
時間を昔に戻すことは可能か?
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2025年1月17日
今回ゲストは素粒子物理学者の松浦壮氏。物理学的な時間から、物理学の物の見方、マルチバース宇宙論まで。時間と物理の謎に迫る。 <ゲスト> 松浦壮|物理学者 博士(理学) 慶應義塾大学商学部教授。素粒子物理学、超対称性、超弦理論が専門。京都大学大学院で博士号を取得、デンマーク、ポーランドなどの研究機関...
物理学と時間の本質:松浦壮の哲学
物理とは何か?時間とは何か?その本質に迫る対談から見えてくるのは、私たちが「当たり前」と思っている概念の意外な姿だ。「わからないことがわかる」という科学の面白さを伝える松浦壮の語りから、物理学の本質と教育の未来について考える。


Q. 物理学とは何ですか?
物理学は目に見えるものが出発点です。目に見えるものがどうして動くのかを説明するために数学があります。数学はその上積みであり、物理現象を理解するための道具です。
物理を教える際、最初から数式を出すのではなく、現象そのものから説明するアプローチが重要です。例えば、電磁気学を教える場合、電荷から電場が生まれ、その量によって強さが変わるという概念をまず日本語で説明します。それを理解した上で数式を導入すると、学生は「なるほど、これはさっき説明された概念を表しているのか」と理解できます。

Q. 時間とは何だと考えますか?
時間は物の変化によって測られるものです。私たちが「時間が止まった」と想像する場面でも、それを見ている自分がいて、光が動いているなら、実は時間は止まっていません。物が動かなければ記録も記憶もできず、時間を感じることもできません。
時計は周期運動する物体であり、その1回分を1単位として数えます。「1日」「1月」という時間の単位は、太陽や月の動きに基づいています。興味深いのは、どんな時計を使っても同じ時間を測れることです。これは物に依存しない絶対的な時間があると私たちが仮定しているからこそ成立しています。
Q. 科学は真理を探究するものなのでしょうか?
科学は真実や真理を探究する学問ではなく、物事を説明する学問です。説明するためには前提が必要で、説明対象も必要です。観測技術が上がると見えるものが増え、今までの前提では説明できないことが出てきます。そこで新たな前提を立てる必要が生じます。
このサイクルは終わりがありません。なぜなら、前提ゼロで何かを説明することは不可能だからです。科学が進むほど、新たな謎が生まれるのは必然なのです。

Q. 宇宙の謎について、ダークマターやマルチバースは実在するのでしょうか?
科学において「ある」というのは、それを仮定しないと説明できないということです。例えば、クォークを見たことはなくても、クォークがないと説明できない現象があるため、クォークは「ある」と言えます。
ダークマターについては、それを仮定しないと説明できない現象があるので、あると考えています。一方、マルチバースに関しては、現時点ではそれを仮定しないと説明できない確立された現象はまだないと思います。時間も同様に、物の動きを説明するために仮定されているものですが、時間の方がはるかに多くの現象の説明に必要です。
Q. AIと人間の時間感覚はどう違いますか?
人間の時間感覚はイベントの数や情報更新の頻度によって左右されます。AIが数時間で人間の一生分の経験を積むように見えるのは、情報処理の速度が違うだけかもしれません。AIにとっての「3時間」は、情報処理量で考えれば人間の何年分にも相当する可能性があります。
これは興味深い視点で、AIが短時間で成果を出すのは、単に回転が早いだけで、同じような思考プロセスを経ている可能性があります。ただし、AIと人間の決定的な違いは「理解」にあります。AIは結果を出せても、人間のような「納得」や「身体感覚としての理解」を持ちません。
Q. 教育において「理解」と「納得」の違いはどう考えますか?
理解と納得には大きな差があります。例えば、量子力学の二重スリット実験について「理解はしたけれど納得していない」という学生の感想がありました。これは非常に誠実な反応です。理解は頭で概念を把握することですが、納得は身体感覚として腑に落ちることです。
わからないことがわかるという状態は貴重です。私たちは自転車に乗れない自分には戻れないように、一度理解したことを「わからない状態」に戻すことはできません。理解できない時間こそ、実は価値があり、楽しむべき時間なのです。

Q. AIの発展は学問や研究にどのような影響を与えますか?
AIは人間の思考を加速させるツールです。言語や数学が思考を効率化したように、AIも私たちの思考プロセスを加速させる可能性があります。例えば、数学的証明をAIが行うようになれば、研究のターニングポイントになるでしょう。
ただし、AIが証明を行っても、それを認定するのは人間です。なぜなら、科学は「自分で理解する」ことに価値があるからです。人類の誰かが理解していることに意味があるのではなく、自分自身が理解していることが重要なのです。AIと共存する未来でも、人間の身体性や理解の価値は変わりません。
Q. 物理学の魅力を一般の人に伝えるコツはありますか?
物理学の魅力は「わからないことがわかっている」ところにあります。例えば、乱流の渦が次にどこへ行くかわからないことをわかっているというのも科学の知見です。しかし、その「わからなさ」の中にも法則があり、それがカオス理論などにつながっています。
物理を教える際は、数式よりも概念から入ることが重要です。学生に「問いを立てる」機会を与え、彼らが何を疑問に思っているかを引き出すことで、次の授業でフィードバックができます。このアプローチは、学生が自分の理解の限界を誠実に認め、それを乗り越えようとする姿勢を育みます。