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学歴社会はなぜなくならないのか?(前編)
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2025年3月31日

学歴不要論についての議論がなされるのにも関わらず、なぜ学歴社会はなくならないのか? 能力主義と学歴の関係とは? 組織開発コンサルタントの勅使川原真衣氏に話を聞いた。
学歴社会に疑問を投げかける「誰が学歴をありがたがっている?」
なぜ今でも学歴社会はなくならないのか。「分かっちゃいるけど」という思いを抱きつつも、子育て世代にとって無視できない現実とは?組織開発コンサルタントの勅使川原真衣氏が学歴社会の真の姿を語る。

能力ではなく「機能」の違いで社会は回っている
Q: 学歴社会はなぜなくならないのかについて考えていきたいと思います。このテーマを取り上げようと思ったきっかけは何ですか?
学歴社会について考えるきっかけは、自分自身が社会的に評価される学歴を持っていながらも、それが自分の頑張りだけでなく環境や運などの要素が大きいと感じたからです。次世代のために、もう少し多様性を認める社会を作っていく必要があると思い、あえて学歴という信じられているものに疑問を投げかけてみました。

Q: 学歴と能力主義にはどのような関係があるのでしょうか?
能力主義とは社会の配分原理だと考えています。お金も人もものも限りがある中で、納得性の高い論理で分配を説明する必要があります。近代化以降、身分制度がなくなり、「出来のいい人に多くを渡し、出来の悪い人はもらいが少なくてもしょうがない」という考え方が社会の合意になっています。
しかし能力は目に見えない抽象的な概念です。また、環境によって発揮できたりできなかったりする力があります。例えば発表する時に、先生や聴衆の反応によってパフォーマンスが変わることがあります。人は固定的に能力を持っているというより、環境次第で持ち味が出たり引っ込んだりするものなのです。
Q: 学歴主義社会の問題点はどこにあるのでしょうか?
学歴主義社会は能力の代理指標として学歴を見るという論理に基づいていますが、学歴で測るものだけがその人の持ち味として本当に良いのかという疑問があります。社会に求められる能力が一元化していることが、多様な人間に対して問題があると思います。
例えば現代ではリーダーシップや主体性、自己発信力などが重視されますが、控えめな人や慎重な人もいます。そうした慎重さがあって初めて社会は回っているのに、積極性だけが評価される能力主義は一元的であり問題だと考えています。

学歴を「ありがたがっている」のは企業
Q: 学歴を重視する主体は誰だと考えていますか?
学歴はありがたがっているのが誰なのかを考えると、それは企業です。企業が学歴を能力の代理指標として先行選抜してきた歴史があります。これは日本の雇用慣習や人材管理システムを見ると合理性があったのです。
企業を中心とした社会において、メンバーシップ型雇用では新卒一括採用が必要でした。短期間に大量の選考を行わなければならないため、効率性が求められます。このとき、頑張りそうな人かどうか、知力がありそうかを判断するのに学歴は便利だったのです。メンバーシップ型雇用ではどこに配置しても食らいついてきそうな人を採用しておけば、ジョブローテーションもしやすくなります。

Q: 日本と海外での学歴の捉え方の違いはありますか?
日本の場合はメンバーシップ型雇用なので、求める能力が特定されていません。専門性も特定できず、「頑張るかどうか」といった職務遂行能力というあいまいなもので判断してきました。これに対し、海外のジョブ型では求められる能力が明確です。
日本の問題は、何をどう努力すればいいか分かりにくいことです。職務遂行能力をアピールする方法が不明確で、学歴という幼少期からの経歴で判断されてしまいます。これは自分で選べない要素が強く、実力で勝負できる社会を目指すなら危うさがあります。
Q: 学歴社会を今後変えていくことはできるのでしょうか?
変えていきたいと思っています。ただし、教育システムが企業で評価される能力を見つけるべきだという話ではありません。むしろ企業がこれまでの採用方法に疑問を持つべきだと考えています。
仕事はいろんな機能の持ち寄りで回っています。各人が発揮しやすい機能を特定しやすい情報が学歴以外にもあるはずです。これからは人と人との組み合わせによって仕事がうまく回るような視点が必要です。
Q: 学歴と個人のキャリアの関係についてどう考えていますか?
学歴はその人の背負ってきた人生や文化的親和性などの情報の一つでしかありません。一つであって全てではないのです。仕事は一人で行うものではなく、人と人との組み合わせです。
仕事をうまく進めるには、組み合わせの精度を上げることが重要です。個人を万能化するより、様々な強みと弱みを持つ人たちの組み合わせで仕事は成り立ちます。そのための情報として学歴は一つではありますが、より良い仕事関係を構築するための情報としては弱いと思います。
Q: 学歴に頼らずに自分らしいキャリアを歩むためには何が必要ですか?
誰にでも発揮しやすい機能の違いがあります。車で例えるなら、アクセル的な人もいればブレーキ的な人もいます。これは能力の優劣ではなく、機能や持ち味の違いなのです。
仕事の解像度を上げ、個人の持ち味の解像度も上げて、そのマッチングを丁寧に行うことが日本の活性化につながると考えています。ジョブを明確にし、それぞれの役割を可視化することで、誰がどの部分を担うべきかが見えてきます。
Q: 学歴社会と福祉の関係についてはどう考えますか?
お金を労働によって稼がないと生きていけないという考えは、低福祉を肯定することにつながります。生存権は能力によらず守られるべきという考え方とは相入れない部分があります。
「生きていくためにはお金が必要で、お金を稼ぐためには能力が必要。稼げていない人はその人に問題がある」という論理は苦しいものです。頑張れる環境は人によって違います。例えば子どものうちにヤングケアラーとして生まれ育った場合、学業に充てる時間がない現実があります。本人が選んでいることが全てではないという視点が必要です。
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勅使川原氏は「学歴は個人の人生における情報の一つに過ぎない」と強調する。企業中心の社会において便宜的に使われてきた学歴という物差しを見直し、多様な機能を持つ人々がそれぞれの持ち味を活かせる社会へと変革していくことが、これからの時代に求められているのではないだろうか。