
選択的夫婦別姓 機は熟した
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2024年9月25日
選択的夫婦別姓の実現に取り組む一般社団法人あすには 代表理事の井田奈穂氏。 選択的夫婦別姓は本当に必要なのか。 <ゲスト> 井田奈穂|一般社団法人 あすには 代表理事 早稲田大学卒業後、会社員として働く傍ら再婚で改姓と旧姓使用の限界を経験。 2018年法改正を求める事者団体「選択的夫婦別姓・全国陳...
選択的夫婦別姓で何が変わる?「この問題にずっと直面してきた」活動家が語る制度変更の重要性

「なぜこんな苗字に関わる不便を受け継がせなければならないのか」
Q. 自民党総裁選で選択的夫婦別姓が議論になっていますが、この問題の重要性について教えてください。
選択的夫婦別姓は非常に重要な問題です。経団連が動き出したことも大きなニュースになっています。実は3年ほど前から経済界に働きかけを行っており、政治の場だけでは決めていくのが難しいため、経済界の力を借りる必要がありました。昨年12月にサイボーズの青野社長(選択的夫婦別姓訴訟の原告でもある)の協力を得て、経団連、新経連、経済同友会などで勉強会を開催しました。その結果、昨年の国際女性デーには全ての団体が参加する形で政府要望を行い、その後、経団連から正式な政府提言が出されました。
Q. 経済界がこの問題に関心を持つ理由は何ですか?
これは女性役員の割合を2030年までに3割にするという政府目標に関係しています。ジェンダーギャップの解消が進んでいないことが日本の経済再生の足かせになっていると経済界が認識しているためです。ジェンダーギャップ指数の低下だけでなく、時間あたり労働生産性、名目GDP、世界競争力ランキングなど、様々な指標で日本は順位を落としています。人口の半分が働きづらい状況を放置し、給与などにも大きなジェンダー格差がある中で、この問題を改善しなければ経済的に立ち行かなくなるという危機感があります。そのため、経済界や労働組合からも声が上がっています。
Q. 井田さん自身がこの問題に気づいたきっかけは何だったのですか?
2016年に再婚しようとした相手(現在の夫)が癌の疑いで手術することになった時、事実婚の状態だったため病院での手続きができませんでした。「本当のご家族を呼んでください」と言われ、事実婚の妻や婚約者だと言っても認められなかったのです。法的な家族になる必要があると思い、再婚することにしました。
私は元々苗字を変えたいと思ったことは一度もなく、初婚の時も両親と配偶者から「女性が変えるのが当たり前」と言われ、「井田」という名前で20年ほどキャリアを積んでいました。再婚を考えた時、私が名前を変えたくないけれど法律婚しようとすると、夫が変えるしかない。しかし私が改姓しなければ、夫に元夫の苗字をつけることになるのです。それは酷だと思い、私が改姓することにしましたが、その後の手続きが大変でした。
Q. 名前を変更した後、どのような問題に直面しましたか?
2年経っても終わらない膨大な名義変更作業に苦労しました。印鑑登録、銀行口座(3〜4個持っている人が多い)、ネット通販の会員登録、資格証、パスポートなど、あらゆるところに名前が登録されています。子連れ再婚だった場合、子供たちが名前を変えたくないと言った場合、保護者名も全部変更する必要があります。学費のローンなども含めて非常に大変でした。
さらに、自分が築いてきた名前を完全に消し去る作業をしていくうちに非常に落ち込みました。仕事の実績を積み上げてきた名前が全部ひっくり返り、給与が振り込めなくなったり、書類のダブルネーム処理(「これは納税だから戸籍姓で、これは旧姓で」という使い分け)に苦労しました。人事・経理・総務の人にも多くの負担をかけることになります。
DXが進んで電子署名システムが導入されると「名前は一つしか入れられない」と言われ、システムに紐付く納税や社会保険、健康保険のために戸籍姓を使うよう求められました。これまで手書きで適当に使い分けができていた部分も、DXが進むとそれが難しくなります。
Q. プライバシーの問題もあるのでしょうか?
海外出張の手配をする際など、「名前を変えた、結婚した、離婚した」といったプライバシーに関わる情報を仕事関係者に説明しなければならず、プライバシー権の侵害だと感じました。仕事でしか知らない相手に「結婚して離婚して、口座がこっちで本当の苗字はこっち」といった説明や、パートナーが病気だったことまで言わなければならないこともあります。
また、法人を設立する際も、自分の名前ではなく夫の苗字を先に出さなければならないことに違和感を覚えました。誹謗中傷を受けていたこともあり、夫の苗字が登記上に載ると家族のプライバシーが侵害される恐れもありました。結局、6年経っても改善されない状況に、事実婚に戻しました。このような不都合を解消するために、選択制にすべきだと考えています。
