
【林芳正氏に聞く、官房長官のリアル】岸田内閣は大企業、石破内閣はベンチャー
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2025年1月11日
少数与党となった自民党。これまでの政権運営とどんな変化が生まれているのか?岸田内閣と石破内閣の双方で内閣官房長官を務める林芳正氏に「官房長官のリアル」について、杉村太蔵氏が迫る。 <ゲスト> 林 芳正|内閣官房長官 1984年東京大学法学部を卒業後、三井物産へ入社。1992年ハーバード大学ケネディ...
「宮沢総理の言葉で学んだこと。権力は持っていても使わないのが一番いい」
内閣官房長官として政権をまたいで就任するという極めて珍しい立場となった林芳正氏。少数与党という難しい政治情勢の中で、どのように政権運営に関わっているのか。元衆議院議員の杉村太蔵氏がインタビューを行い、岸田政権と石破政権の違いや官房長官の役割について迫った。

Q. 内閣官房長官として政権をまたいで就任するのは珍しいと思いますが、どれくらい前例があるのでしょうか?
戦後では数例あります。石橋内閣から岸内閣に変わった時の官房長官、小渕内閣から森内閣に変わった時の青木官房長官、森内閣から小泉内閣になった時の福田官房長官などが例として挙げられます。
ただし、今回は派閥が解消され、少数与党となり、岸田政権から石破政権へと変わるという全く異質の状況です。また、青木氏や福田氏の時は前者の総理が病気などの理由で急遽辞任したケースでした。
私の場合は岸田総理が3年間任期を務め、総裁選挙があって、しかもその総裁選に私も立候補していたという状況でした。総裁選が終わって官房長官を辞めるつもりでしたが、石破総理から続投を打診されたのです。
Q. 総裁選で戦った相手を官房長官に起用するというのもかなり珍しいケースですよね?
確かに珍しいでしょう。ただ、過去に石破氏とは一緒に仕事をした経験があります。2009年から2012年頃、野党時代に谷垣総裁の下で成長戦略会長を石破氏が務め、私は参議院側の成長戦略会長代理としてみっちり一緒に仕事をしました。
また、防衛大臣の引き継ぎの際も印象的なことがありました。石破氏から私が防衛大臣を引き継いだ時、形式的な引き継ぎだけでなく、「もっと話したいことがあるだろう」と私の参議院宿舎に来てくれて、ビールとおつまみで1時間ほど実務的な引き継ぎをしてくれました。こういう筋の通った人柄だという印象を持っていました。
Q. 岸田政権の時の官房長官と石破政権の時の官房長官、違いはありますか?
例えるなら「大企業とベンチャー」のような違いがあります。岸田内閣では役割がピシッと決まっていて、それぞれの役割の中で動いていました。私は岸田内閣では途中から入ったこともあり、すでに確立された体制に加わった形でした。
一方、石破内閣では「チーム石破」として、自分の職を超えて皆で話し合うような雰囲気があります。総理自身が自分の言葉で話すことを好み、閣僚会議などでも政治家としての経験を踏まえて発言することが多い。それぞれの大臣が担当分野を超えて様々な発言をすることもあります。
これはどちらが良い悪いということではなく、岸田政権は3年間で外交や防衛の強化、日韓関係の改善、実質賃金のプラス化など大きな成果を出しました。一方の「ベンチャー」である石破政権はこれから成果を出していくところです。
Q. 少数与党という状況で官房長官の役割はより重要になりますか?特に野党との調整などで?
基本的に各党との調整は、自民党であれば政調会長が行い、全体を幹事長が仕切るという形です。私が直接野党の代表と会うということはありません。
政府としては総理がいて、その後に私、副長官という構図になっており、党の役職があるのは総理(総裁)だけです。党の方は総裁の下に副総裁や幹事長がいて、他党との交渉を担当します。
ただし、政府側が提案する案について逐一連絡を受け、何も知らないままでは務まらないので、常に状況を把握し、必要に応じて党の皆さんとも連携を取りながら、一緒に戦略を立てています。
Q. 内閣官房長官として、政治における交渉術や心得について何か大切にされていることはありますか?
「いつも笑顔で」というのが基本かもしれません。暗い顔をしていても仕方ありません。最終的には国民の皆さんが見ているので、結果が出た時に納得してもらえることが大切です。
これまでは与党の中で完結していた話が、少数与党となった現在は他党との協議が必要になります。その際、他党の言っていることにも注目が集まり、メディアを含めた様々な立場から良い意味でも悪い意味でもチェックが入ります。
これまでのように「どうせ与党だけで決まってしまう」という前提で高めの要求を出すこともしづらくなります。そういう意味では、精神誠意、何が一番良いのかを考えて話し合うことが大切だと思います。
Q. 座右の銘や尊敬する歴代の官房長官はいますか?
「仁」という言葉を大切にしています。中国の古典で最も大事な「仁義礼智信」の「仁」は、国民に対する幅広い愛、国民を慈しむ気持ちを表します。選挙を経て国会に出てきた人はみんなその気持ちを持っていると思います。方向性は違っても、そうした共通の思いがあるということを前提に対話することが大切です。
尊敬する官房長官としては、私の地元・下関出身の伊藤博文の時代に内閣書記官(当時の名称)を務めた伊藤巳代治という人物がいます。また、中曽根政権で官房長官を務めた後藤田正晴氏も印象的です。
後藤田氏の著書「情と理」から学んだことがあります。役所の現場は法律に基づく「理」で動いています。しかし理だけでは上手くいかないこともあり、人を使う時や政治的決断をする時には「情」とのバランスが大切なのです。法律を曲げるということではなく、理と情のバランスをどう取るかという視点が重要です。


