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弱い自立のすすめ。制作の快楽を引き上げよ【宇野常寛】
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2025年1月14日

プラットフォーム資本主義が拡大する世の中で、承認欲求に飲み込まれず、自分の物語を持って生きるために何が大切なのか?新著の『庭の話』を通して、「制作の快楽」という選択肢を提示した批評家の宇野常寛氏に話を聞いた。 <ゲスト> 宇野常寛|批評家 1987年生まれ。批評誌<PLANETS>編集長。著書に『...
プラットフォーム資本主義で失われる「制作の快楽」を取り戻せ
現代社会では、SNSやプラットフォームによる評価や承認に依存しすぎている。市場から評価されることや共同体からの承認を得ることよりも、物を作ること自体の快楽を見直す時代が来ているのではないか。批評家の宇野常寛氏に「制作の快楽」をキーワードに、現代社会の課題と未来について聞いた。

Q. 「遅いインターネット」に続いて「庭の話」を書こうと思った背景は?
「遅いインターネット」を書いた後にコロナ禍が訪れました。当時、プラットフォーム資本主義に社会がうまく対応できていないと問題提起しましたが、コロナショックをきっかけにインターネットが5倍くらいに加速してしまいました。これは地上で初めてのインフォデミックに支えられたパンデミックと言えるでしょう。
情報メディアの内部で工夫するだけでは限界があり、政治や暮らし、産業構造など外側からのアプローチも必要だと感じました。インターネットを否定するのではなく、もっと総合的な視点から考える必要があったのです。
Q. プラットフォーム資本主義と共同体の関係をどう見ていますか?
プラットフォーム資本主義に対して「共同体を作ることで対抗しよう」と言う人がいますが、それは強者のロジックだと思います。共同体には中心と周辺があり、物語によって形成されています。同じ物語を信じる人たちが共同体を作るのですが、物語には主役、脇役、モブキャラ、悪役がいます。
共同体を賛美する人たちは、自分が主役や重要な脇役になることを前提にしています。モブキャラや悪役になるかもしれないという想像力がありません。共同体を美化する傲慢さには違和感があります。
例えば、自分たちは「拡張家族」を作っていると言いながら、すぐ近くの公園から追い出されたホームレスを受け入れない人たちがいます。自分が共同体の周辺に置かれる可能性を想像できないのです。

Q. 現代社会はどのように分断されていますか?
デイビッド・グッドハートの議論によると、世界は「エニウェア(Anywhere)な人々」と「サムウェア(Somewhere)な人々」に分かれています。
エニウェアな人々はグローバルエリートで、情報産業や金融業界で働き、世界中どこでも生きていける能力を持っています。彼らは国籍や所属を自分につけたタグのように考え、経済を通じて世界に関わっています。しかしこれは人口の1%にも満たない存在です。
一方、大多数の人々はサムウェアな人々で、20世紀的な製造業中心の世界に生きています。どこかでしか生きられず、市場を通じた自己実現ができない彼らは、ナショナリズムに向かいがちです。政治を通して「この一票が国を変える」という感覚でアイデンティティを形成します。
この対立は情報技術とアイデンティティの政治によって加速され、ブレグジットやトランプ現象として表れています。エニウェアな人々の支配に対するサムウェアな人々の反乱と言えるでしょう。
Q. SNSはどのように人々のアイデンティティに影響していますか?
SNSでは共同体からの承認を簡単に得る方法として「誰かを攻撃する」ことが効率的になっています。特定の党派の支持者になり、界隈で嫌われている人を人格的に攻撃すれば、簡単に「いいね」がもらえます。
これはコストパフォーマンスが良すぎるのです。投稿は30秒もかからず、オリジナリティも必要ありません。この仕組みは2016年のトランプ選挙キャンペーンですでに大規模マーケティングとして利用されていました。
また、オンラインイベントのリアルタイムチャットなどでは、話者とチャット参加者が互いに影響し合い、意見が狭く過激になっていきます。自分の発した言葉に洗脳されていくのです。特に視聴者から直接課金してもらっている人や政治家は、この自己洗脳効果が強く働きます。

Q. どうすれば「制作の快楽」を取り戻せますか?
ハンナ・アーレントは著書『人間の条件』で人間の活動を3つに分けました。「労働」は糧を得るための行為、「制作」は物を作る行為、「行為」は政治活動です。アーレントは「行為」が最も崇高だと言いましたが、現代では「労働」の力が強くなりすぎています。
私が重要だと考えるのは「制作」です。物を作ることによって世界に関わっているという実感を得られます。市場からの評価や共同体からの承認よりも、制作すること自体に夢中になれるかどうかが大切です。
例えば、サラリーマンをしながら副業で好きなことをやったり、自営業で複数の仕事をしたりすることで、「弱い自律」を持つことができます。そこでのポイントは、仕事そのものが面白いと感じられることです。
現代では、市場からの評価や共同体からの承認はSNSプラットフォームによって強化されていますが、「制作の快楽」はまだ十分にエンパワーメントされていません。この取り残された制作の快楽を引き上げることが重要です。

Q. 孤独と制作の関係についてどう考えますか?
現代は情報プラットフォームの力が強すぎて、電車に乗っていてもカフェで一人でいても、常に誰かとつながっています。界隈の空気を気にして生きているのです。
人とつながることが気持ちいいのと同じくらい、匿名的な自分になって孤独になることも気持ちいいものです。孤独な時間は快楽になり得ます。
制作の快楽を感じられる人は、若いうちに強い刺激を受け、その体験によって物を作ることの喜びを知った人たちかもしれません。こうした経験が、プラットフォーム資本主義や共同体からの承認に依存しない、新しい幸福のモデルを示唆しているのではないでしょうか。