「総裁選でこの問題が議論されることは心強い」
Q. 自民党総裁選でこの問題が議論されていることをどう思いますか?
非常に心強いと感じています。未来の総裁が総理大臣になれば、この問題が大きく進展するきっかけになるでしょう。私たちは法人化した際に2025年までの法改正を目指すと宣言しましたが、それが現実味を帯びてきました。
総裁選の候補者のほとんどは、以前から発足した「選択的夫婦別姓制度早期に実現する議員連盟」のメンバーです。高市さんと小林さん以外は賛成議連に名を連ねています。ただし、総裁選となると投票するのは党員や国会議員なので、1票でも減らさないために言葉を丸めたり、発言をぼかしたりする必要があるのかもしれません。そのため、積極的推進のように聞こえない方もいますが、私たちが把握している情報では、ほぼ全員が賛成の立場です。
ただし、岸田首相のように、総裁になった後にトーンダウンする可能性もあります。岸田首相は議員連盟の呼びかけ人でしたが、首相になってからは積極的な答弁をせず、繰り返しの答弁をするようになりました。それだけ党内の反発が厳しかったのでしょう。特に安倍元首相の存在や宗教思想団体との関係が強かったことが影響していました。しかし、それらの要因が薄れてきた今、バックラッシュはそこまで起こらないのではないかと考えています。
Q. 総裁候補の意見にはどのような違いがありますか?
小泉進次郎氏は積極的に推進する立場で、衆議院選挙の自民党公約の一つに掲げると答えています。総裁になれば法制化を進め、当事者の声を聞く機会も設けるとしています。また、自民党内で賛否が割れて結論が出ない場合は、2009年の臓器移植法案改正のように党議拘束を外して、議員個人の判断に委ねるべきだとも主張しています。
上川陽子氏は、自身も結婚で苗字を変えた時にアイデンティティの喪失を感じたと述べています。当事者として気持ちがよくわかるとしつつも、かつて賛成の立場で党内議論に参加した際に激しい対立に直面した経験から、無理に決めると分断が生まれることを懸念しています。総理になれば政府内に有識者検討会を設けて意見交換すると答えています。
高市早苗氏は、公約にはしない、法制化も進めないとしつつも、首相就任時には旧姓を通称使用できる制度を国や地方自治体、公共団体、事業者に義務づける法律案を提出するとしています。この法案が成立すれば結婚で姓が変わることによる不便はほぼなくなると考えているようです。ただし、党議拘束を外した場合の国会審議もあり得るとしています。
Q. 旧姓の通称使用では問題は解決しないのでしょうか?
旧姓の通称使用では根本的な問題は解決しません。旧姓対応すると言っている銀行でさえ、実際には口座開設を断るケースが多いです。「旧姓で働いている実績があるか」「フリーランスなら家まで行って確認する」「有名人や弁護士ならOK」といった基準で、一般の会社員は断られることが多いのです。
証券業界ではほとんど旧姓は使えず、TOEICなどの資格試験でも戸籍姓のみというところがあります。パスポートも問題で、「田中(佐藤)」と表記されていても、ICチップには「田中」しか入っていないため、表記と内部データが一致せず、入国審査で説明を求められたり、拘束されたりするケースがあります。
アメリカ駐在の女性の例では、旧姓併記パスポートを持っていても、就労ビザは戸籍姓でしか作れず、パスポートと就労ビザの名義が一致しないため、アメリカ滞在中の身分証明書や運転免許証が作れなかったケースもあります。これはビジネス上も大きなリスクです。本人が望む法的な氏名一本で統一するのが、最も解決が早くコストもかからない方法です。
「選択制である限り、誰も損をしない」
Q. 今後、この議論をどのように広げていきたいですか?
選択制である限り、誰も損をしません。日本以外の国では、国際結婚においてもお互いの名字を尊重し合うのが当たり前です。家族の一体感がないとか、子供がかわいそうといった意見は、閉じられた中での偏見だと思います。内閣府の専門委員会でも、こういった偏見は法改正して選択肢を広げることでなくなっていくという結論が出ています。
選択肢を広げることは、将来自分の人生を振り返った時に、また自分の子供が自分の名前を維持したいと思った時に選べるということがどれだけ幸せにつながるかを考えてほしいです。社会全体の幸福度を上げるために、選択制である限り反対する理由はないと思います。
2025年の法改正を目指していますが、来年の通常国会でしっかりと法案が議論され成立し、2年後くらいに施行された時には、日本中の人たちと一緒に婚姻届を出す日を決めて、皆でお祝いできればと考えています。