PIVOT TALK BUSINESS
日本の教育の最大の問題。公教育が古くて、貧しい
(229)
1.0万回視聴
2025年3月22日

不登校が34万人に達するなど、学校のあり方が問われている。今、教育が抱える最大の問題は何か?公教育をどう変えればいいのか?教育の最前線の現場と政策に詳しい、白井智子・こども政策シンクタンク代表に聞いた。 <ゲスト> 白井智子|社会企業家、こども政策シンクタンク代表 4〜8歳をシドニーで過ごし、日豪...
教育を変える「脱学校」という選択 - 子供が不登校になっても選択肢がたくさんある時代に
現在の日本教育における最大の問題点は何だろうか。そして、多くの子どもたちが不登校になる中で、どのような選択肢があるのか。子ども政策シンクタンク代表の白井智子さんに聞いた。

今の教育の最大の問題は「古さ」と「貧しさ」
Q: 教育における現在の最大の問題は何だと思いますか?
公教育の「古さ」と「貧しさ」が最大の問題だと思う。OECD諸国の中でも日本の教育予算は割合が低い状況だ。経済的に余裕のある家庭の子どもたちは、インターナショナルスクールや海外のボーディングスクールなど、様々な選択肢を見つけて伸びていける。
一方で、経済的に困難な家庭や、公教育の社会変化への対応の遅れにあまり敏感でない家庭の子どもたちは、学校に行けなくなった場合に選択肢が極めて限られている。現在34万人もの不登校の子どもたちがいるが、多くの場合、行けなくなったクラスに戻るか家にいるかの二択しかないと思われている。
しかし実際には、自分に合った教育を受ければ伸びる子どもたちばかりだ。そうした選択肢があることを知らないことが問題だと考えている。

教育方法のミスマッチ - 同じ詰め込み方が全員に合うはずがない
Q: 世界が目指している「詰め込み教育からの脱却」は本当に正解なのでしょうか?
知識の詰め込み方は子どもによって違う。私は公立教育を全否定するわけではない。ただ、私が関わってきた不登校の子どもたちの多くは、発達のデコボコを持っている子が多い。
「発達障害」という言葉を使いたくないのは、誰もが何らかのデコボコを持っているからだ。そして、知識の詰め込み方は子どもによって異なる。目から入る子、耳から入る子、書かないと覚えられない子など様々だ。
私自身は目から入るタイプだったが、学校では20回同じ漢字を書かされるといった学習方法をとっていた。それが苦痛ではなかった私はまだ良かったが、発達障害のある子どもの中には、20回書いても覚えられないタイプの子もいる。そうした個性への理解と寄り添いが、現在の学校教育では遅れている。
30~40人の子どもが同じ方向を向いて、同じ授業を聞き、同じペースで同じように理解できるわけがない。例えば算数の足し算・引き算でつまずいた子どもは、その先何も分からないまま「とにかく座っていろ」と言われる。それは拷問のようなものだ。一方、最も理解の早い子どもたちは、先生の話がゆっくり過ぎて集中できない。どの層にジャストフィットな授業が行われているのかという問題がある。

