9 questions
森岡毅に9つの質問。情熱トーク100分
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2025年2月1日

沖縄の新テーマパーク「JUNGLIA」を7月にオープンすると発表した刀の森岡毅氏。JUNGLIAはどんなコンセプトで作ったのか?ヒットを産むためのポイントは何か?そして今後、テレビ・YouTubeなどのメディアをマーケターはどう活用すべきか?9つの質問を森岡氏に投げかけた。
「やりたいことには挑戦した方がいい」森岡毅氏が語る日本の未来
夏に沖縄でオープンするジャングリアの成功を目指す森岡毅氏が、トランプ政権、メディア環境の変化、マーケティングの真髄について語った。「日本人としての誇りを持つものはいっぱいあり、日本の未来はまだ捨てたものではない」と語る森岡氏の言葉から、これからの時代を生き抜くヒントを探る。


Q. トランプ政権の再誕が世界経済に与える影響をどう見ていますか?
トランプ政権下ではアメリカが内向きになり、様々な政策が右寄りになることは確実です。リベラル派が進めてきた政策に対して保守的な揺り戻しが起こるでしょう。しかし、人間の本能は変わらないと見ています。アメリカの利害関係を確信し、彼らがどこを取りに来るのかを見極めれば、それに見合う交渉条件を準備することで日本は外交的な問題をディールできるでしょう。
トランプは交渉において、まず大きく出て相手を怯えさせ、狙ったところに着地させるという手段をよく使います。インテリは「予測できないこと」に弱いものです。賢い人ほど先を予測して自分の行動を規制しているため、相手が予測不能な行動に出ると混乱します。トランプ陣営はこれをうまく利用しています。
世界経済を牽引しているのはトランプ政権そのものよりも民間の方が圧倒的に大きいです。世界の消費者の本能は変わっていないので、慌てず、世界の消費者に対してより付加価値の高いものを生み出せるかということが問われています。トランプ政権は4年間ですから、あまり怯える必要はないと思います。

