
政治の世代"混合"が起きている
自民党総裁選で見えた日本政治の変化:政策議論はどう進化するのか?
9人もの候補者が立候補した今回の自民党総裁選。派閥解消後初の選挙となり、多様な世代からの出馬で注目を集めている。この総裁選は日本の首相を決めるだけでなく、政策議論が一気に進む重要な機会だ。特に若者の政治参加や被選挙権年齢の引き下げといった論点も浮上している。衆議院議員の小林史明氏とノーユースノージャパン代表理事の能條桃子氏の対談から、日本政治の現状と未来について探る。

Q. 自民党総裁選の意義は何ですか?
自民党総裁選の意義は大きく3つある。1つ目は日本の総理大臣を決める選挙という点だ。与党自民党のトップを決めることは、自動的に日本の総理大臣を決めることに直結する。
2つ目は政策論争の機会という点。通常、自民党内では毎日朝8時から夕方5時頃まで、様々な分野の会議が並行して行われている。しかし、これらは省庁ごとに分かれており、省庁の枠を超えた大きな論点が出にくい構造になっている。総裁選では、これまで考えられなかった政策テーマが論点になったり、候補者全員が賛成することで一気に政策が進んだりする可能性がある。
3つ目は政策のアップデードだ。総裁選の1ヶ月間で政策議論が「3段階」一気に進むとされる。さらに、9人の候補者がそれぞれ自信のある政策をぶつけ合い、最終的に選ばれた総裁は他の候補者の良い政策も取り入れることで、自民党全体の政策がアップデートされる。
Q. 今回の総裁選で候補者が多いのはなぜですか?
今回の総裁選は派閥が解消された後、初めての選挙だ。これにより、9人もの候補者が出る結果となった。従来は派閥単位で候補者を擁立していたが、今回は各議員が自分の意思で候補者を選ぶ必要が出てきた。
この変化により、議員同士の理解が深まるメリットもある。お互いの価値観や重視するポイントが見えてくるからだ。また、派閥がなくなったことで、人事における年功序列的な要素が弱まり、多様な世代からの立候補が可能になった。
自民党の内部構造は、実は外から見えるより「ジョブ型」的な要素が強い。専門性とパフォーマンスが評価され、早くから実力を発揮できる環境がある。一方で、政府の人事は年功序列的だったが、これは派閥の影響が大きかった。派閥がなくなることで、この年功序列的な傾向が薄まっている。
Q. 被選挙権年齢の引き下げとは何ですか?その意義は?
被選挙権年齢の引き下げとは、立候補できる年齢を下げる取り組みだ。現在、衆議院と地方議会、市区町村の首長は25歳から、参議院議員と都道府県知事は30歳からしか立候補できない。これを18歳に一律引き下げようという議論が進んでいる。
この議論の背景には、年齢による能力の差に科学的根拠がないことや、成人年齢も20歳から18歳に引き下げられたこと、選ぶのは最終的に有権者であることなどがある。今回の総裁選では9人全員がこの引き下げに賛成を表明しており、次の選挙公約に入る可能性が高まっている。
被選挙権年齢が引き下げられることで、特に地方議会から変化が起きる可能性がある。若者の視点が議論に加わることで、政策の多様性や質が向上する期待がある。ただし、法律を変えるだけで若い候補者が急増するわけではなく、女性参政権と同様に時間をかけた変化が予想される。
Q. 総裁選で踏み込んだ発言はどのようなものがありましたか?
各候補者が従来の政権では言えなかった踏み込んだ発言をしている。例えば、高市氏は企業の内部留保に手を入れる可能性について言及し、石破氏は法人税増税や金融所得課税の引き上げを提案した。これは現政権のNISA拡大などの方向性とは逆の発想だ。
また、河野氏や小泉氏は労働市場改革について言及し、小林高之氏は宇宙庁の設立を提案した。茂木氏は増税や負担増をゼロにするという方針を打ち出し、加藤氏は所得倍増を掲げるなど、各候補が踏み込んだ政策を主張している。
こうした踏み込んだ発言が可能になった背景には、これまでの政権での議論で埋もれていたアイデアを、今この機会に提示することで支持を集めようという戦略がある。民間企業の全体会議で、普段言えなかった意見を出す機会に似ている。
Q. 若者と政治の関係をどう見ていますか?
若者と政治の関係を考える上で、「若者対高齢者」という対立構図に陥らないことが重要だ。実際には世代間で対立するテーマは多くなく、社会保障政策などでも単純な世代間対立では語れない。
ただし、若者の視点が政策に反映されにくい現状もある。例えばコロナ禍では、大学生が大学に行けない一方で観光支援策が進められるなど、若者の視点が欠けていた面がある。こうした状況を変えるためには、当事者が政治に参加する必要がある。
政治参加は投票や立候補だけでなく、日常的な議論や意見表明も重要だ。SNSでの発言も政治家に届き、政策に反映されることもある。また、地方では世代を超えた協力が進んでおり、若者が新しいアイデアを提供し、地域に根ざした年配者がそれを実現するための関係性を構築するなど、「世代混合」が重要な鍵となっている。
Q. 選択的夫婦別姓と気候変動対策の議論はどうなっていますか?
選択的夫婦別姓については、世論調査では賛成が多い一方で、自民党員の間では優先順位が高くない。反対派の主な懸念は戸籍制度がなくなることへの不安だが、これに対しては「戸籍制度は維持した上で、選択肢を増やす」という説明が必要だ。総裁選はこうした議論を進める貴重な機会となっている。
気候変動対策については、会見で言及する候補者が増えてきた点は進歩だが、まだ議論の深まりが足りない。気候変動対策は生活を苦しくするというイメージがあるが、実際には原発再稼働やCO2回収技術、バイオエタノールなど様々な選択肢がある。気候変動対策と生活向上が両立できることを伝えることで、より建設的な議論が可能になるだろう。
日本の特徴として、欧米とは異なり若者ほど気候変動に関心があるという傾向が見られない点も課題だ。しかし、気候変動は現実に進行している問題であり、対策は避けられない。
Q. 政治に関心を持ってもらうために何が必要ですか?
政治に関心を持ち、参画したいと思うためには、自分の意見が反映されて社会が変わる、自分の環境が変わるという体験が重要だ。市民が声を上げることで、実際に政策が作られた例もある。
SNSなどを通じて、小さな声や少数派の意見も届きやすくなっている現状を活かし、積極的に意見を発信することが政治家にとっても力になる。そして、多様な視点を政策立案に取り入れることが、複雑化する社会問題を解決するために不可欠だ。
日本社会全体として、誰もがプレイヤーとなり、固定的な役割分担を超えて意見を交わすことが、社会を前進させ、より自由に生き生きと暮らせる社会を作る鍵となるだろう。