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教養としての経営学【岩尾俊兵】
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2024年9月4日

人生を豊かにする経営学を岩尾俊兵が解説。仕事・家庭・恋愛 どんな場面でも使える経営学とは? <ゲスト> 岩尾俊兵/慶應義塾大学准教授 中学卒業後に陸上自衛隊へ入隊。 大学入学資格検定を取得後、慶應大学に入学し卒業。 その後、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程終了。 東京大学史上初の...
「価値無限」か「奪い合い」か?人生が変わる経営学の秘密
東京大学史上初の経営学博士が明かす、学問の真の価値と実践法

Q. 経営学を学ぶ意義とは?
経営学というと、「企業経営のための学問」というイメージがあるかもしれない。しかし実際には、私たちの日常生活から社会の大きな問題まで、多くの場面で活用できる思考法だ。
人生が豊かになる経営学について、慶應大学准教授で東京大学史上初の経営学博士である岩尾俊兵氏に聞いた。
Q. 経営学には構造があるというが、どういうことか?
経営学には3つの階層がある。最も身近なのは「実践レベル」の議論で、トヨタやAmazonといった特定企業の成功事例を分析するものだ。ビジネス書コーナーにある本の多くはこのレベルだ。
その上に「思考枠組みレベル」の議論がある。これは個別事例を抽象化・一般化してロジックを抽出したもので、学問としての経営学説に当たる。なぜうまくいくのかという理由を明らかにする。このレベルの理解があると、成功事例を絶対視せず、状況に応じて適切なアプローチを選べるようになる。
さらにその上に「哲学レベル」の議論がある。これは思考枠組み自体を相対化し、「どう生きたいか」という根本的な問いと結びつける。この階層まで理解すると、複数の経営理論を自分の価値観に合わせて使い分けられるようになる。
Q. 話題の「いただきマニュアル」と経営学には関係があるのか?
「いただきマニュアル」が一部で注目されているが、実はこれは最新の経営学理論に基づいている。マニュアルに登場する「定価王子」「ギバー王子」「マッチャー」という概念は、ペンシルバニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授が提唱した経営学の概念そのものだ。
だからこそ経営者が見てその内容の優れた点に気づくのは当然だが、哲学レベルの理解がなければ、経営学は「人からうまく金を奪い取るためのずる賢い知恵」というような悪徳学問になってしまう。
本来、経営学は「他者と自分を同時に豊かにするため」「誰もが価値を感じるものを作り出す」ために存在している。頭を使って新しい価値を生み出し、みんなが豊かになることが目的だ。
Q. 経営学の視点から見ると、日本社会の問題はどう説明できるのか?
現代日本の様々な問題は、実は「経営概念の誤解」から生じている。
経営者は「経営を任せられる人がいない」と悩み、従業員は「給料が安い」「時間がない」「仕事がきつい」と不満を持つ。また、凶悪犯罪や詐欺の増加、企業不祥事の頻発、人口減少なども深刻な社会問題だ。
これらは一見バラバラに見えるが、根底には「価値有限」という考え方がある。世の中の価値は限られていて、誰かが豊かになれば誰かが貧しくなるという「奪い合い」の発想だ。
この考え方では、経営者と従業員は対立関係になり、顧客に粗悪品を掴ませれば自分の利益になると考えて不正を働き、お金を持つ高齢者から奪えば自分が豊かになると思って詐欺を働く。
Q. 「価値有限」の考え方は、どこから来たのか?
日本の経済停滞は、円高政策が一因だ。1985年のプラザ合意以降、円の価値は国際的にも国内的にも高まった。2011年頃までに円の価値は約5倍になり、働かずにお金を持っているだけで豊かになれる状況が生まれた。
その結果、お金を使わず貯め込む傾向が強まり、市場は縮小。経済成長が止まった。市場が大きくならないので、奪い合いの発想が広がったのだ。
戦後の日本は、焼け野原から資源もないのに20数年で世界第2位の経済大国になった。この時頼りにしたのは「人間の頭脳」だけ。まさに価値創造大国だった。しかし豊かになりすぎたことで、国際政治の中で日本市場を縮小する方向に動いてしまった面もある。
Q. 「価値無限」の発想とは何か?
「価値無限」とは、世の中の価値は創造できるという考え方だ。例えばジムビジネスで考えると、既存のジム利用者100人を奪い合うのではなく、市場そのものを大きくする発想が重要になる。
今までジムに興味がなかった人にジムに行ってもらったり、ジム利用者に複数のジムを「はしご」してもらったりと、市場自体を拡大する方法は様々だ。
価値無限の例としては、芸術やお笑い、紙幣、半導体などがある。特に半導体は、地球の3割を占めるシリコンという、どこにでもある素材から高い価値を創造している。
価値は無限に作れると考えると、経営者も従業員も株主も顧客も政府も、みな「仲間」になる。お笑いを例にすると、ネタを考える人、それを実現する相方、コントのセットを作る人など、全員が協力し合い、さらにお客さんも喜んでお金を払う。この連携のどこかが途切れると、ビジネスは成立しない。
Q. 「価値有限」と「価値無限」、どちらが正しいのか?
どちらか一方だけを選ぶのではなく、両方の発想を持ち、状況に応じて使い分けることが重要だ。奪い合いを仕掛けてくる相手には「STPパラダイム」(市場をセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングする戦略論)で対抗し、協力できる相手とは価値創造で関係を築く。
これは経営者だけでなく、すべての働く人が持つべき発想だ。そして政府も「価値無限」を促進する政策を打つ必要がある。
Q. 経営学は日常生活にどう活かせるのか?
経営学の考え方は、仕事だけでなく家庭や恋愛など日常のあらゆる問題解決に応用できる。
例えば「楽な仕事につきたい」という欲求は、「奪う」発想だ。これを「作る」発想に変えると「楽な仕事を作りたい」となり、さらに「利己」から「利他」に変えると「すべての仕事を楽しくしたい」という建設的な目標に変わる。
給料への不満も、単に「給料を上げる/上げない」という対立ではなく、「会社の成長」という共通目標から考えれば、様々な解決策が見えてくる。
経営学の本質は、悩みを解決するための思考法を提供することにある。価値有限と価値無限、両方の視点を持つことで、人生の様々な局面で新たな可能性が開けるだろう。