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世界累計1300万部『嫌われる勇気』で伝えたかったこと
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2024年8月30日

アドラー心理学を一躍に有名にした『嫌われる勇気』の発売から10年が経ち、本書に込めたメッセージ、世間の誤解などについて、改めて、ライターで『嫌われる勇気』著者の古賀史健氏に聞いた。 <ゲスト>古賀史健|バトンズ代表/ライター 1973年福岡県生まれ。1998年出版社勤務を経て独立。2015年バ...
「嫌われる勇気」著者が明かす、アドラー心理学が教える幸せへの道
世界累計1300万部、国内で300万部を突破した『嫌われる勇気』。発売から10年経った今も読み継がれる理由とは何か。アドラー心理学の教えが多くの人の心を捉え、生き方を変える力を持つのはなぜなのか。著者の古賀史健が語るアドラー心理学の真髄と、よくある誤解について紐解いていく。

Q. 『嫌われる勇気』が伝えたかった最大のメッセージは何ですか?
勇気というキーワードがこの本の一番大切なメッセージです。私自身、20代の終わり頃にアドラー心理学に出会いました。当時は映画の仕事をしたいと思っていましたが、「自分に才能はあるのか」「どれくらいの能力があるのか」といった悩みを抱えていました。
そんな時、アドラーの考え方に触れて衝撃を受けたのは「才能、能力、知識、経験、そういうものは関係ない。あなたに足りないのは勇気だ」というメッセージでした。勇気がないからそこにいるんだ、と言われた時、世界がひっくり返るような感覚でした。
この本で岸見一郎さんと私が一番伝えたかったのは、人生においてジグソーパズルの最大のピースは「勇気」だということです。最初のピースなのか最後のピースなのかは分かりませんが、最も重要なピースは勇気なのです。
Q. アドラー心理学とはどのような考え方なのですか?
アドラー心理学は、ウィーン出身の精神科医アルフレッド・アドラーが20世紀初頭、約100年前に創設した心理学です。アドラー自身はアカデミズムをやや毛嫌いしていました。大学から「ここで教えるなら他では教えないでほしい」と言われた時、「私の心理学はみんなの心理学だ」として断固として断りました。
そのため、フロイトやユングとは異なり、専門用語を極力使わず、一般の人にも分かる言葉で人間について語ることを大切にしました。一般の人との対話を重視したため、アカデミズムの中にはあまり浸透せず、現在に至っています。
Q. 「原因論」と「目的論」とはどういう意味ですか?
フロイトやユングなどは「原因論」の立場をとり、物事には何らかの原因があると考えます。例えば「仕事がうまくいかないのは学歴がないから」と原因を探したり、トラウマのような過去の出来事が今の自分を形作っていると考えるのが原因論です。この考え方は物語として分かりやすいものです。
それに対してアドラーは「目的論」の立場をとります。人間は今抱えている目的に向かって生きている存在だという考え方です。例えば「出世できないのは学歴のせいだ」と考えている人は、その言い訳を持ち出すことで、本来やるべき努力や一歩踏み出す勇気を持たずに現状に甘んじているのです。
現状に不満があっても、挑戦しない人は恐怖やリスクを避けるという目的にかなった行動をしているとアドラーは考えます。過去の経験や生まれつきの条件など変えられないものが人生を支配していると考えると、未来は変えられないことになります。しかしアドラーは「人生はこれからいくらでも変えられる。変わらないとしたら、それは勇気が足りないからだ」と教えてくれるのです。
Q. トラウマについてアドラーはどのように考えていますか?
アドラーはトラウマを否定していますが、トラウマそのものがないと言っているわけではありません。トラウマ(心的外傷)は誰でも抱えているものです。アドラー自身も第一次世界大戦で軍医として従軍し、多くの傷ついた兵士たちを見てきました。
アドラーが言いたかったのは、「トラウマに人間は翻弄される存在ではない」ということです。トラウマはあるけれど、それは人生を決めるものではなく、たとえどんなトラウマがあったとしても、この先の人生を決めるのは自分自身だということです。自分には選ぶべき道があると主張しています。
もしトラウマが本当に人生を支配するなら、それは一種の決定論になってしまいます。「こういう境遇に生まれたから」「こういう経験をしたから」と、自分では動かせないものになってしまいます。しかしアドラーの考え方では、人間は今この瞬間からどんな風にでも変わることができ、今この瞬間から幸せになることができるのです。
Q. 「全ての悩みは対人関係の悩みである」とはどういう意味ですか?
アドラー心理学の根底には「人間は何に突き動かされているのか」という考え方があります。アドラーは「劣等感」だと言います。劣等感という概念自体もアドラーが作ったものですが、誰しもが何かしら自分に欠けているものがあると感じています。その劣等感を補おうとする気持ちから人はさまざまな行動をとります。
例えば私は右の肘に痣があり、思春期の頃はそれを恥ずかしいと思い、サポーターをつけて隠したりしていました。しかし家にいる時や無人島にいるなら恥ずかしいとは思いません。恥ずかしいと思うのは周りの目があるからです。
このように、人間が何かに悩んでいるときには必ず他者が関わっています。「お金が足りない」という悩みも、何に比べて足りないのかと考えると「あの人は車を買えるのに」という比較から生まれます。「今の仕事に満足できない」という悩みも、「同期があれだけ活躍しているのに」という他者との比較から生まれるのです。
