
令和のミスター円からアジア開発銀総裁へ。トップ官僚の仕事
若手に贈る、令和のミスター円・神田眞人からのメッセージ
社会を自分の手で変えることができる喜び。それが官僚という職業の醍醐味だと語る神田眞人氏。国際舞台で活躍してきた彼の目に映る現代日本の若者たちと、彼らに期待することとは。

Q: 神田さんは今の若者をどう見ていますか?
今の若者は非常に純粋で、私たちの世代よりもピュアな人たちが多いと感じています。ただ、少子化の影響で競争が少なくなっていることが気になります。グローバルな競争環境の中で大変だとは思いますが、ハングリー精神やアニマルスピリッツをもう少し日本社会が取り戻してもいいのではないでしょうか。
世の中が大きく変わっているため、リスクを取ることが重要です。リスクを取るためには勉強が必要で、様々な人の話を聞くことも大切です。かつての日本のように、30年間成長せず賃金も上がらない時代であれば、リスクを取らないことも合理的かもしれませんが、今は世の中が急速に変化しています。座して死を待つようなことになってはいけません。
Q: 若い世代に伝えたいことは何ですか?
若い世代は非常に恵まれていると思います。多くの人が悲観的に考えているかもしれませんが、私から見ると今の時代は可能性に満ちています。
私たちが社会人になった頃はバブル期で、物質的なものに囚われ、真面目に生きていない人も少なくありませんでした。真面目なことをやろうとしても相手にされなかった時代です。今はそうではなく、みんなが新しいものを求めて期待しています。
確かにリスクは高まっていますが、社会が流動化していることで新しい機会も無限に広がっています。それをつかむのは本人次第です。きちんと勉強して努力すれば、小さなことでも何かを変えることができます。それは自分自身の成長かもしれませんし、周囲の人を幸せにすることかもしれません。職場への貢献、地域社会、日本、世界、人類共同体への貢献など、様々な形があると思います。ポジティブな価値を生み出せる機会があり、それを追求することで人生は楽しくなります。そのためには勉強が必要で、多くの人の協力を得るために人間的な知性を磨き、人脈を広げることが大切です。
ぜひ前向きに、無限に広がる機会を認識して、楽しんでほしいと思います。


Q: 日本の若者の内向き志向についてどう考えますか?
残念なことに、日本の若者が以前と比べて内向きになっている傾向を感じます。職場の流動性が高まってポンポン会社を変わるのは良いことだと思いますが、留学生や研究者の海外志向が減っているのは、日本の文化とは異なる内向的な方向性だと思います。
日本は歴史的に見ても、奈良・平安時代に中国から多くを学び、独自の素晴らしい文明を築きました。また明治維新の前後には、まだ辞書もない時代に多くの若者が海外へ行き、最先端の知見を得て日本に最先端の社会を構築しました。愚かな戦争をした後も、敗戦から立ち直り、英語ができなくてもアメリカ大陸に進出して立派な企業を作り上げてきました。
日本はもともと強いオープンで先を見据えチャレンジする国のはずなのに、今は少し内向きになっているように感じます。もっとオープンになれば、海外から多様な人材が来ることで、新しいイノベーションや社会の強化がもたらされるでしょう。少子化対策としても効果的です。
Q: 国際機関のトップと話す際、共通しているものは何ですか?
海外のCEOや政財官界の要人と付き合う中で共通していることは「教養」です。皆さんいきなりビジネスの話はしません。ここ数年で特に多く議論されていたのはAIについてです。科学者だけでなく、ビジネスマンや国際機関のトップも、AIの便利さや様々な人々のアクセス向上といった利点を認めつつも、潜在的な危険性について熱心に議論しています。
例えばAIによって人間が考える能力を失う可能性があります。私自身、ワープロの登場で漢字が書けなくなり、計算機やエクセルの登場で暗算ができなくなった経験があります。AIで自分で考えることをしなくなれば、人間の存在意義が問われます。機械や独裁者の奴隷になる可能性も高まりますし、人間が自らの運命をコントロールする能力を失うリスクも指摘されています。さらには事故や悪用のリスクもあり、一歩間違えれば人類を破滅させる危険性もあります。
このような議論をする際、彼らは歴史や哲学の観点から語り、様々な宗教的パースペクティブも持ち出します。多様な考え方を認めつつも、対立を避けるために新しい考え方を模索する姿勢が印象的です。