Q. 現代のメディア環境の変化についてどう捉えていますか?
テクノロジーの進歩により、人間の本能をよりダイレクトにつく方法が可能になってきました。AI時代になるともっと先鋭化されるでしょう。人々は限られた情報にしかリーチしなくなります。これは外食ばかりしていると体を壊すのと同じです。
カスタマイズされた情報ばかり当てられると、例えばトランプ支持層はトランプを支持させるような情報しか届かなくなります。マスメディア時代と今の違いは、カスタマイズされた情報が人を情報のサイロに追い込む構造にあります。知的に恵まれた人たちは様々な情報で自分でバランスを取る術を知っていますが、そうでない人、あるいは「自分は特別だ」と思い込みたい心の隙間をついたことで、選挙結果が動かされることは今後も頻発するでしょう。
AIの時代ではこれがもっと戦略化され、カスタマイズされた世界の中で直接物を売るという行為が起こります。テクノロジーが人の本能をむき出しにしている時代に突入しているのです。これは大きなリスクを背負いますが、規制するのはもっと悪いことです。むしろカウンターバランスを取る、信用力のあるメディアが力を持つことが必要です。バランスの取れた食事が長期的には一番健全なように、バランスの取れた情報環境が重要なのです。
Q. テレビなどの従来型メディアの未来はどうなりますか?
テレビという媒体自体がオールドメディアと言われていますが、テレビの価値や良さはあると思いますし、残ると思います。テレビ業界の苦労は、コンテンツを作る能力を外注してしまったことに一因があります。
世の中の変化を理解するには、人が物を選ぶときの脳の構造を理解する必要があります。脳は大きいところから選びます。例えばジャイアンツ戦を見たいという前に、その人は娯楽を選び、次にスポーツというジャンルを選び、野球というサブカテゴリーを選んでからジャイアンツを選んでいるのです。脳は8チャンネルや10チャンネルから選ぶよりも、自分の好きなカテゴリーやブランドから選びたいのです。
アメリカではすでにカテゴリー別に専門チャンネルがあります。ニュース専門、スポーツ専門など、カテゴリーをブランドにしているのです。世界はそちらの方向に進化していくでしょう。
メディアという大きなカテゴリーは、私の考えでは3つの本能に分かれます。1つ目は「情報を求める本能」で、これは生存確率を上げるために世の中で動いていることを知りたいという欲求です。2つ目は「娯楽を求める本能」で、人間は暇を持て余すことを嫌います。3つ目は「井戸端会議の本能」で、共同体の中での自分の立ち位置を確認したいという欲求です。
テレビは情報報道系のところで圧倒的なコンテンツを作り出す能力があるはずなのに、当たり障りのないことしか言わない自主規制に陥っています。本当に「知りたい」という本能に刺さるコンテンツを作り出し、そこのリスクをある程度取れば、情報報道系ではテレビは勝てると思います。娯楽の分野でも、制作費をかけて面白いものを作る能力があれば勝てるでしょう。
テレビ局は「コンテンツクリエイションプロダクション」という強さを取り戻すべきです。タレントブッキングのような部分での能力を内側に保持するのではなく、本当の強みを再定義して頑張ってほしいと思います。
Q. マーケティングの観点からテレビとYouTubeはどう使い分けるべきですか?
認知媒体としての価値では、1インプレッションあたりのYouTubeの獲得流入効率は34%ほど良いです。特に若い世代ではYouTubeの方が効率が良いです。また、YouTubeの方が検索してランディングページに近いところでコミュニケーションが取れるという構造的な有利さがあります。
しかし、マーケターは目的別に何でも使いこなすべきです。以前「水軍、陸軍、空軍、どれでもうまく使いこなす」という言葉がありました。自分がどの兵力を使うのが得意だからそこでプレイするというのは良くありません。将棋でも、桂馬を使うのが大好きな人は桂馬を動かすためにプレイしているようなもので、そういう人は強くないのです。目的に応じてどの戦力であれ臨機応変に使いこなすのが理想です。
YouTubeはYouTubeの良さがあり、テレビはテレビの良さがあります。若者にリーチする媒体としてはYouTubeの勢いは増していますが、例えば主婦層にリーチする場合や、全人口をバランス良く狙いたい場合には、テレビも効果的です。テーマパークのような商材では面を稼げるメディアも重要です。
テレビコンテンツが若者に見てもらえなくなっているという根本的な問題に対しては、自分たちが作るクリエイティブやコンテンツに視聴者がつくのかという観点で見直す必要があります。YouTubeでも同様で、これはフォーマットの戦いではなく、コンテンツの戦いなのです。
Q. マーケティングコンセプトとは何ですか?また強いコンセプトを作るには?
この本で言っているコンセプトはほとんどイコールブランドです。人間の脳は頭の中で得た情報から概念を生み出します。これは脳の解釈です。脳は細かいことを考えたり覚えておいたりするのが苦手なので、いろんな情報が入ってきた中から「これってこういうことなんだ」と丸める作業をします。
ある対象に対して脳が作り出してまとめたアウトプットがコンセプトです。消費者が選ぶ対象について消費者の脳が生み出したコンセプトをブランドと呼んでいます。マーケターはこれを直接作ることができません。消費者の脳にこのブランドを作らせるためにどんな情報を入れればいいのか、そのために入れる情報のことをマーケティングコンセプトと言います。
マーケターは消費者の脳に直接書くことができない。消費者の脳に望む絵を書いてもらうために、どうやって消費者の頭の中の「画家」に何という情報を入れればいいのかを考えるのです。
強いコンセプトを作るために最も重要なのは消費者理解です。強いコンセプトは消費者理解が全てで、9割ではなく10割です。消費者の本能がどこにあるのかを理解しなければなりません。
例えばUSJでは、「行っても裏切られない、行ったら確実に楽しませてくれる安心感」という「鉄板感」を消費者の頭の中に植え付けたかったのです。テーマパークは楽しませてくれるに違いないという鉄板感がないと選ばれません。そこで「世界最高をお届けしたい」というコミュニケーションを何年も続けました。スピルバーグに「すごい」と言ってもらう広告を作り、奉仕目線でコミュニケーションすることで、「世界一かどうかわからないけど、世界レベルのパークなんだろうね」というコンセプトを作り上げたのです。