テクノロジーの壁 - Wi-Fiすら繋がらない日本の学校
Q: 個別最適化された教育を実現するためには何が必要ですか?
教育のパーソナライズ化にはお金と人材が必要だ。コロナ禍で1人1台のIT機器が整備されたが、40人が一斉にパーソナライズされた学習をしようとしてもWi-Fiが繋がらないという状況がある。これは予算がついていないからだ。
この先進国日本で、教室のWi-Fiが繋がらないという状況が発生している。かつて学校は「社会の縮図」と言われたが、今は社会のテクノロジーがどんどん進む一方で、学校が貧しいため予算が追いついていない。
先生たちは「40人を10人ずつに分けてWi-Fiに繋げる」といった対応に余計なエネルギーを使わされている。そうした状況から「やっぱり紙に書くべきだ」といった回帰的な意見も出てくる。
しかし、紙が合っている子もいれば、IT機器が合っている子もいる。科目によっても異なる。いかに子どもに合った学習方法を提供できるかが重要だ。長い目で見れば先生たちの負担も減るはずだが、現在は移行期・混沌期にある。
知られていない法律 - 選択肢は広がっている
Q: 2017年に教育機会確保法が変わったそうですが、これはどういう法律ですか?
私も法律作成に関わったが、残念ながら7年以上経った今でも世の中にほとんど浸透していない重要な法律だ。それまでの教育に関する法律は、すべての子どもが学校に通うことを前提としていた。
この法律で初めて、「学校を休む必要がある子どもたちがいる」という不登校の子どもの存在が法律に明記された。さらに、そういった子どもたちに多様な教育の場を提供する責務が国や自治体にあることも明記された。
また、そうした子どもたちをほったらかしにするのではなく、フリースクールなどの多様な学びの場と自治体が連携することも求められている。しかし、日本は法治国家であるにもかかわらず、多くの教員や教育委員会がこの法律を知らない状況だ。
そのため、今でも不登校は就学義務違反だと誤解されることがある。実際には、2022年夏には文部科学省から通知が出て、フリースクールやホームスクーリングで学んだ内容が成績に反映できるようになった。校長判断ではあるが、徐々に制度は前進している。ただ、誰もこの事実を知らないので、広く伝えていきたいと思っている。
Q: 東京などの都市圏と地方で教育の問題は同じなのでしょうか?
教育内容自体が時代遅れになっている点では共通している。現代は「答えを覚える時代」ではない。東大法学部でも「知識を入れて出す」訓練で1点の差で優劣をつけてきたが、覚えていた知識自体が今では古い。
150年変わらない教育の中で競争させることが都市では行われ、地方はそれを追いかけてきた。しかし国の教育会議でも「答えを覚えさせる教育は古い」と言われている。AIの時代、知識を覚える正確さやスピードでは人間はAIに敵わない。
答えのない時代に、自分で考えて選択し、その結果に責任を持つ能力が求められる。しかし学校では自分の頭で考えることをあまりさせず、答えを覚えることばかりを重視してきた。
現在は「個別最適な学び」が規定路線になりつつあるが、現場への浸透には差がある。特に地方に行くほど、学校以外の選択肢が少ない。不登校になってもフリースクールも塾もないという選択肢の少なさという点で、東京と地方の格差は大きい。

Q: 先生たちの疲弊状況は都市圏と地方で違いがありますか?
若い先生たちは一人ひとりの個性に寄り添って成長したいという理想を持って教職に就くが、古い「軍隊教育」のマインドの先生たちがまだ残っており、そういった人たちの声が大きい傾向がある。方向性の違いから若い先生たちの心が折れ、「学校を辞めてフリースクールに就職したい」といった相談を連日受けるようになっている。
教員不足が深刻化する中、「隣のクラスの先生が辞めたばかりで、自分が辞めると崩壊するから辞められない」という先生たちのメンタルヘルスが危険な状態だ。これからは学校を社会に開いていくことが重要になる。
都市圏では教員の質が低下していると言われることもある。公務員改革の影響で教員の給与が下がり、大阪では隣接する京都や兵庫、奈良に教員志望者が流れ、採用試験の倍率が1.1倍になるなど質の低下が懸念される。
地方では教員の社会的地位はまだ高い面があるが、新しい教育ツールへのアクセスが限られており、教員一人あたりの負担は大きい。特に部活動の運営が難しくなっているのに地域のスポーツクラブへの委託もできないなど、疲弊の仕方は違えど、全国的に教員は大変な状況にある。
Q: 少子化が進む中で、教育はどう変わるべきでしょうか?
少子化の流れは抗えないので、一人ひとりの子どもに合った丁寧な教育を提供すべきだ。子どもを合わない教育に当てはめようとすると、成績の悪さを苦にして自ら命を絶つような悲しい事例も生じている。
自分に合った教育を選択できる環境を作ることが重要で、それは必ずしも莫大な予算を必要としない。多くの保護者や子どもたちが、行けなくなったクラスに戻るか家にいるかの二択しかないと思っている現状を変える必要がある。
例えば、転校という選択肢もあるし、クラス替えだけで状況が改善することもある。人権侵害やいじめの対応ミスで被害者だけが学校に行けなくなるケースも多いが、別のクラスや学校を検討するだけでも子どもたちは楽になる。選択肢があると知ってもらうだけで、34万人という不登校の数はかなり減るはずだ。
フリースクールなどの学校外教育を選ぶ際に、経済的に困難な家庭への支援も必要だ。月5万円ほどかかるフリースクールは経済的理由で選べない家庭も多い。こうした支援は国の責務だと考える。一部の自治体では予算がつき始めているが、全国的な取り組みにしないと自治体間の格差が広がってしまう。