
栗山英樹 勝つための生活習慣:後編
3,951回視聴
2024年10月12日
2023年にWBCで日本代表を世界一に導いた栗山英樹氏は勝つために必要なのが生活習慣と説く。とある一流選手の焼肉の食べ方から、大谷選手とのやりとりなどをもとに成功の秘訣をスポーツライターの木崎伸也氏が聞いた。 <ゲスト>栗山英樹|北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー 196...
栗山英樹氏『監督の財産』サイン本プレゼントのご応募はこちらから(応募締切 10/19)
栗山英樹が語る"命をかける覚悟"と"丸をつける習慣"のリーダー論
「自分との約束を守れることが最も大切」―栗山英樹元日本代表監督が語る心の支え方とチーム作りの秘訣

Q. "正しい"という言葉の使い方について、どう考えていますか?
監督という立場を経験して強く思うことは、"正しい"という言葉はあまり使わない方がいいということです。例えばバッティングの指導でも、昔は「バットを上から叩け」と言われていたのに、今は「下から打て」と言われています。一体どちらが正しいのでしょうか。
人から「これをやってみたら」と言われたことの中で、自分が本当にいいと思ったらやればいい。ただし、自分でやると決めたことは必ず守る。これが重要です。人から言われたことではなく、自分で決めたことだからこそ、一つのことが守れると、全てが守れるようになります。若い選手たちにその習慣をつけてもらうことが大切だと考えています。
Q. WBCでのメキシコ戦、ノーアウト1・2塁の場面での判断はどのように行ったのですか?
あの場面では様々な要素を含めて瞬時に判断しました。対局観という広い視点から、日本の野球のため、ファンのためにどういう形がベストなのかという感覚が浮かんできました。特に必死になればなるほど、そういう感覚が強く出てきます。
私はその瞬間、「天に動かされている」ような感覚でした。野球の神様が私の体を通して、頑張ってきた選手たちに勝たせようとしている。私自身は何もしていないんです。ただ、それを通して起こっているだけなんです。
村上選手の打席では、迷いなく「村上と真珠」とストンと落ちました。ヤクルトの白石コーチに「お前が決めろと言いに行ってくれ」と頼みました。選手は敏感ですから、100%の覚悟で打席に立ってほしかったのです。
終わってから考えると、もしかしたらどんな判断をしても勝っていたかもしれません。それまでの準備や選手たちの生き様が、結果につながっていたのかもしれません。大谷選手がベンチで「さあ、ここからだ」と言っていたように、みんなの力が一つになっていた感覚があります。
Q. 「選手がいい人になれる状況を作る」という考え方について教えてください。
サッカーの世界もそうだと思いますが、チームが勝たないと全部悪いものが露出してきます。逆に勝っていると、悪いものもプラスに変わったりする。これが勝負事の良さでもあり、難しさでもあります。
活躍してチームが勝てば、その選手は人としても素晴らしくなれる。なら、そうなれるよう環境を整えるのが私の役割です。もちろん教育的なことも大切ですが、選手が自然といい人になれる形を作ることが一番効果的だと思います。
Q. 「丸をつける」という習慣についての考えを聞かせてください。
試合終了間際、「あと2分」と思っている選手と、「この2分は90分の戦いと同じくらい大変だ」と思っている選手では違います。最後の最後にひっくり返されて勝ちきれないという経験から、それを防ぐには生活習慣が関係しているのではないかと考えました。
行動の最後をきちんと締める、「丸をつける」ことが大切です。例えば、うまい選手ほど、ショートからの簡単な送球で「取った」つもりになってセカンドを見ることがあります。本当は取ってから見なければいけないのに。
ある名選手と焼肉を食べた時、肉を3枚くらい焼くと思ったら、1枚焼いてきちんと食べたら次の1枚を焼くという習慣がありました。その選手は普段から一つ一つのことを徹底的にやり切る人でした。日常の細かな習慣が、プレーにも表れるのです。
Q. 練習の「丸のつけ方」について、どう考えていますか?
WBC中、村上選手が不調の時に、大谷選手と吉田正尚選手が同じアドバイスをしました。「長く打てばいいというものではない」と。調子が悪い時は打ちたくなるし、打たなければと思いがちですが、別のアプローチが効果的なこともあります。
一流選手は「もう打ちたいけど、この理由のためにやめます」という丸のつけ方もできる必要があります。簡単ではありませんが、村上選手もこの経験を生かして、さらに素晴らしいバッターになっていくでしょう。
Q. 「3日間嫌な思いをしなかったら気をつけた方がいい」とはどういう意味ですか?
指導者として難しいのは、選手が「はい」と笑顔で言っていても、実は全く理解していなかったり、内心では嫌がっていたりする場合です。そういうときよりも、嫌な顔をされた方が監督としては分かりやすいものです。
嫌な顔をされると「何かあったかな」「自分の行動がモチベーションを下げるようなことだったかな」と考えますが、若い選手たちの単なるわがままな行動もあります。そういったことが積み重なると、指導者にとってストレスになります。
本を読んでいると、人間にはプラスマイナス両方あるという教えがあります。「3日間嫌なことがない」のは異常事態で、嫌なことが起こるのは自然なことだと思えば、心の平穏を保てます。実際、何か嫌なことが起きると「やっぱりね」とほっとするんです。先人の知恵を借りて、自分の心を保っています。
Q. 自分との約束を守ることについて、どんな工夫をしていますか?
若い選手に本を渡すとき、表紙の余白に「監督さん、お父さん、お母さん、自分」と書いてもらい、将来の自分の姿を書いてもらいます。そして私も最後に「己との約束、破れるやつをくだらないやつはいない」という言葉を書き添えます。
自分で決めたことだけは必ず守ること。一つのことが守れると、全てのことが守れるようになります。できない選手は、多分どれもできていないのです。一つ守れることで自信にもつながります。
最終的には選手は自分でしか上手くなりません。コーチは大事ですが、人が上手くするわけではなく、選手が勝手に上手くなるのです。私たちはそのお手伝いをするだけです。
Q. 「命にかけて」という言葉への思いは?
確かに「命にかけて」という言葉を気安く使うなと言われることもありますが、私は今の全てをそこに注ぎ込んでいる感覚があります。
2つのこと、3つのことをやってもいいと思います。ただし、そのことをやっている時は100%そのことだけに集中し、全てのエネルギーを注ぐことが重要です。一つのことを成し遂げるのは簡単ではありません。
例えば、大谷翔平選手は「トレーニングだけは絶対にやめない」という信念を持っています。「疲れるから」「怪我するから」と言われても、「今これをやっておかないと将来このプレーができない」という思いでトレーニングを続けています。
自分が本当にやりたいことに対して全てをかけて向かわないと、なかなか勝てません。魂がそこにぶつけられるくらい向き合わなければ、神様は応援してくれない、手伝ってくれないという感覚が私にはあります。
