MONEY SKILL SET EXTRA
円安=国力低下ではない【尾河眞樹】
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2024年10月21日

株・保険・住宅など資産運用にまつわるスキルセットを一流のプロの講義を受けて学ぶMONEY SKILL SETの応用編。今回はソニーフィナンシャルグループ・チーフアナリストの尾河眞樹氏を講師に招いて激動する為替相場の読み解き方について学ぶ <ゲスト> 尾河眞樹(ソニーフィナンシャルグループ 執行役員...
円安は日本にとって「悪」なのか?為替のプロが語る本当のところ
日本円の大幅な下落が続く中、「円安=日本経済の衰退」という声も聞かれる。しかし実際のところ、円安は単純に悪いことなのだろうか? 為替市場の専門家である尾河眞樹氏に、円安のメリット・デメリット、為替相場の今後の見通しなどについて詳しく聞いた。

Q. 円安で得する人、損する人は?
円安になると、製造業は大きな恩恵を受ける。例えば、アメリカで1ドルで売っていた商品が、円換算すると以前は100円だったのが、円安が進んで1ドル=150円になれば、150円の売上になる。これは製造業にとって大きなプラスだ。
サービス業、特に観光業も円安の恩恵を受ける。外国人観光客が増え、レストランなどの飲食店も潤う。
意外に知られていないのが、農業や畜産業への好影響だ。円安で海外から輸入する野菜や肉が高くなると、国内で生産されたものの方が相対的に安くなる。結果として、消費者は国内産の商品を選ぶようになり、内需が高まる。
もう一つ重要な点として、日本の経常収支の黒字構造が変化している。かつての日本は貿易で稼ぐ国だったが、現在は海外投資からの配当金や利息といった「所得収支」が黒字の大半を占めている。円安になれば、ドルで得た利益の円換算額が増えるため、国全体としてプラスの面もある。
Q. 極端な円安は本当に日本の国力低下を意味するのか?
昨今の大幅な円安を受け、「日本はもう終わっている」「国力が低下した証拠だ」といった極端な見方も見られる。しかし、2011年に1ドル=75円台の超円高だった時も、同様の論理で言えば「日本の国力が弱かった」ということになるが、実際にはそうではなかった。
円安が行き過ぎた理由を示すデータとして、企業の景況感と家計の景況感の乖離がある。通常、企業のマインドが良くなれば家計のマインドも良くなるという連動性があるが、最近は企業の景況感が上向いているにもかかわらず、家計の景況感は上がっていない。これは物価上昇のスピードに賃金の伸びが追いついていないからだ。
したがって、極端な円安だから「日本経済が衰退している」と結論づけるのは早計だろう。
Q. 良い円安と悪い円安の違いは何か?
悪い円安とは、まず変動のスピードが速すぎる場合だ。急激な円安はエネルギー価格や輸送コストの急上昇を招き、企業はすぐに値上げできないためコスト増を吸収せざるを得なくなる。結果として業績が悪化する場合もある。
また、円安の進行が急激すぎると、国民が資産を海外に逃がそうとする動きが強まり、さらなる円安を招くという悪循環に陥るリスクもある。実際、2023年に1ドル=160円台まで進んだ円安は「行き過ぎ」だったと言える。
Q. 円安の背景には何があるのか?
近年の円安の大きな要因は「金利差」だ。金融市場に過剰なマネーが溢れる中、少しでも金利の高い通貨に資金が流れる傾向がある。
この状況を生んだのがコロナ禍だ。パンデミック対応として世界中の国が同じ政策―政府による給付金の配布と中央銀行による量的緩和―を実施した。リーマンショック前と比較すると、アメリカの中央銀行(FRB)の資産残高は約8倍に膨らみ、コロナショック直前と比較しても倍増している。
こうして金融市場に大量のマネーが流れ込んだ結果、「イールドハンティング」という現象が起きている。これは「お金は川と違って低い方ではなく高い方へ流れる」という原理で、少しでも金利の高い通貨を求めて資金が移動する現象だ。日米の金利差が広がる中、大量の資金がドルに流れ込み、円安が加速した。
Q. 今後の為替相場はどうなるのか?
日米の金利差が縮小する方向に向かうため、基本的には円高に向かう可能性がある。しかし、極端な円高(例えば1ドル=80円台)になる可能性は低いとみられる。
理由としては、アメリカ経済が予想以上に強く、大幅な利下げが行われにくい状況であることが挙げられる。アメリカは高金利政策を続けているにもかかわらず景気が維持されており、利下げ局面に入っても、急激な利下げは期待しにくい。
一方、日本も急激な利上げをする可能性は低い。来年末までに政策金利が1%程度まで上昇する可能性はあるが、そのペースは緩やかだろう。結果として、日米の金利差は縮まるものの大きく縮小することはなく、極端な円高にはなりにくい環境が続くと予想される。
Q. デジタル赤字は日本経済に大きな影響を与えるのか?
最近、日本のデジタル赤字(デジタルサービスの輸入超過)が話題になっているが、経常収支全体から見ると現時点ではそれほど大きな比重を占めていない。
しかし、今後デジタル化がさらに進む中で、海外の検索エンジンやAIサービスの使用料として支払うお金は増える可能性が高い。日本発のグローバルに通用するデジタルサービスが生まれない限り、この傾向は続くだろう。
長期的には日本の将来に向けた「種まき」が重要で、グローバルに通用する成長企業を育てる投資が必要だ。
Q. 為替に関するニュースを理解する際のポイントは?
為替レートには必ず「買い値」と「売り値」の2つがある。ニュースで「150円10銭から20銭で取引」と言っているのは、この2つの値の間で取引が行われているという意味だ。
また、為替市場は24時間動いており、月曜日のニュージーランド市場オープンから金曜日のニューヨーク市場クローズまで、世界のどこかで常に取引が行われている。
日本では「円高」「円安」という表現が一般的だが、グローバルスタンダードでは「ドル高」「ドル安」という言い方をする。円が安くなっているのか、ドルが特に強くなっているのかで状況が異なるため、ドルを軸に見る習慣をつけると視野が広がるだろう。