政策超分析
日本版核シェアリングが必要だ(後編)
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2025年1月21日

杉村太蔵氏をレギュラーコメンテーターに迎え、政策を切り口に社会や経済の問題をどこよりも深く徹底分析する番組。今回は元統合幕僚長の河野克俊氏に日米安保について話を聞いた。 <ゲスト> 河野克俊 |元自衛隊統合幕僚長 1954年北海道生まれ。 1977年に防衛大卒後、海上自衛隊入隊。 2019年の退官...
トランプ政権下の日米同盟 —— 常識論で見直す日本の安全保障
日米安全保障条約の改定、核共有論、そして中距離核ミサイル配備。トランプ政権再来の可能性が高まる中、日本の安全保障はどう変わるべきか。元自衛隊トップと政治家の視点から探る「常識論」とは。

Q. アメリカはなぜ世界の警察官を辞めようとしているのか?
アメリカは歴史的に見れば「孤立主義」が原点だ。ヨーロッパで様々な問題を抱えた人々が新天地を求めて新大陸に渡り、「我々はもうヨーロッパとは関係しない」という考え方が根底にある。これが門老主義(モンロー主義)と呼ばれる孤立政策だ。
第一次世界大戦では当初、アメリカは参戦を避けていた。しかし、ドイツのU-ボートによってルシタニア号が撃沈され、多くのアメリカ人が犠牲になったことをきっかけに参戦した。戦後、ウィルソン大統領は国際連盟を提唱したが、国民の支持を得られなかった。
第二次世界大戦でも、1939年にヨーロッパで戦争が始まったが、チャーチルの要請にもかかわらず世論が許さず参戦できなかった。日本の真珠湾攻撃があって初めて参戦することになった。
戦後、アメリカは西側諸国のリーダーとしての役割を担うことになったが、ベトナム戦争やアフガニスタン戦争で傷ついた経験から、「こんなことをやっていられない」という機運が高まってきた。2013年にオバマ大統領が「世界の警察官をやめる」と宣言し、バイデン大統領はアフガニスタンからの撤退を実行した。民主党も共和党も、程度の差はあれ孤立主義に戻りつつある。

Q. 日米同盟は対等な関係とは言えないのか?
現在の日米安全保障条約は極めて不平等だ。アメリカは日本が攻撃された場合に守る義務があるが、日本はアメリカが攻撃された場合に守る義務はない。これは明らかに常識に反している。
NATOの場合は軍事的には対等な関係だ。トランプ前大統領が批判しているのは、NATO加盟国の防衛費負担が少ないという金銭的な問題だ。これに対して、日本の場合は金銭以前の問題として、役割のアンバランスが存在している。
このアンバランスを是正しないと、アメリカが日本から離れていく可能性がある。日本がアメリカを引き留めるためには、極めて対等な関係に持っていくべきだ。

Q. 憲法9条2項は日本の安全保障の障害になっているのか?
憲法9条2項は「前項の目的を達成するために、陸海空軍その他の戦力は保持しない。国の交戦権も認めない」と規定している。これにより、日本は「普通の国」ではなく、制約された国だということになる。
これまでは専守防衛という考え方に基づき、「絶対に攻撃してはいけない」「サッカーのゴールキーパーのような役割だけ」という姿勢だった。しかし、敵から次々と攻撃を受けた場合、守りきれるのかという疑問がある。
最近では一部の攻撃能力を持てるようになったが、憲法上の制約は全く手つけられていない。自衛権は、個別的であれ集団的であれ、人間で言えば正当防衛や緊急避難のようなもので、自然権と言えるものだ。それを憲法で制約すること自体が常識に反している。

