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持続可能なメディアの5つの条件
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2025年3月28日

なぜマスメディアは衰退しているのか?フジテレビ問題の本質とは何か?そして、持続可能なメディアを作るために何が必要か?ノンフィクション作家の下山進氏に聞いた。 <ゲスト> 下山進|ノンフィクション作家 コロンビア大学ジャーナリズムスクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者を...
日本のメディアはなぜ衰退しているのか?持続可能なメディアの条件と再編の行方
日本のメディア業界は深刻な転換点を迎えている。紙媒体の新聞発行部数は2000年から半減し、テレビ広告収入もインターネット広告に大きく引き離された。この状況をノンフィクション作家の下山進氏に聞いた。メディアの持続可能性がなくなっていることこそが根本的な問題であり、今後10〜20年の間に金融業界のような大規模な再編が起きる可能性も指摘する。

Q. なぜ「持続可能なメディア」をテーマにした本を執筆したのか?
上智大学の新聞学科で2018年から教えるようになって感じたことがある。メディア関連の学会やシンポジウムに参加すると、20年前と議論の内容があまり変わっていないことに気づいた。話題はエシカルイシュー(倫理的問題)に集中し、例えば現在ならブラックボックスダイアリーズの是非といった話題ばかりだ。
しかし本当の根本問題は、メディアの持続可能性が失われていることにある。新聞記者は平和や反戦に寄与すればよいという考えの人が多いが、そもそも報道をする「足場」としての経済的基盤がきわめて重要だ。
メディアが持続可能でなくなると、各社は早期退職を実施し、取材費も削減され、最終的には報道の基盤自体が崩壊する。この問題を直視せずにメディアとジャーナリズムを論じることはできない。そこで『2050年のメディア』を執筆し、その後も国内外を取材して持続可能なメディアのあり方を模索してきた。

Q. 日本のメディアはなぜここまで衰退したのか?
日本の新聞総発行部数は、2000年代に5300万部あったものが、2023年には2600万部台と半分に減少している。この変化は、2017年に文藝春秋を退社しようと考えていた私が、日本新聞協会のデータを見て愕然としたものだ。プラットフォームの成立が新聞に大きな影響をもたらしているという仮説を立て、『2050年のメディア』を執筆する決心をした。
テレビも同様の問題に直面している。2018年にはテレビ広告費がインターネット広告費を上回っていたが、翌年にはグラフがクロスし、2023年には約2兆円の差がついている。
最近のフジテレビ問題により、企業スポンサーは1ヶ月以上広告を出さない中で自社商品への影響を測定し、影響がないと判断すれば、広告費はさらにインターネットへと流出する可能性が高い。化粧品会社などは既にSNSやインターネットへと広告の中心を移している。テレビ局は100%広告費で成り立っている産業なので、今後の経営はより厳しくなるだろう。
原因はスマートフォンの普及にある。2008年にiPhoneが発売され、2010年に第4世代になると動画がシームレスに送れるようになり、スマホの普及が一気に拡大した。これによりメディアは大きく変化した。
例えば夕刊フジは2011年に編集スタッフを半減させた。かつては通勤電車で夕刊紙を読む人が多く、新橋の烏森口キオスクでは1日に1000部以上の夕刊フジが売れていたが、今ではほとんど見かけない。駅のキオスクも次々と撤退している。交通広告や週刊誌の中吊り広告も減少し、紙の時代が終わりつつある。

