
トランプ2.0と米国株の行方。ベストシナリオとワーストシナリオ
トランプ政権2.0で米国株はどう動く? 経済政策と市場の見通し
トランプ政権が再び始動し、米国経済と株式市場の行方に注目が集まっている。「アメリカファースト」を掲げる政策は、今後の株式市場にどのような影響をもたらすのか。松井証券マーケットアナリストの大山季之氏に、トランプ2.0政権下での経済見通しと注目すべき投資先について聞いた。

Q. トランプ大統領の就任演説を聞いた印象は?
アメリカという国は4年間でガラリと変わるものだと改めて感じました。今回は特に、上院・下院・大統領と、いわゆる「オールレッド」で政権がスタートする形になります。これは非常に強烈な変化といえるでしょう。
トランプ氏が7つのスイングステート全てで勝利したことに注目すべきです。なぜ彼が勝てたのかという点が重要で、それはアメリカ国民が前政権やエリート層に不満を持っていたからです。バイデン政権の4年間は株価も良く、コロナ禍からの回復もありましたが、インフレが長引き、結果的に貧困や分断を生んでしまいました。
トランプ氏はスピーチで、特に製造業などの国際競争力が低下した産業で働く人々が多いスイングステートの人々に対して感謝の意を示していました。この姿勢は、トランプ政権が単に4年間で終わるものではなく、より長期的な政治変化の始まりであることを示唆しているように感じました。

Q. 市場はこの就任演説をどう評価したと思いますか?
市場は安堵したと思います。基本的には予想の範囲内だったからです。確かに国家非常事態宣言を移民問題やエネルギー問題に対して出しましたが、関税に関する具体的な発表はありませんでした。
バイデン政権からトランプ政権への最大の課題はインフレ対策です。トランプ氏はエネルギー政策、特に「掘って掘って掘りまくる」という資源開発を通じてインフレを抑えようとする姿勢を示しました。これは市場にとって安定感のある政策と受け止められたのではないでしょうか。
Q. トランプ政権下での経済のベストシナリオは?
ベストシナリオは、インフレが高止まりしながらも、米国経済自体が力強く、生産性の改善に支えられて景気拡大が続くというものです。
生産性向上の要因としては、以下の3つが挙げられます:
1. コロナ禍での転職:特に製造業から非製造業へと人材が移動し、より高い給与を求めて転換した
2. 自動化:テクノロジーを活用して労働生産性が向上した
3. AIの活用:今後も期待できる生産性向上の源泉
労働生産性が全体的に改善することで、インフレが続いても景気は悪化しないシナリオが十分に考えられます。

Q. インフレ抑制はトランプ政権の優先課題になるのでしょうか?
絶対に優先課題になると思います。国家非常事態宣言にもあったように、資源開発を推進してインフレを抑えようとするでしょう。バイデン政権が止めていた開発を進める点では大きな方向転換となります。
ただし、難しいのは、トランプ氏の掲げる関税引き上げや移民排除などの政策自体がインフレ的な要素を持っていることです。エコノミストから見れば論理的に矛盾している面もありますが、市場はこれらの政策がそれほど強硬には実施されないだろうと予想しているようです。
Q. 過去数年の高インフレはコロナの反動が大きかったのでは?
その通りです。コロナ禍からの正常化の過程で高インフレが生じましたが、今後はそこまで高インフレ要因は多くないと考えられます。ただし、バイデン政権からトランプ政権に変わることで、関税引き上げや不法移民の排除などの政策は、どれもインフレ的な要素を持っています。これらがどう経済に影響するかは注視すべきでしょう。
Q. ベストシナリオの場合、どのような銘柄に注目すべきですか?
生産性向上と移民排除の政策を考慮すると、「AIエージェント」関連の銘柄が最も注目されます。人手不足を補うためにAIが活用される流れが加速するでしょう。
例えば、コールセンターでのチャット機能による自動応答など、AIによる業務効率化が進むと思われます。金融業界でもQ&Aがコンピューターに置き換わっていくでしょう。
具体的な銘柄としては、NVIDIA、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)などが挙げられます。中堅向けではセールスフォースや、飲食店向けのトーストなども注目です。
エネルギー関連では、上流(掘削・採掘)や下流(販売)よりも、中流(輸送・貯蔵)の企業に投資妙味があります。エネルギー開発が進むと流通量が増え、それにより恩恵を受けるのがパイプラインや貯蔵タンクなどの事業者だからです。MLP(Master Limited Partnership)関連のETFなどが面白いでしょう。

Q. ワーストシナリオはどのようなものですか?
トランプ政権の最大のリスクはインフレです。インフレが経済を弱らせながら物価だけが上がってしまう「スタグフレーション」に陥るリスクが一番大きいでしょう。
また、「トランプ2.0が4年限りではない」という点も重要です。仮に今回のトランプ政権が4年で終わったとしても、中低所得層が政治のキャスティングボードを握り続ける限り、トランプ氏本人ではなくても「トランプ的な」政治家が求められ続ける可能性があります。
そうなると、アメリカ第一主義やナショナリズムが長期化し、グローバルなサプライチェーンの再構築が必要になる可能性も出てきます。資本流出のリスクも含め、アメリカだけでなくグローバル経済にとってもリスクになり得ます。
Q. 現時点ではベストシナリオとワーストシナリオ、どちらの可能性が高いですか?
個人的には、ベストシナリオの可能性が7割程度あると考えています。関税問題や移民排除についても、実際にはそこまで強硬には実施されないのではないかと予想しています。
市場の反応を見ても、以前懸念されていた金利の急上昇リスクもトーンダウンしており、スタグフレーションに一気に傾く可能性は低下していると感じます。
Q. 現在の経済状況はどうですか?
トランプ政権は非常に良いコンディションでスタートできる状況です。物価は落ち着きつつあり、雇用状況も良好で、企業決算も好調です。
例えば、P&Gの最近の決算では値上げせずに数量が伸びており、高止まりした価格でも売れています。製造業の指標も回復傾向にあり、台湾の輸出受注の動向からもアメリカの製造業の回復が見込めます。
GDPも3%程度の成長率を維持しており、決して悪い状況ではありません。
Q. 注目すべきセクターや特定の投資テーマはありますか?
AIエージェントとエネルギー中流に加え、資本財・サービスセクターと金融セクターにも注目しています。製造業の回復に伴い、資本財サービスは好調になるでしょう。
金融セクターでは、顧客企業が動き出していることから、大手投資銀行(JPモルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなど)に投資妙味があります。
また、「スピンオフ」という投資テーマも興味深いです。企業が本業以外の事業を切り離して専業化する動きが世界的に広がっています。例えばGEは航空宇宙部門、エネルギー部門、ヘルスケア部門に分割され、それぞれが上場して好調です。これは資本の効率的な使用やマネジメントのスピード向上につながるからです。
昨年、S&P500が23~24%上昇する中、スピンオフ指数は約200%上昇しました。インベスコのETF「CSD」などでこうした企業に投資することができます。
今後も企業の事業再編が進み、より専業化・効率化が進むと予想されます。日本でも同様の流れが強まる可能性があります。