政策超分析
社会保障は人材不足で破綻する
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2024年12月26日

杉村太蔵氏をレギュラーコメンテーターに迎え、政策を切り口に社会や経済の問題をどこよりも深く徹底分析する番組。今回はミスター社会保障とも言われる元厚生労働官僚の香取照幸氏に話を聞いた。
社会保障の本質とは?元厚生労働官僚が語る「制度維持の最大の課題は金ではなく人」
社会保障制度は複雑で理解しづらいと感じる人も多いだろう。しかし、その本質は意外とシンプルかもしれない。元厚生労働官僚の香取照幸氏が社会保障制度の根幹について解説し、その維持に必要なものは「お金」ではなく「人」だと指摘する。

Q. 社会保障制度の基本的な仕組みとは?
人生は大きく3つの時期に分けられる。0歳から20歳頃までは「給付を受ける時期」、20歳から60〜65歳までは「負担をする時期」、その後再び「給付を受ける時期」となる。この流れは社会保障制度がなくても本質的に変わらない。
江戸時代のような社会保障制度がない時代でも、子供の養育費は親(現役世代)が負担し、高齢者の生活は子供(現役世代)が支えていた。つまり、「働いている人が稼いだお金で子供から高齢者までを賄う」という仕組みは、社会保障制度の有無にかかわらず世界中どこでも同じ原理で成り立っている。
現代の社会保障システムは、この自然な仕組みを「公的な制度」として整備したものだ。個々の家庭や個人の責任だけに任せると、親のいない子供や面倒を見てくれる子供のいない高齢者など、「こぼれる人」が出てくる。そこで社会全体でリスクを分散し、支え合う仕組みが社会保障制度なのだ。

Q. 年金制度の本当の目的は?
年金は貯蓄ではなく、長生きした時のための「保険」だ。仮に年金制度がなければ、各自が老後の生活費を貯蓄しなければならないが、何歳まで生きるか分からない以上、必要な金額を正確に見積もることは不可能だ。
例えば、40年間働いて65歳で引退し、90歳まで生きるとすると、40年分の稼ぎで65年分の生活をカバーする計算になる。単純計算で、稼いだ金額の約3分の1を貯金する必要がある。しかし、いくつまで生きるか分からないリスクがあるため、余分に貯蓄しようとする。これが社会全体で起きると、現役世代の消費が減り、経済成長が鈍化する悪循環を生む。
公的年金の最大の特徴は「死ぬまで給付が続く」点にある。これは個人の貯蓄や民間の金融商品では実現困難な安心感を提供する。また、失業や病気で十分な貯蓄ができなかった人も最低限の保障を受けられる。つまり年金は「金融商品」ではなく「保険」なのだ。

Q. 高齢者の医療費負担はどうあるべき?
高齢者の負担を増やすという議論は理にかなっている面がある。かつて田中角栄内閣時代に70歳以上の医療費無料化が実施されたが、その後段階的に負担が導入されてきた。
高齢者も所得に応じて負担すべきという考え方は合理的だ。しかし、85歳を超えると約半数が介護を必要とし、95歳では約7割が介護状態になる。介護が必要な人だけを集めた保険制度は成立しないため、世代間で支え合う仕組みが不可欠となる。
また、仮に医療保険制度がなければ、親の医療費は子供が負担することになる。これでは親が病気になった家庭だけが大きな負担を背負うことになり、不公平が生じる。社会保険制度は、このリスクを社会全体で薄く広く分担するために存在している。
Q. 社会保障制度の最大の課題は何か?
香取氏は社会保障制度の最大の課題は「お金」ではなく「人材確保」だと指摘する。特に医療・介護分野では人手不足が深刻化している。
日本の医療費はGDPの約8%だが、世界の先進国では例外なく医療・介護費用はGDP成長率を上回るペースで増加している。しかし、それ以上に心配すべきは、人口減少に伴いサービスそのものが提供できなくなる可能性だ。
特に地方では、開業医の高齢化が進み、後継者がいない場合も多い。病院だけでなく、郵便局や鉄道、スーパーマーケットなど、様々なサービスが人口減少に伴い撤退していくが、医療・介護は生活に直結するため特に深刻な問題となる。

Q. 社会保障の担い手を確保するにはどうすべきか?
社会保障の担い手確保のためには複数のアプローチが必要だ。まず、高齢者の就労促進がある。実際に65歳以上の約20%が働いており、これは労働力不足と高齢者自身の就労意欲の両方が要因となっている。
また、女性の能力活用も重要だ。日本ではまだ女性の能力が十分に活かされていないため、女性が働きやすい環境整備が必要になる。同時に、これが少子化を加速させないよう、子育て支援との両立が求められる。
若年層については、不安定な非正規雇用者が3割もいる状況を改善し、より効果的な人材活用が必要だ。これらの取り組みに加え、外国人労働者の活用も選択肢の一つだ。
しかし、いくら人材確保に努めても、総人口の減少により労働力は減少していく。そのため、技術革新によって少ない人数でもサービスを提供できる体制づくりが不可欠となる。例えば、オンライン診療や遠隔医療の活用により、限られた医療人材でより広い地域をカバーすることが可能になる。
Q. 社会保障制度の今後の展望は?
社会保障は特定の困っている人のためだけではなく、全ての人のためにある。英語で社会保険料は「コントリビューション(contribution)」と呼ばれ、これは「貢献」を意味する。つまり、社会保険は自分のためであると同時に社会全体のためでもある。
一人では対応できないリスクをみんなで分かち合い、支え合う仕組みが社会保障だ。給付と負担はセットで考える必要があり、片方だけを議論することは不適切だ。
社会保障制度は完璧ではないが、香取氏は「85点くらいは取れている」と評価する。制度の合理性だけでなく、その運用や政治・行政への信頼も重要だ。国民が納得して支え合える社会保障制度を維持していくためには、制度の透明性と公平性を高め、国民の信頼を得ることが不可欠だろう。