EXTREME SCIENCE
なぜ皮膚は痒くなるのか
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2025年2月14日

今回ゲストは皮膚科学者で京都大学教授の椛島健治氏。皮膚研究だけでなく皮膚科医としても経験豊富な椛島氏がたどり着いた皮膚の秘密とは。 <ゲスト> 椛島健治|皮膚科学者 博士(医学)。京都大学大学院医学研究科 教授。 京都大学医学部を卒業後、横須賀米海軍病院、ワシントン大学医学部附属病院などを経て20...
「皮膚は立派な臓器」皮膚科学者が語る人間の身体の秘密
皮膚は人間の体の中で最も親しみのある臓器であり、私たちの自己と他者を区別する境界線でもある。本当に多くの機能を持ち、健康と密接に関わっているにもかかわらず、その重要性はしばしば見過ごされている。皮膚科学者で京都大学教授の椛島健治氏に、皮膚の不思議と正しいケア方法について聞いた。


皮膚は単なる皮ではなく、体の中で最大の臓器
Q: 皮膚は臓器と言えるのでしょうか?
皮膚は間違いなく立派な臓器だ。臓器の定義は「異なる組織が集まり、特定の役割を果たすもの」であり、皮膚はこれに完全に当てはまる。胃が食物を消化・吸収する役割を担うように、皮膚にも外部からの物質を排除したり、汗や皮脂を分泌したりする役割がある。
また、体の16%を占める皮膚は、体の表面積で見れば最大の臓器だ。皮膚科で扱う疾患も約2,000〜3,000種類あり、これは他の診療科と比べても非常に多い。
かゆみの正体と対処法
Q: かゆみはなぜ起こるのでしょうか?
かゆみは本来、生体の防御機構として存在する。虫やダニなど、体に付着した不要なものを取り除くための信号だ。特に冬場は空気が乾燥し、皮膚のバリア機能が低下する。バリア機能が弱まると、外部からの刺激に対して皮膚がより敏感になり、かゆみを感じやすくなる。
特に皮脂腺が少ない足や手などは乾燥しやすく、冬場にかゆみを感じることが多い。しかし、かゆみには様々な種類があり、蕁麻疹のかゆみとアトピー性皮膚炎のかゆみでは発生メカニズムが異なる。
かゆみを軽減するためには、皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を保つことが重要だ。過度に皮膚を洗いすぎないこと、適切な保湿剤を使用することが効果的である。


清潔すぎることの弊害
Q: 清潔にしすぎることで皮膚によくない影響はありますか?
過度な洗浄や消毒は、皮膚のバリア機能を低下させる恐れがある。例えば、コロナ禍での頻繁な手洗いやアルコール消毒により、手が荒れてしまう人が増えた。
皮膚には角質層という薄い層があり、これがバリア機能として非常に重要な役割を果たしている。お風呂で体をこすると出る垢は角質だが、これを洗うたびに取り除いてしまうと、バリア機能が低下してしまう。また、皮膚の上には皮脂膜という油の層があり、これも保護機能を担っている。過度な洗浄でこれらを取り除くと、皮膚の保護機能が弱まる。
基本的には、石鹸を使わなくても十分清潔を保てることが多い。必要なのは皮脂が多く出る部位(顔のTゾーン、脇の下、股間など)だけで、それ以外の部位は水で洗い流すだけでも十分だ。人間の体は本来そこまで不潔ではないのだ。
皮膚と微生物の共存関係
Q: 皮膚の上にはどのような微生物がいるのですか?
皮膚の上には膨大な数の細菌が存在している。これらの細菌は必ずしも害をなすわけではなく、私たちと共存関係にある。腸内細菌と同様に、皮膚上の細菌も私たちに様々な良い影響を与えている。
これらの細菌は互いに牽制し合うことで、悪い菌が増殖するのを防いでいる。そのため、無理に皮膚を清潔にしようとしてアルコールやイソジンで消毒すると、この共存関係が崩れてしまう可能性がある。

