PIVOT TALK FOOTBALL
最強の育成型クラブ、J2水戸の監督育成戦略
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2025年3月9日

前田大然、小川航基、長谷部茂利など、数々の名選手・名監督を生み出してきた水戸ホーリーホック。なぜ水戸は育成がうまいのか?独自の育成戦略を西村卓朗GMに聞いた。 <ゲスト> 西村拓朗|水戸ホーリーホックGM 国士舘大学卒業後、浦和レッズや大宮アルディージャでプレー。2016にJ2の水戸ホーリーホック...
ベテランGMが語る!サッカークラブの監督育成と移籍戦略
水戸ホーリーホックの西村卓朗GMが語る、優れた監督が生まれる秘訣と日本サッカー界の未来。長谷部誠、秋葉忠宏など実績ある監督を輩出してきた育成術とは?クラブ経営と選手・監督の移籍金獲得という収益構造も詳しく解説します。

Q: なぜ水戸ホーリーホックからは優れた監督が輩出されるのですか?
まず大前提として、長谷部誠さんや秋葉忠宏さんが印象を作ってくれたことが挙げられます。クラブとしては、経験が少ない人材でも積極的にチャレンジする姿勢を持ち、新しい人材に機会を与えていることが一つの要因です。
監督経験が少ない人を選ぶときは全部任せるのではなく、守備に関してはクラブとして一定のフォーマットを渡します。このフォーマットの範囲内で行動してもらうことで大崩れしないベースを作っています。2011年から始まったこのシステムが土台となっています。
そして、攻撃面では各監督のアイデアを自由に発揮してもらいます。長谷部さんの場合も攻撃のアイデアに期待して採用し、守備は基本システムを守りながら彼独自の色を出していきました。
また、クラブと監督の間で多くのコミュニケーションを取ることも重要です。監督とGMの間で選手評価について常に話し合い、時には評価が異なる選手について「何を見ているのか」を問いかけることで監督の視点も鍛えられていきます。
Q: 監督と選手の評価はどのように行われているのですか?
面白い取り組みとして、試合後に監督とコーチたちに選手の評価を10点満点でつけてもらいます。海外の新聞などでよくある5.5点や6.5点といった形式で評価します。
同じ選手に対して監督、ヘッドコーチ、コーチの評価が明らかに異なることがあります。その違いについて「何を見ているのですか?」と問いかけ、議論します。これによって監督も鍛えられていきます。
GMの役割としては、選手を揃えるのが仕事であり、その選手を使って結果を出すのは監督の仕事です。両者がすり合わせていくために、監督がどういうサッカーを志向しているか、どういう選手を望んでいるか、どの選手にどういうことを期待しているかなど、多くの会話が必要です。
選手の時代には監督が何を考えているかあまり分からなかったので、そこをもっと風通しよくするため、監督と選手の間に入り、互いに誤解が生じないようにする役割も担っています。

Q: 監督との間で意見の食い違いはありませんか?
喧嘩をすることはありませんが、意見がずれることはあります。長谷部さんが監督だった時期は、クラブとしても大変な時期でした。
監督が欲しい選手と、クラブの予算で取れる選手にギャップがあることもありました。当時は中国国籍の選手を獲得して相手クラブから育成費用をもらうなど、資金を作るための取り組みもあり、長谷部さんには我慢してもらったと思います。
GMの役割は、監督をサポートすることです。シーズンが始まったら評価者というよりも、一緒にチームを良くしていく姿勢で接しています。監督が本来の仕事に集中できるよう、面倒な業務は可能な限り引き受けるようにしています。

