率直に評価する専門家。アメリカ市場は日本の自動車メーカーにとって生命線であり、現在の円安水準では輸出で大きく稼いできたが、25%の関税上乗せで利益が大幅に減少する可能性がある。

Q: トランプの25%追加関税とは何ですか?
現在の2.5%の自動車関税に25%を追加する政策で、4月3日に発動が発表されました。総合関税については90日の交渉期間があるものの、自動車関税についてはほぼ確実に実施されるとみられています。ただし、日本政府による交渉次第では25%がそのまま適用されるとは限りません。赤澤大臣が担当閣僚となり、日本政府全体でアメリカを説得する方向に動いています。
Q: 自動車メーカー各社はこの発表をどう受け止めていますか?
各社とも深刻に受け止めています。現在アメリカは中国に次ぐ世界第2位の自動車市場ですが、中国市場では日本勢が苦戦している状況です。アメリカ市場は高価格車が売れるため利益率が高く、日本の自動車メーカーにとって生命線となっています。特に現在の1ドル150円近い為替水準では、日本から輸出する車は大きな利益を生み出しており、トヨタ、スバル、マツダなどは輸出で多くを稼いできました。25%の関税が上乗せされれば利益が大幅に減少し、それが株価にも反映されています。

Q: 各社への影響度合いは異なりますか?
各社への影響は様々です。金額ベースでみるとトヨタの影響が最も大きく、ゴールドマン・サックスの試算によると営業利益への影響は約3,400億円と見積もられています。トヨタは年間約54万台を日本からアメリカに輸出しており、数量が多いため金額的インパクトが大きいのです。
一方、ホンダは日本からの輸出が年間5,000台程度と少なく、日本からの輸出に対する25%関税の直接的影響はほとんどありません。ただし、USMCAの枠組みの中でメキシコからアメリカへの輸出には影響を受けます。例えばホンダはメキシコで製造したシビックをアメリカに輸出していますが、次のモデルはメキシコからアメリカに生産拠点を移す可能性があると言われています。
日産は現在リストラ計画を策定中で、アメリカの生産能力縮小を検討していましたが、今回の関税発動により戦略変更を迫られています。日産の売れ筋SUVであるローグ(日本名:エクストレイル)は現在九州工場で生産しアメリカに輸出していますが、アメリカでの生産を増やす方向に変更する可能性があります。その場合、九州からの輸出は減少しますが、おそらく国内生産の再編で対応するでしょう。例えば、現在追浜工場で生産している車種を九州に移し、追浜工場の閉鎖という選択肢も検討される可能性があります。
スバルとマツダはアメリカ市場での売上が多く、特にスバルは年間約40万台を日本から輸出していると推測され、かなりの影響を受ける見込みです。マツダも広島や山口の防府工場で生産した車をアメリカに輸出しており、大きな影響を受けるでしょう。三菱自動車もアメリカでは生産しておらず、日本とタイから輸出しているため、台数は少ないものの利益面では大きな影響があります。

Q: この関税はアメリカの自動車メーカーにとってプラスになりますか?
実はGMやフォードにとっても必ずしもプラスにはならないと考えられます。理由はいくつかあります。まず、この関税政策によってアメリカでインフレが加速し、景気が減速する可能性があります。そうなると新車販売全体が落ち込み、GMやフォードの販売も減少するでしょう。
また、GMやフォードもUSMCAの枠組みの中でメキシコで生産し、アメリカに輸出している車種があります。メキシコの人件費はアメリカの1/4程度と言われており、コスト面でメリットがありますが、メキシコからの輸入にも関税がかかれば、GMやフォードにも大きな影響が出ます。
さらに、産業構造の変化も影響しています。かつてGMやフォードはアメリカの基幹産業でしたが、現在はGAFAMのような技術企業がアメリカを代表する企業になっています。そのため、自動車メーカーのワシントンにおける相対的な地位は下がっており、政策決定への影響力も減少しているのです。
Q: アメリカ市場における競争構図はどう変わりますか?
現在のアメリカ市場ではGMがトップシェアで、次いでトヨタ、フォード、ホンダと続いています。しかし、この関税とそれに伴うインフレにより市場構造が変化する可能性があります。特にインフレが進行すれば燃費の良い車への需要が高まり、ハイブリッド車を多く持つトヨタやホンダが有利になるかもしれません。
皮肉なことに、トランプ政権が関税を導入しても、結果として市場全体が縮小し、トヨタやホンダのシェアが拡大するという「意図せざる結果」が生じる可能性もあります。すでに関税の発表以降、アメリカの長期金利が上昇し始めており、これが自動車ローンの金利上昇につながれば、販売にさらにブレーキがかかるでしょう。
Q: 日本の自動車メーカーはどのような対策を取るでしょうか?
各社とも慎重に対応を検討中です。最大の課題は時間軸です。この関税政策がずっと続くのであれば、国内生産を縮小してアメリカでの生産拠点を拡充する戦略を取らざるを得ません。しかし、4年後に政権が交代して政策が変われば、そのような投資が無駄になる可能性もあります。
例えばアメリカに新工場を建設しようとしても、用地選定から稼働開始まで早くても3年、平均では4〜5年かかります。そのため、各社は様子見の姿勢を取っています。
また、既存の生産ラインの組み替えという選択肢もありますが、例えばホンダはすでにアメリカの工場がフル稼働しているため、簡単に増産できる状況ではありません。新しい設備投資をしても、政策が変更されれば無駄になるリスクもあります。
Q: サプライチェーンへの影響はどうでしょうか?
部品メーカーへの影響も懸念されます。かつては自動車メーカーが為替や関税の影響を受けると、部品メーカーに対してコスト削減を迫るケースが多かったですが、現在は下請けいじめと見なされるリスクがあるため、そのような対応は難しくなっています。自動車メーカーがある程度コスト増を吸収するか、サプライチェーン全体で解決策を見出す必要があるでしょう。
多くの部品メーカーは自動車メーカーの海外進出に合わせて現地生産を行っています。特に大手部品メーカーは自動車メーカーが進出する地域にも一緒に進出する傾向があります。しかし、2次・3次の下請け企業は国内生産が中心で、輸出向け生産が減少すれば受注減となり、業績が悪化する可能性があります。
Q: 日本経済全体への影響はどの程度でしょうか?
ある推計ではGDPの0.8%程度の影響があるとされており、かなり大きいと言えます。アメリカ以外の国への輸出を増やすという選択肢もありますが、アメリカ市場ほどの収益性を持つ市場はなく、完全に代替することは難しいでしょう。
また、自動車産業の変化は雇用にも影響します。例えば日産の追浜工場が閉鎖される可能性が出てきた場合、雇用が減少します。一方で、日本全体が労働力不足であるため、転職先を見つけることは比較的容易かもしれませんが、個人が希望する仕事に就けるかどうかは別問題です。
Q: この問題の今後の展開について注目すべき点は?
最大の注目点は、この25%関税が実際にどのような形で実施されるかです。90日の交渉期間中に変更される可能性もありますし、来年の中間選挙までに見直される可能性もあります。日本政府の交渉次第では、関税率が下がるか元に戻る可能性もあるでしょう。ただし、その場合は代わりに防衛装備品や農産物の購入増加などの負担を求められる可能性があります。
また、5月の連休明けに各社から2026年3月期の業績見通しが発表されますが、不確実性が高いため、予想を出すのが難しい状況です。各社がどのような見通しを示すか、あるいは見通しの開示を見送るかも注目点となります。