Q. ターゲットを広げることが重要だという考えについて教えてください
フィリップ・コトラー先生のターゲティング理論には、数学的に間違っている部分があります。ターゲティングするのは当然ではなく、消極的な選択であるべきです。ターゲットを狭めると効率が上がるような錯覚がありますが、実際には効率は落ちます。
なぜなら、狭めるとフリークエンシー(使用頻度)も下がるからです。ペネトレーション(浸透率)とフリークエンシーは、プレファレンス(好意度)が決まれば自動的に決まります。プレファレンスが大きいと必然的にペネトレーションもフリークエンシーも大きくなり、プレファレンスが小さいと両方とも小さくなります。
例えば、ジビエのレストランを出す場合、「ジビエが好きな人だけに絞り込んで売れ」というアドバイスは間違っています。ジビエを好きな人でさえ、牛肉や鶏肉の方をよく食べています。23人に絞り込んだ方が効率が良くなるターゲットなど存在しないのです。
できる限り広げる努力をする中で、どうしても狭めなくてはいけなくなることはありますが、デフォルトは広げることを考えるべきです。そうすれば、広げられたかもしれないホームランを打つチャンスを逃しません。
ただし、広げると曖昧になり、特徴を持たせると好き嫌いが出て自然と狭まります。例えば、あるコンセプトの強さが50で、マーケットが半分になってしまうオプションと、強さが60でターゲットが半分になるオプションでは、強い方を取るべきです。しかし、70の広さで同じ50の強さが担保できるなら広い方を取るべきです。
最初から絞り込もうと思って考えると、広さと強さの両方を兼ね備えたコンセプトを見つけられない可能性があります。ブランドの設計は長期的に考え、できるだけ広い範囲の人にカバーできる便益を、より普遍的な本能に刺さるよう作るべきです。
Q. ジャングリアのコンセプトはどのように作られたのですか?
ジャングリアは単なるテーマパークとしてではなく、「沖縄旅行を最高の旅行に変えるためのテーマパーク」という装置として設計しました。沖縄に来る人は旅行で人生に爪痕を残したいと思っています。旅行は通常、自分の人生で最も大切な人たちと行くものです。その旅行を最高にするというテーマで考えました。
3つの本能に刺すよう設計しています。1つ目は「贅沢を求める本能」です。旅行に行った時、多くの人はいつもよりちょっと贅沢をしたいと思います。これは社会階層の中で自分が生存確率の高い方の人間であることを確認したいという本能です。ジャングリア内には高級南国リゾートのような贅沢さを備えています。
2つ目は「興奮を求める本能」です。旅行では少しはしゃぎたい、普通しないことをして思い出にしたいという願望があります。ジャングリアでは大自然の中で味わえる特別な興奮を提供します。例えば、最新のアニマトロニクス技術を駆使したリアルな恐竜が追いかけてくる体験など、他では味わえない興奮を用意しています。
3つ目は「解放感を求める本能」です。大絶景をあらゆるところで楽しめるよう設計されています。沖縄の青い空と高い空、独特の植生を持つジャングルの中に没入感を得られる環境を作りました。
これらの本能に刺さる体験を、「沖縄でのジャングリア」でしか味わえないものとして提供します。このプロジェクトは単に沖縄のためだけではなく、日本の観光産業の未来を変える挑戦でもあります。成功すれば、このモデルを世界展開し、日本のコンテンツを活かした新しいエンターテイメント産業を築く可能性があります。

Q. 日本の未来についてどう考えていますか?
2025年は日本が変わり始める年になるのではないでしょうか。あらゆる業界でティッピングポイントに来ていると感じています。変化を止めようとする力もありますが、危機感から、あるいは様々なメディアの勃興で人々の意見が変化を起こすことが増えています。
しかし、政治が何かしてくれるのを待つのではなく、それぞれが本当の価値を生み出す方向に進むべきです。世の中は生まれつきや環境によって様々なことが決められていて、成功も多くは運によるものです。にもかかわらず、成功した人は自分の努力のおかげだと思い込みがちです。
実際には、誰もが得意なことや世の中に貢献できる能力を持っています。その能力は自分のおかげではなく、むしろそれを世の中に対して発揮するのは使命と言えるでしょう。自分の持っている能力を、自分以外の誰かの力になるよう役立てる視点で考えると、やるべきチャレンジが見えてきます。
かつて誰が本気で車を作ってアメリカに立ち向かう日が来ると思ったでしょうか?今、私たちはジャングリアというプロジェクトに挑戦していますが、確証があるわけではありません。しかし、自分たちの力や経験は自分たちだけのものではなく、世の中に役立ててこそ意味があると思うから挑戦するのです。
日本の未来をもっと明るくするためには、より良い価値を生み出すために死に物狂いで考える人が増える必要があります。特にホワイトカラーの世界では、昨日と今日で何の価値を生み出したか答えられない人が多すぎるから日本は停滞しているのです。新しい価値を生み出すために本気でやらなければいけません。
政府や上の世代のせいにしても仕方ありません。我々が新しい価値を生み出し、面白いことを始めたり、人が喜ぶことをやろうと突き詰めれば、勝手に日本は成長し始めるはずです。成長とは新たな価値が生まれることです。一度しかない人生、やりたいことには挑戦した方がいいでしょう。バットを振る人が増えれば、日本の未来は明るくなります。