Q: アジア開発銀行総裁としての抱負を教えてください
アジア開発銀行の総裁としては非常にチャレンジングな状況だと認識しています。気候変動の問題に出口が見えないほか、貧富の格差が拡大し、地政学的緊張も高まっています。しかし、その難しい状況だからこそ、国際機関のメリットを活かしたいと考えています。
アジア開発銀行には4000人の専門性の高いスタッフがいます。各分野のトップレベルの技能を持つ人々の知見を頼りにできます。また、各国との関係も非常に良く、「最も信頼されるパートナー」と評価されています。かつて世界銀行は「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる教科書的な政策を押し付けがちでしたが、アジア開発銀行はアジアの国々と長年パートナーシップを築いてきた実績があります。
さらに、地域開発銀行の中でも資金力が世界銀行に次いで大きいという強みもあります。これらのリソースを活用して、貧困削減から地球規模の問題解決まで、できることを全力でやっていきたいと思います。
Q: 中国とどう向き合っていきますか?
中国も重要な株主です。アメリカも中国もインドも株主であり、さらに台湾も加盟国です。正直言って難しいかじ取りが必要だと思います。
基本的に総裁はポリティカルニュートラル(政治的に中立)でなければならないと設立協定に明記されています。中国との関係では、グローバルな問題、特にネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)などの分野で中国の協力が必要です。中国の取り組みを支援することは、日本を含めた世界にとって良いことだと考えています。
Q: 若手のモチベーションを上げるためにどのような工夫をしていますか?
今の若い世代は、ただ早く帰りたいというよりも「バカバカしい仕事をしたくない」という意識が強いと感じます。自分が成長できる、みんなが喜んでくれる、社会が良くなるような仕事であれば、彼らは決して逃げません。私たちよりもモラルが高い印象さえあります。
そのため、無駄な仕事を徹底的に削減する一方で、やりがいのある仕事の機会を提供することが重要です。若手自身も自分でそういった機会を見つけるべきですが、私たち上司もそのような環境を作る必要があります。
また、一生懸命勉強や調整をしても成果が出なければ誰でもモチベーションが下がります。だからこそ成功体験を作ることが大切で、上司が背中で示すことも重要です。全てが成功するわけではありませんが、時々素晴らしい「メイク・ディファレンス」(変化を生み出すこと)ができれば、若手は喜んでついてきてくれますし、自分たちも頑張ろうという気持ちになります。
Q: 官僚になることの醍醐味は何ですか?
社会をよくすることができるという点が最大の醍醐味です。チャレンジングな状態、新しい問題、複雑な問題、グローバルな問題に取り組むことができ、そのような仕事は官僚でなければアクセスできないことも多いです。
難しい状況の中で苦労するよりも、その土俵自体を変えることができるのが官僚の魅力です。多くの場合、その土俵は合理的ではなく、不公平であったり、既得権益、一部の人たちによる搾取の場となっていることもあります。それを自
分の手で変えることができるのは素晴らしい機会だと思います。
また、現在は昔よりも政策を動かしやすくなっています。社会が流動化しており、課題解決を国民が求めているからです。みんな「これまで通りではダメだろう」と理解し始めています。そこで効果的な解決策を勉強し、様々な人と調整して提案し、政治的な判断が必要な場合は決断を仰ぎ、効果的に実施していく。そして実際に人々が幸せになる姿を目にすることができるのは大きな喜びです。
Q: もし今20歳だったら何をしたいですか?
もし今20歳だったら、幅広く勉強したいと思います。世の中がここまで変化している中で、ゼロから今後の世界がどうなっていくのかを、宇宙論から始めて様々な分野を勉強したいという気持ちがあります。