Q: クラブのサッカーの型や哲学はどのように形成されるのですか?
サッカーサイドを統括する役割として、クラブのサッカーを形成していきます。クラブのサッカーには「フットボールフィロソフィー」があり、その下に「プレイモデル」、さらに「ゲームシチュエーション」(特定の展開での対応)があります。この下に各ポジションの選手のプロファイリングが続きます。
これらを全部一括して作る人もいますが、水戸ホーリーホックの場合は、過去数年のサッカーを編集していく中で、哲学やプレイモデルを現場と一緒に作り上げています。
クラブのサッカーはだんだん定義されてきています。2007〜2008年頃に「フットパス」というクラブのサッカーを定義する会社の評価を受け、「何を目指すのか」「それはなぜか」という根本的な問いから始めました。地域性などをSWOT分析しながら、クラブの強みを明確にしています。
Jリーグのアカデミーはこのプロセスを実施していますが、トップチームにどこまでつなげていくかは今後の課題です。横浜F・マリノスがシティグループの傘下に入ったことで特定のサッカースタイルが導入されたように、各クラブが徐々に色付けをしていく段階にあると思います。

Q: 移籍金収入はどのように獲得していますか?
クラブの収入源としては、広告収入が1番、次に分配金(放映権)、チケット収入、アカデミー会員とグッズ売上があります。これに移籍金収入をどう組み込むかが重要です。
我々はドイツ2部のハノーファーと提携し、松田隼人選手を送り出しました。ヨーロッパ市場に出ると選手の価格が変わります。J1クラブへの移籍よりも高額な移籍金が期待できます。
また監督の木森大輔がアルビレックス新潟に引き抜かれた際も移籍金を獲得しました。日本では珍しいケースですが、監督やスタッフの移籍金という考え方も広がりつつあります。
従来、選手の移籍金は年俸1年分が相場でしたが、それを変えていく取り組みをしています。選手に対して研修、個別トレーニング、栄養指導など付加価値を付けているため、それに見合った移籍金を求めています。世界的に移籍金が上がる傾向があり、日本でもその流れに変わっていくでしょう。
Q: 日本サッカー界の将来についてどのような展望がありますか?
日本サッカー協会の強化部会とJリーグのフットボール委員会に所属しており、日本サッカーの未来について議論しています。
現在の重要な流れは海外への選手輩出です。これは止めるべきではなく、カタールワールドカップでも日本代表の約8割が海外組でした。その流れを受け、若い才能を早く伸ばすためのU21リーグが2026年から始まります。
これは久保建英選手や堂安律選手が16〜17歳でJリーグデビューした経験から逆算した取り組みです。彼らのようなバケモン級の選手を早くストレッチさせることが必要と考えられています。
理想的なサイクルは、若い選手が成長してヨーロッパに渡り、ワールドカップを迎える頃には4〜5年の海外経験を積んだ25〜26歳の選手が増えることです。さらに、ヨーロッパでの経験を積んだ30代の選手が日本に戻ってきて、Jリーグを盛り上げる。その選手たちが18〜19歳の若手を指導する好循環を作りたいと考えています。
このサイクルを支援するため、シントトロイデンのような日本資本の海外クラブが増えることは、若手選手がヨーロッパに挑戦する入り口として重要です。GMやSDが選手のキャリアをサポートし、選手たちは適切なタイミングでJリーグに戻ることで、日本サッカー全体が発展していくでしょう。

Q: U21リーグの意義と課題は何ですか?
U21リーグは2026年からJリーグが立ち上げる予定です。U18の育成世代と、いきなりプロになる間の橋渡しの役割があります。
日本では高校・大学経由でプロになる選手も多いですが、特に優れた10代の選手を早期に伸ばす「エリートシステム」として機能することが期待されています。
課題としては、U18のプレミアリーグに降格制度があるため、クラブが有望選手をU21に上げずに残す懸念があります。ドイツでは今シーズンから降格制度をなくしましたが、日本でもそういった制度改革が必要かもしれません。
また、育成カテゴリーの監督がどう評価されるかも重要です。勝つことだけを求められると選手育成がおろそかになる可能性があります。サッカーの内容や若手起用など、クラブの理念をどう伝えるかがGMやSDの役割です。