ステロイド薬の正しい使用法
Q: ステロイド薬は危険なのでしょうか?
ステロイド薬は正しく使えば、メリットが圧倒的に大きい。特にアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患に対して効果的だ。確かにステロイド薬には皮膚を薄くする、毛細血管を拡張させるなどの副作用がありうるが、適切な強さの薬剤を適切な部位に使用すれば、リスクは最小限に抑えられる。
問題なのは、「ステロイドは絶対に使ってはいけない」という誤った情報によって、必要な治療を受けずに症状が悪化するケースだ。医師と相談しながら、自分の症状に合った適切なステロイド薬を使用することが重要である。
食物アレルギーと皮膚の関係
Q: 食物アレルギーと皮膚にはどのような関係がありますか?
一般的に食物アレルギーは食べ物を摂取することで起こると思われがちだが、実は皮膚からの感作(アレルギー反応が誘導されること)も重要な要因だ。例えば、ピーナッツアレルギーは、必ずしもピーナッツを食べることで起こるわけではなく、家族がピーナッツを食べた後に空気中に散らばったピーナッツの粒子が皮膚に付着することでも感作される可能性がある。
口から入るものに対しては、体は基本的に免疫寛容(異物に対して免疫反応を抑制すること)の状態になるが、皮膚から入るものに対しては、不要なものとして排除しようとする。そのため、食物アレルギーの予防には、適切なスキンケアも重要となる。
美白と紫外線対策の科学
Q: 美白の科学的根拠はあるのでしょうか?
美白に関する科学的な定義はまだ確立されていないが、肌の色が白いことは適切な紫外線対策ができていることを意味する。エイジングには避けられない自然なエイジングと、紫外線によって引き起こされるフォトエイジングの2種類があり、後者は予防可能だ。
紫外線を浴びることで得られる利点はビタミンDの生成くらいで、それ以外はほとんどない。紫外線はシワやシミを増やし、皮膚がんのリスクを高める。日焼け止めの使用や日傘の利用は、皮膚の健康を守るために有効な方法だ。
透明感のある肌とは、水分を十分に含み、紫外線による損傷が少なく、シミやシワの少ない状態を指すと考えられる。年齢とともに皮脂腺の分泌量は減少し、肌は乾燥しやすくなる。また、紫外線に当たるとくすんだ色になりやすい。
皮膚ケア製品の選び方
Q: 効果的な皮膚ケア製品の選び方はありますか?
化粧品業界では客観的な効果検証が不十分なことが多く、価格が高いほど効果が高いという思い込みも存在する。製品選びでは、自分自身で比較実験を行うことが有効だ。
例えば、左右の腕や顔の半分に異なる製品を使い、一定期間後に効果を比較するという方法がある。皮膚は左右対称な臓器なので、このような比較実験が可能だ。この方法で自分に合った製品を見つけることができる。
皮膚と免疫系・がん研究の最前線
Q: 皮膚は免疫研究やがん研究にどう貢献していますか?
皮膚は免疫研究の最前線だ。私たちの皮膚は常に外部からの様々な刺激(ウイルス、バクテリア、カビなど)にさらされており、それらを排除するために複雑な免疫機構を発達させてきた。アトピー性皮膚炎などの疾患は、この免疫機構が過剰に反応した結果として現れる。
また、皮膚がんの研究はがん免疫療法の発展に大きく貢献してきた。オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤が最初に効果を示したのも、メラノーマ(悪性黒色腫)に対してだった。皮膚がんは外部からの刺激(特に紫外線)によって発生しやすく、多様な変異を持つため、免疫系に認識されやすい特徴がある。
さらに、皮膚がんは目に見える場所にあるため、治療効果の評価が容易であり、研究を進めやすいという利点もある。皮膚科学の進歩は、がん治療全般にも大きな影響を与える可能性がある。
皮膚と心の関係
Q: 皮膚と心理的な状態には関係がありますか?
皮膚と心は密接に関連している。ストレスによって皮膚がかゆくなったり、吹き出物ができたりすることがある。また、朝起きて鏡を見たときに肌の状態が悪いと気分が落ち込むように、皮膚の状態は気分にも影響する。
特に重度の皮膚疾患や脱毛症などがある場合、社会生活に支障をきたし、心理的な問題につながることもある。皮膚と心の関係(精神皮膚科学)はまだ完全には解明されていない分野であり、今後の研究が期待される。
皮膚は人間の自己と他者を区別する境界であり、「肌が合う」という表現にもあるように、人間関係やコミュニケーションにも深く関わっている。皮膚を通じた触れ合いは、特に乳幼児と母親の間の絆形成に重要な役割を果たしている。
まとめ
皮膚は単なる体の覆いではなく、複雑な機能を持つ最大の臓器だ。外部環境から体を守るバリア機能、免疫機能、感覚機能など、多岐にわたる役割を果たしている。日々の生活の中で、過度な洗浄を避け、適切な保湿を心がけるなど、皮膚を大切にすることが全身の健康にもつながる。
皮膚は私たちの体の中で最も親しみのある臓器であるにもかかわらず、その重要性は見過ごされがちだ。皮膚をただの皮と考えるのではなく、重要な臓器として認識し、適切にケアすることが大切である。