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『嫌われる勇気』が世界と時代に選ばれた理由
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2024年8月30日

10年以上売れ続けている『嫌われる勇気』が世界と時代に選ばれた理由、後半ではライターとして心がけていることを『嫌われる勇気』著者の古賀史健氏に聞いた。
10年前のベストセラー『嫌われる勇気』 著者が語る「アドラー心理学の真髄」とは
300万部を突破した自己啓発書「嫌われる勇気」。その著者・古賀史健氏に、アドラー心理学の本質と誤解されがちな概念について聞いた。勇気、対人関係の悩み、承認欲求など、多くの人が抱える普遍的なテーマについて、深い洞察を提供する。
Q. 「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」シリーズが世界中で読まれている理由は?
日本では300万部、世界では1300万部を突破した「勇気シリーズ」。アドラー心理学の解説書として知られるこの本は、アメリカやアジア、ヨーロッパだけでなく、ブラジルでも非常に多く読まれています。これは人間の悩みが国や文化を超えて共通していることの証でしょう。
Q. アドラー心理学とは何ですか?
アドラー心理学は、ウィーン出身の精神科医アルフレッド・アドラーが約100年前に創設した心理学です。アドラーは大学などのアカデミズムにこだわらず、「私の心理学はみんなの心理学だから」と一般の人々に分かりやすい言葉で人間について語ることを重視しました。専門用語を極力使わず、一般の人々との対話を大切にしたため、フロイトやユングと比べてアカデミズムの中に浸透しにくかったという歴史があります。
Q. 「原因論」と「目的論」の違いは何ですか?
フロイトやユングなどは「原因論」的な考え方をします。つまり、人生の問題には必ず何らかの原因があると考えるのです。例えば「学歴がないから出世できない」「幼少期のトラウマが今の自分を作っている」といった考え方です。
一方、アドラーは「目的論」を提唱しました。人間は今抱えている目的に向かって生きている存在であり、過去の原因ではなく現在の目的が行動を決めているという考え方です。例えば、出世できないと嘆く人は、実は挑戦して失敗するリスクを避けるという「目的」のために、学歴という変えられない過去を理由にしているのかもしれません。
Q. アドラーはトラウマを否定しているのですか?
アドラーはトラウマの存在自体を否定しているわけではありません。トラウマ(心的外傷)は誰もが抱えるものであり、アドラー自身も第一次世界大戦で軍医として多くの傷ついた兵士を見てきました。
彼が主張したのは、トラウマに人生が完全に支配されるわけではないということです。どんなトラウマがあったとしても、この先の人生を決めるのは自分自身であり、人には選ぶ道があるという考え方です。トラウマが人生を決定づけるという決定論ではなく、人間はいつからでも変わることができるという可能性を示しています。
Q. 「全ての悩みは対人関係の悩みである」とはどういう意味ですか?
アドラー心理学では、人間の行動の根底に「劣等感」があると考えます。この劣等感という概念自体もアドラーが作ったものです。劣等感は対人関係の中で生じるものであり、例えば身体的な特徴について悩む場合でも、無人島にいれば悩む必要はないのです。悩みが生まれるのは「周りの目」があるからです。
お金が足りないと感じるのも、何かに比べて足りないと思うから。仕事に満足できないのも、同期の活躍と比較するから。このように見ると、私たちの悩みの根源には常に他者との関係があることが分かります。
Q. 「課題の分離」とは何ですか?
課題の分離とは、自分の課題と他者の課題を明確に区別する考え方です。自分の課題とは、自分がどう生きるか、どんな仕事を選ぶかなど自分に関わることです。一方、他者の課題とは自分ではコントロールできないこと、例えば周りの人がどう思うかということです。
例えば、上司が自分を正当に評価してくれないと悩む場合、上司がどう評価するかは他者の課題です。「もっと評価してくれ」と思ったり要求したりすることは、実は他者の課題に介入していることになります。
重要なのは、自分が他者に介入しないことです。他者の考えについて「もっとこうしてくれ」「ああしてくれ」と要求すること自体が課題の境界線を越えています。
Q. 「嫌われる勇気」というタイトルには誤解がありますか?
このタイトルについては誤解が生じることがあります。英語版では「The Courage to be Disliked」(好かれないことの勇気)であり、「The Courage to be Hated」(憎まれることの勇気)ではありません。
つまり、積極的に嫌われに行くことや、傍若無人に振る舞うことを推奨しているのではなく、「好かれようとしない勇気」を持つことが大切だという意味です。他者から好かれることを過度に求めず、自分の道を歩む勇気を持つことが本書のメッセージです。
Q. アドラーは「承認欲求を持ってはいけない」と言っていますか?
承認欲求は人間の普遍的な欲求ですが、アドラーの考えを深く理解すると、承認を求める気持ちは自分に自信がない状態から生まれることが分かります。例えば、大谷翔平選手のような自分に自信がある人は、承認欲求にとらわれて行動しないでしょう。
アドラー心理学では、自信のなさを「勇気がくじかれている状態」と表現します。そこから抜け出す方法は、他者や社会に貢献することです。貢献した結果として承認が生まれることはありますが、それを求めてはいけません。たとえ周囲が認めてくれなくても、自分が貢献しているという「貢献感」があれば、それだけで幸せに生きることができるというのがアドラーの考えです。
Q. 「褒めても叱ってもいけない」という考え方はどういう意味ですか?
「叱る」という行為には、上下関係や縦の関係が前提としてあります。子供が親を叱る、部下が上司を叱るというのは日本語として違和感がありますよね。アドラーは、親子関係や上司・部下の関係も含め、あらゆる関係を「横の関係」として結ぶべきだと言います。
横の関係では「叱る」のではなく、「共同の課題」として問題を捉え直します。例えば、物を片付けない子供に対して「片付けなさい」と命令するのではなく、「散らかっていると私も困るし、きっとあなたも困るはずだ」と共同の課題として話し合い、冷静に結末まで考えていくアプローチを取ります。
このように、課題を分離した上で再び「共同の課題」として捉え直し、互いが納得した上で行動を変えていくことを提唱しています。
Q. 「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」はどのような関係にありますか?
「嫌われる勇気」はアドラー心理学の大きな地図を示した本です。出版後、「具体的にどうすればいいのか」という反響が多く寄せられたため、その地図を使って実際にどう進むかという「コンパス」の役割を果たす本として「幸せになる勇気」を執筆しました。
「幸せになる勇気」では、主人公の青年が「嫌われる勇気」で教えを受けた後、実践できずに数年後再び哲人を訪ねるという設定になっています。これは多くの読者が「分かった気になるけれど実行は難しい」と感じることへの応答でもあります。