Q. 林官房長官は民間出身ですが、それが霞が関との関係にどう影響していますか?
民間にいたから、役人と仕事をする時に「理」に頼りがちになります。役所は理で動いていますから、私も理の言葉で対応してきました。しかし、理だけでは行き詰まることもあります。
そこで後藤田氏の「情と理」を読み返すと、政治の世界全体として「情と理」のバランスが大事だと気づかされました。最初に読んだ時よりも、この世界に来て仕事をしていく中で、改めて深く理解できるようになりました。
Q. 権力の行使についてはどのようにお考えですか?
宮沢喜一総理から「権力は持っていても使わないのが一番いい」という言葉を教わりました。権力を使わなくても物事が回るのであれば、それに越したことはないという考え方です。
例えば警察で考えると、悪い人がいなければ警察はいらないかもしれませんが、実際には必要です。ただ、警察はあってそこにいるけれども、なるべく出動しない方が良い社会の方が理想的です。それと同じで、権力は持っていても抑制的に使うべきだと考えています。

Q. 役人の人事についてはどのようにお考えですか?
内閣人事局ができる前から、局長級以上の人事は「官房長官協議」という形で官房長官の了承が必要でした。内閣人事局は、その協議をする際に適切なデータを提供する人事部のような役割を果たしています。
重要なのは制度以上に、それをどう使うかです。「気に入らないから降ろす」というような使い方ではなく、現場の指揮官として適材適所を考えることです。
大臣を1年以上、できれば2〜3年務めると、局長が優秀かどうかが分かってきます。しかし1年で大臣が交代してしまうと、ようやく分かってきた頃に去ることになり、政治主導の人事が難しくなります。
私としては、各大臣が現場の経験を踏まえて上がってきた人事案を見て、よほどおかしなものでなければ認める、そして横串で全体のバランスを見るという姿勢で臨んでいます。
Q. 2025年はどのような1年になりそうですか?
蛇年なので「脱皮をして大きくなり、育って皮が強くなる」というイメージです。石破内閣としても、私個人としても、そうした脱皮をする年にしたいと思います。
最近の臨時国会を見ていると、国会議員の皆さんが活性化している印象があります。少数与党の中で、これまで相手にされなかった提案が実現するかもしれないという「ワンチャン」があるからでしょう。
大切なのは「良いもの」を出すことです。総理も「良いものがあれば」と言っています。良いものとは国民の皆さんが「これをやってくれると助かる」と思えるものですが、現在の国民だけでなく将来の国民のことも考える必要があります。
責任を持って「ワンチャン」の良い提案を出すことが、議員の皆さんの本来の目的だと思いますし、そういう意味で国会が活性化しているのは良いことです。