Q. 日経新聞はなぜ衰退を免れているのか?
2000年代に各新聞社やテレビ局はニュースをYahoo!に提供してきた。PV(ページビュー)あたり0.025円という非常に安い価格だった。これにより受け手側は「ニュースはただで読めるもの」と認識するようになり、紙の新聞を購読する必要がなくなった。また読者のブランド認識も薄れ、多くの人はYahoo!がニュースを作っていると勘違いしている。
そんな中、日経新聞は2010年に有料電子版を開始した。当時は日本に有料のデジタルニュース市場がなく、社内でも大反対があった。無料サイト「日経ネット」は約50億円の売上があったが、電子版のためにこのドメインを閉鎖することは大きなリスクだった。
しかし、無料で情報を提供し続ければ、GoogleやYahoo!との競争になる。その戦いで勝てるわけがないという判断から、日経ネットを閉じて日経電子版をローンチする決断をした。これはイノベーションのジレンマを乗り越えた例だ。
他の新聞社はそうした決断ができず、Yahoo!に記事を提供しながら紙媒体を守るという戦略を続けてきた。
日経の成功は、経済メディアだからという理由だけではない。例えば、電子版の「イブニングスクープ」はコロナ禍に10万人もの有料読者を獲得した。この時のキラーコンテンツは「データで読む地域再生」というシリーズで、人口減少が進む中でも人口が維持または増加している自治体を統計データから抽出し、記者がその要因を取材するというものだった。
また、女性管理職の比率と人口減少率の相関関係を分析するなど、経済以外のテーマでも独自のデータジャーナリズムを展開している。読者は増え、持続可能な取材活動が可能になっている。
Q. 技術革新に適応できなかった原因は何か?
技術革新に正しく適応できていないことが大きな問題だ。朝日新聞は非常に早くから「朝日コム」というウェブサイトを始めたが、長く無料で記事を提供し続けた。2000年代には新聞販売店の人が朝日コムの記事をプリントアウトして購読者に見せ、「こんなものが無料で読めるのに、わざわざ新聞を買う意味があるのか」と販売店自身が疑問を投げかけるような事態も起きた。
当時、「インフォメーション・ウォンツ・トゥ・ビー・フリー」(情報は自由になりたがる/無料になりたがる)という考え方が流行し、皆が「情報は無料で提供するべき」という考えに流されてしまった。
海外の成功例を見ると、イギリスの週刊誌「エコノミスト」は部数を伸ばし続け、現在122万部に達している。編集部スタッフはわずか200人程度で、これは日本の地方紙(30万部規模)の編集局員数と同じだ。エコノミストは1998年にウェブサイトを立ち上げた時から、紙の定期購読者だけが見られるようパスコードを発行していた。2008年には有料デジタル単体の販売を開始し、2020年5月には紙版のみの定期購読を廃止、すべての購読者にデジタルアクセスを付与している。
「英語のグローバルメディアだから成功した」という反論もあるが、ニューヨーク・タイムズはかなりアメリカ国内向けの内容でも成功している。また、日本の十勝毎日新聞(発行部数8万部の地方紙)も、日経電子版ローンチの3ヶ月後に有料電子版を開始し、現在では1万部以上の電子版契約者を獲得して持続可能な経営を実現している。
Q. 新聞・テレビ局が変革できない構造的問題とは?
新聞社とテレビ局に共通する重大な問題として、買収ができないという構造がある。これは資本主義の極端な例外だ。2007年のライブドア事件の2年後、放送法が改正され、放送局の買収が事実上不可能になった。「認定放送持株会社」という制度では、単一の株主が3分の1以上の株式を持てないと規定されている。
このため、2004年〜2005年に楽天がTBSを、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたような動きが、今では法的に不可能になっている。テレビ局は総務省から免許を受けて有料の電波を使用するという特権的地位にあり、インターネットが普及する前は誰が経営しても利益を上げやすい状況だった。
富士メディアホールディングスの役員の平均年齢は70歳を超えており、5層防衛方式(株主、総務省、スポンサー、政治家、世論)で20年間守られてきた。その結果、組織は中間管理職に至るまで硬直化している。
新聞も同様で、「新聞法」(1951年制定)により会社の定款で株式の譲渡を制限できるという例外規定がある。ほとんどの新聞社は「従業員に限る」「新聞発行に関係するものに限る」などの規定を設けており、外部からの買収は不可能になっている。
今年2月に始まったフジテレビ問題は、1998年の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」を思い起こさせる。ノーパンしゃぶしゃぶ事件後、それまで5層防衛で守られていた金融業界は規制緩和され、2000年代の金融ビッグバンで再編された。当時13あった都市銀行は現在ほぼ3つの金融グループに集約されている。
メディア業界でも同様の再編が起きる可能性がある。6月の株主総会でフジメディアホールディングスの取締役選任をめぐり、株主提案が行われるかどうかが注目される。「フジの社員が取締役につくことは不可」とする提案もあり、これが過半数の支持を得れば急速に変化する可能性もある。しかし株式の持ち合いなどにより現状維持される場合は、今後10〜20年かけて緩やかに衰退していくだろう。

Q. 持続可能なメディアの条件とは?
持続可能なメディアになるための条件は以下の5つだ:
1. イノベーションのジレンマを乗り越えられるか
2. 技術革新を適切に受け入れられるか
3. そこでしか読めない・見ることができないものを提供しているか
4. 買収が可能で横の流動性があるか
5. 前例固執を恐れないか
鳥取西部のケーブルテレビ局「中海テレビ放送」は持続可能なメディアの好例だ。1990年に地元の人々100人が100万円ずつ出資して設立され、売上は一貫して伸び続けている。
この局の成功の秘訣は「そこでしか見ることのできないコンテンツ」へのこだわりだ。地元の選挙は開票前から両陣営の選挙事務所から中継し、町議会の中継まで行う。また、国道での死亡事故が相次いだ地点を調査し、横断歩道と信号機の設置を求めるキャンペーンを展開するなど、課題解決型の報道も行っている。
技術革新への対応も素早く、インターネットが普及し始めるとプロバイダー事業を開始し、2016年の電力自由化に先駆けて「中海電力」という再生可能エネルギーによる電力会社も立ち上げた。現在はテレビ、インターネット、電力の3本柱で経営しており、広告にはほとんど依存していない。視聴者=地域住民がステークホルダーとなり、すべての報道活動が住民のために行われる構造になっている。
Q. 「週刊文春」の役割と課題は?
フジテレビの20時間会見では、自社の資金と人員で掘り起こしたニュースを発表する週刊文春の役割が浮き彫りになった。ジャニーズ事件も1999年から2000年にかけて14週にわたって報道したが、他のメディアは追随せず、名誉毀損で訴えられ、裁判で喜多川氏の性的加害が事実認定されても報道しなかった。
週刊文春はセックススキャンダルだけでなく、フジテレビと総務省の問題や、東京大学の寄付講座問題など幅広いテーマを扱っている。週刊文春の売上も減少しているが、「群れず孤立を恐れず」という姿勢を貫いている。
持続可能なメディアの例として挙げた十勝毎日新聞や中海テレビ放送、石川県の北國新聞も同じく「孤立を恐れず」の精神で運営されている。メディア組織があまりに同質的な集団になると、前提条件を疑わなくなり、創造的な報道や企画ができなくなる。
Q. 今後のメディア再編の行方は?
金融ビッグバンのようなメディアのビッグバンが起きれば、強いメディアが残り、弱いメディアは淘汰される。アメリカでも大規模な再編が起き、現在は新聞ではニューヨーク・タイムズくらいしか大きなメディアが残っていない。
この再編期間は10年から20年続くだろう。その間、ニュースピックスやピボット、スマートニュース、スローニュースのような独立系メディアの誕生は好ましい傾向だ。業界内部だけで考えるのではなく、外部との交流や流動性を高め、厳しい外部環境に適応していくことが必要になる。
焼け野原から持続可能なメディアが生まれ、それが育っていくことが日本の言論環境のために必要不可欠だ。