Q. 自衛隊の存在は国際社会でどう認識されているのか?
日本では自衛隊を「軍隊ではない」とする建前から、様々な言葉遣いの工夫がなされている。例えば、階級を「大佐、中佐、少佐」ではなく「一佐、二佐、三佐」と呼ぶ。
しかし、国際社会ではこのような区別は理解されない。トランプ前大統領は英語のインタビューで自衛隊のことを「Self-Defense Forces」ではなく「Army(軍)」と呼んでいる。また、英語に訳すと「一佐」は「Captain」、「二佐」は「Commander」、「三佐」は「Lieutenant Commander」となり、結局は従来の軍隊の階級名と同じになる。
このような「ごまかし」はもう限界に来ている。国際社会で通用する常識的な言葉遣いに戻すべきだ。
Q. アメリカを日本に引き留めるための具体策は?
中距離核ミサイル配備が有効な選択肢だ。現在、中国は2800発の中距離核ミサイルを保有しているのに対し、アメリカはこの地域に一発も持っていない。このアンバランスを是正するために、アメリカは中距離核ミサイルの配備先を探している。
アメリカ本土からでは中国に届かないため、地理的に日本やフィリピンが候補地となる。日本が「どうぞ配備してください」と提案することで、アメリカを引き留める効果がある。
ただし、配備の条件として「打つか打たないかの意思決定に日本も関与する」という核共有(ニュークリア・シェアリング)の仕組みを構築すべきだ。これにより、日本は核保有国にならずとも、核抑止力の信頼性を高めることができる。
Q. 核共有論は法的に可能なのか?
非核三原則(作らず、持たず、持ち込ませず)のうち、「持ち込ませず」については見直しが必要だ。これは法律ではなく国会決議に基づくもので、新たな国会決議で変更することは可能だ。
元々非核三原則は、佐藤栄作首相が沖縄返還を実現するために打ち出したもので、「沖縄も本土と同じ非核地域にする」という意図があった。現在では、岡田元外相も「ギリギリ本当に持ち込ませることでないと日本の安全が保てない場合には、その時の政権が命運をかけて決定すべき」と述べている。
米国の核を日本に配備することは、対中関係においてアメリカにとっても利益になる。むしろ日本側が「恩を売る」形で提案し、その見返りとして核使用の意思決定に参画する権利を得るという戦略が考えられる。
Q. ウクライナ戦争は核抑止の信頼性にどう影響しているか?
ウクライナ戦争では、ロシアが核を保有しているがゆえに、アメリカは直接的な軍事介入ができなかった。これは「ロシアの核がロシアを守った」ということを意味する。
このことから、アメリカの核抑止力に対する信頼が揺らいでいる。100%の信頼が80%に下がったとすれば、残りの20%をどう埋めるかという議論が必要だ。核については「まあ80%で良いでしょう」という議論はあり得ない。
一つの選択肢は、前述した核共有だ。日本自身が核を保有する前に、アメリカの核ミサイルを日本に配備し、その使用決定に日本も参画するという形で、核抑止力の信頼性を高める方法がある。
Q. 石破政権が誕生した場合、安全保障政策はどう変わるか?
石破氏は日米関係の「対等」を強調しているが、その焦点は日米地位協定の改定など、主に地位や待遇の問題に当てられている。しかし、安全保障の本質は相互防衛の問題だ。
日米地位協定は、アメリカ軍が日本に駐留する以上、必然的に必要な取り決めだ。公務中の事故については米側の司法権に委ねられるが、私的行為については日本の警察が逮捕できる。問題は、犯人が基地に逃げ込んだ時に警察が踏み込めないといった点だ。
しかし、地位協定の一部分だけを取り出して「不平等だ」と主張しても、アメリカ側は「そもそも日本が防衛を頼っている不平等な日米安保関係なのに」と反発するだけだ。本質的な不平等(相互防衛の欠如)を是正せずに、枝葉の問題だけを取り上げるのは逆効果になる可能性がある。
Q. 安全保障を考える上で最も大切なものは何か?
安全保障を考える上で最も大切なのは「常識論」だ。軍事マニアやオタクになる必要はなく、常識に基づいて考えれば誰でも理解できる。
防衛大臣や国防長官になるために軍のキャリアや専門知識が不可欠というわけではない。最も重要なのは「関心を持つこと」だ。安全保障に関心がない人が防衛を担当すれば、大きな問題が生じる。
トランプ前大統領が言っていることも、アメリカの視点から見れば「常識論」だ。第二次世界大戦後、アメリカが「世界の警察官」として振る舞ってきたのは、むしろ特殊な状況だった。現在は歴史的に見れば「常識」に戻りつつある。
常識とは、ある日突然トップダウンで生まれるものではなく、長い時間をかけて積み重ねられてきた知恵の集積だ。変なことに対して違和感を持つ感覚こそが、常識の根底にある。
国民の常識がアップデートされなければ国も動かない。だからこそ、国民一人ひとりが安全保障に関心を持ち、本を読み、ニュースを追うことが重要だ。戦後日本では学校でも大学でも安全保障をきちんと教えてこなかった。これからは現実を直視する日本にしていかなければならない。
