
石破政権の衆院選勝利確率は90%以上
石破政権のこれから —政治資金問題、内閣人事、衆院選挙まで— Q&A
政策研究大学院大学教授の竹中治堅氏に、石破政権の課題と展望について聞いた。

Q. 今回の総裁選で石破氏が選ばれた理由は何だったのでしょうか?
総裁選において、小泉進次郎氏は改革路線を打ち出しましたが、開口一番で雇用規制の見直しを強調したことが裏目に出たと考えられます。全国民に影響する改革は、有権者に「自分が悪影響を受けるのでは」という不安を与えがちです。税制改革、年金改革、雇用改革などは、慎重に打ち出す必要があります。
一方、より受け入れられやすい改革としては、シェアリングエコノミーのためのライドシェア全面解禁などを全面に出せば良かったでしょう。ライドシェアは反対するのがタクシー業界ぐらいで、国民全体は便利になる話です。民泊の全面改革も同様です。
総裁選では9人の候補者がそれぞれの「得意商品」を並べた印象でした。経済政策を細かく見れば、石破政権の経済政策としても取り入れる価値のあるものがあります。例えば加藤勝信氏は、国が賃金水準を決めている看護師などの賃上げを提案しました。岸田内閣でも実施されましたが、再度行うことは意味があるでしょう。
Q. 党員票による選出方法について、正当性はどうでしょうか?
自民党員は約110万人で、総裁選では党員票と議員票が半分ずつの割合になっています。今回のように9人の候補者が出ると、20人の推薦人がつくため、議員票の半分ほどが固定票になり、党員票の比重が高まります。
問題は、党員票の分布が全国民的な分布と一致していないことです。昔と比べて党員票と国民世論の乖離が大きくなっています。今回、世論調査では石破氏か小泉氏が人気でしたが、高市氏が党員票で1位となりました。
この乖離について考える必要があります。自民党とも議員内閣政である点を踏まえて、党員票のあり方を再考すべき段階に来ています。「民意とは何か」という問題です。
また今回問題になったのが、高市陣営のリーフレット問題です。自民党は「お金のかからない総裁選」を掲げ、大量の資料配布を禁止しました。しかし高市氏は党員約30万人にリーフレットを送付。高市陣営は「禁止前に発送手続きを終えていた」と説明していますが、本当に禁止前だったのか疑問視する声もあります。
これにより党員票が高市氏に寄った可能性があり、民主的政党性の問題になりかねませんでした。石破氏が「ルールを守る自民党」と言っているのは、この総裁選の問題も念頭に置いている可能性があります。
Q. 石破内閣の閣僚人事をどう評価しますか?
19人の閣僚のうち6人が推薦人であり、官房副長官2人も推薦人です。これほど推薦人を政権内に入れるケースは珍しいと言えます。
通常、政権の安定性を考えれば様々な勢力を取り込むべきですが、石破氏は「長くお共にした人たち」に報いる気持ちが強かったのでしょう。また、石破氏自身が政権中枢での経験が少なく、人事の戦略的な発想が乏しかったとも考えられます。
一般国民の視点では、小泉進次郎氏を規制改革担当大臣にするなど、人気のある改革派を重要閣僚に起用すれば良かったでしょう。河野太郎氏や小林鷹之氏なども人気があります。なぜそうしなかったのか不思議です。
石破氏は「党内野党的」な立場だったため、選挙には有利かもしれないと考えているのかもしれません。
Q. 衆議院選挙の見通しはどうですか?
自民党は衆議院選挙で過半数を取る可能性が高いと思います。総選挙を見る上で重要なのは「非自民が結集できるかどうか」です。自民党の得票数は比較的安定しており、問題は非自民票がまとまるかどうかです。
現在、野党は立憲民主党、維新、国民民主党に分かれており、さらに共産党もあります。前回の選挙では共産党と立憲民主党が選挙協力していましたが、今回は野田佳彦氏が立憲民主党代表となり中道路線を取っているため、共産党が多くの候補者を立てています。
野党が分散している状況では、自民党に有利になります。早期解散もそのためです。
衆院選で自民党が過半数を取る確率は9割程度でしょう。野党が統一候補を作れない理由は政策の違いにあります。維新と国民民主は中道派、立憲民主と共産は中道左派で、特に安全保障政策で隔たりが大きいです。
Q. 石破政権の政策はどのようなものになりそうですか?
石破氏は所信表明演説で5つの柱を掲げました。「国を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」などです。具体的な政策としては、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させる、防災庁を新設する、自衛隊の処遇を改善するなどがあります。
自衛隊の処遇改善は石破氏らしい政策であり、理にかなっています。防衛予算を増やしても自衛官の募集に苦労している現状があるためです。
一方、地方創生の交付金倍増については、アイデアを練ってから予算をつけるのが筋でしょう。小林鷹之氏を地方創生担当大臣にして、地方ごとの強みを活かした産業クラスター作りなどを推進する方が良かったかもしれません。
石破氏は安全保障政策には強い思い入れがありますが、国内政策では特筆すべき改革案は少ないです。経済政策は基本的に岸田内閣の政策を継続する方針で、最低賃金1500円を2020年代半ばに実現するとしています。これは以前よりも前倒しした点は評価できます。
都市層向けの政策は乏しく、規制改革も少ないため、都市部からの支持は厳しいかもしれません。ただし、首相が直接推進しなくても、各省庁が進める政策はある程度進むでしょう。
Q. 来年の参議院選挙や、その後の石破政権の見通しは?
参議院選挙のポイントは一人区で野党が候補者調整できるかどうかです。小さな県では小選挙区制なので、野党が統一候補を出せれば強いですが、現状では野党がまとまっていないため、自民党が有利でしょう。
参議院選挙を乗り越えれば、次の国政選挙まで時間があるため、支持率が下がっても政権は続く可能性が高いです。石破氏の自民党総裁任期は2027年までなので、比較的長期政権になる可能性もあります。
政権を脅かす要素としては、内閣支持率が危機的に低下した場合があります。一般的に支持率が25%を下回ると危険水域と言われています。ただし、地方での支持が強ければ、都市部での不支持を相殺できる可能性もあります。
最後に、裏金問題の議員への対応については、党内の規則や法的安定性の問題もあり、すでに処分を決めた後に追加処分することは難しい面があります。一部では比例代表の順位を下げるという案も出ています。
Q. 日本の政治における都市と地方の格差問題をどう見ますか?
自民党は伝統的に地方の支持が強く、都市部では支持が弱い傾向があります。これは選挙制度にも関係しており、衆議院では「一票の格差」が1対2、参議院では1対3まであります。これはかつての1対5、1対6よりは改善されましたが、依然として地方に有利な状況です。
選挙制度改革は難しく、議員自身も自分の選挙区が変わることを嫌がるため進みません。結果として、都市部の意見が十分に政治に反映されにくい構造になっています。
政党も当初は都市型政党として出発しても、全国政党になるために地方向けの政策を強めていく傾向があります。小沢一郎氏が民主党を率いた時も、最終的には農家向けの個別保障などを打ち出しました。
現在の日本政治において、都市層が投票したくなる政党が不足しているのは大きな問題です。