特に今はSNSなどでキラキラした他者の姿が目に入りやすく、自分では気づかないうちに対人関係の悩みを抱えているケースが多いのです。
Q. 「課題の分離」とは何ですか?
課題の分離とはアドラー心理学の中核にある考え方で、対人関係の悩みを解消するために「自分の課題と他者の課題を切り離して考えなさい」というものです。
自分の課題とは、自分がこれからどう生きるか、どんな仕事を選ぶか、どう働くかなど自分に関わることです。それに対して周りの人がどう思うかは他者の課題であり、自分にはコントロールできません。
例えば私が新しい本を書いたとして、それに対して読者がどんな批判をするかは私にはコントロールできません。自分にコントロールできないことは全て他者の課題だと考えるのが分かりやすいでしょう。
課題を分離して、自分の課題には誰も介入させないし、逆に他者の課題には自分も介入しないという線引きをする考え方が「課題の分離」です。「嫌われる勇気」というタイトルも、究極的にはこの課題の分離と結びついています。
Q. 「嫌われる勇気」というタイトルについて誤解されていることはありますか?
英語版では"The Courage to be Disliked"と訳されていますが、"The Courage to be Hated"ではないんです。つまり「ヘイトされる勇気」ではなく「好かれようとしない勇気」というニュアンスなのです。
積極的に嫌われに行ったり、傍若無人に振る舞ったり、周りのことを無視したりすることを推奨しているわけではありません。好かれようとしない勇気を持つことが大切なのです。
日本語の「嫌われる勇気」だけを見ると「何をしてもいいのか」と誤解されがちですが、そうではないのです。
Q. 承認欲求についてアドラーはどう考えていますか?
承認欲求は人間の普遍的な欲求です。私も最初、アドラーが承認欲求を否定するような考え方には「本当にできるのか」と思いました。しかし深く学ぶと、なぜ他者から承認されたいと思うのかというと、それは自分に自信がない状態だからだと分かります。
例えば大谷翔平選手が承認欲求バリバリで「いいね」を求めて行動するでしょうか?しないと思います。本当に自分に自信があり、自分のしていることに確信を持っている人は、ある程度承認欲求から自由になっています。
承認欲求に囚われるのは自信のなさの現れで、アドラー心理学ではそれを「勇気がくじかれている状態」と言います。本来、人間が持っている勇気が何らかの原因でくじかれているのです。
では承認欲求からどう自由になるかというと、自分自身が他者や社会に貢献していくことです。仕事でも、ボランティアでも、家の掃除でも何でもいいので他者に貢献する。そして貢献した結果として承認が生まれることもありますが、必ずしもそうではありません。
一生懸命貢献しても認めてもらえないこともあります。それも課題の分離で求めてはいけないのですが、アドラーが大切にしているのは「自分が貢献していれば、少なくとも貢献感は得られる」ということです。その貢献感があれば幸せに生きることができ、自信を持って自分に価値があると感じられるのです。
Q. 「褒めても叱ってもいけない」という考え方はどういう意味ですか?
「叱る」という行為には上下関係が潜んでいます。部下が上司を叱る、子どもが親を叱るというのは日本語として不自然ですよね。叱るという言葉や行為には「上から下へ」という縦の関係が含まれています。
アドラーは親子であれ、上司と部下の関係であれ、あらゆる関係は横の関係を結ぶべきだと言います。横の関係であれば「叱る」というアプローチではなく、注意をしたり質問したりするようになります。
課題の分離だけだと分かり合えないままになってしまうため、アドラーは「共同の課題」という第二段階を提唱しています。例えば物を片付けない子どもを叱りたくなった親がいるとします。叱るのではなく「部屋が散らかっていると私は困るし、きっとあなたも困るはずだ」と共同の課題にします。
「片付けなさい」と命令するのではなく、「私も困っているし、あなたも困っているはずだ、どうしたらいいだろう」と話し合うのです。そして冷静に話し合い、「このまま放置するとどうなるか」という結末まで考える。アドラーはこれを「結末の体験」と呼びます。
一旦課題を分離した後、共同の課題に戻して、結末を体験し、お互いが納得した上で行動を変えていくことをアドラーは提唱しているのです。
Q. 職場での対人関係にアドラー心理学をどう活かせますか?
例えば企業のチームで態度の悪い、やる気のないメンバーがいる場合、みんなが迷惑します。「課題の分離」として「あの人には何も言えない」と放置すれば、チーム全体のパフォーマンスが低下してしまいます。
そこでチーム全体の課題として捉え、「あなたがそういう態度でいることはチーム全体に影響し、最終的にはあなた自身の評価にも繋がる。これは一緒に何とかしなければならない問題だ」と共同の課題にします。
そして「このままプロジェクトが進んでいったらどうなるだろう」と結末を体験して、「ではこう変えていこう」という話し合いを、面倒でも一つ一つ行っていくのがアドラー心理学のアプローチです。
アドラー心理学は自分を知り、自分を変えていくための心理学です。この本が10年経っても読み継がれるのは、人間の普遍的なテーマを扱っているからでしょう。韓国や台湾でも歴史的な大記録を残すほど売れました。
今まで持っていた常識や凝り固まった考えを覆してくれる本なので、特に企業の経営者の方にこそ読んでいただきたいと思います。