Deep Interview
小林鷹之氏に7つの質問。保守の経済政策とは?
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2024年8月26日

自民党総裁選に一番乗りで立候補した、前経済安全保障担当大臣の小林鷹之氏。「経済こそ国力の源泉」と語る小林氏に、保守としての経済政策について7つの質問をぶつけた。 <ゲスト> 小林鷹之|衆議院議員 1974年千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省。ハーバード大学ケネディ行政大...
小林鷹之氏が描く新たな日本の経済戦略 - 「保守」の視点から見た国力向上への道筋
小林鷹之氏は自民党総裁選に向け、「国力」をキーワードに経済政策のビジョンを語った。世界をリードする国を目指すには「経済」と「安全保障」の二軸が不可欠であり、その根底に「イノベーション」と「人づくり」があるという考えだ。保守の思想に立脚しながらも、具体的で現実的な政策提言は多くの示唆に富んでいる。
Q. 「保守」の経済政策とは何を意味するのでしょうか?
日本における保守の経済思想とは、先人が積み上げてきた価値や伝統を大切にしながら、時代に合わせて必要な改革を行うというアプローチです。しかし、今あるものを全て切り捨てて新しいものを急に作るのではなく、段階的に世の中を改良していく姿勢を指します。
日本には「石門心学」に代表される、「商売は公のために行うもの」という考え方があります。自分だけが利益を得るのではなく、「我も立ち、彼も立つ」という精神です。これは現代で言うステークホルダー資本主義に通じるもので、株主だけでなく、従業員、取引先、顧客、地域社会など、関わる全ての人が幸せになるような経済のあり方が日本の保守思想に合致します。
最近話題のESGやSDGsといった概念も、日本では古くから存在していた価値観だと言えるでしょう。市場に全てを任せるのではなく、関係者全員が幸せを感じられる経済のあり方が、日本なりの経済の姿なのです。
Q. 小泉政権の「改革」についてはどう評価しますか?
小泉政権には突破力がありました。しかし、「自民党をぶっ壊す」というスローガンは、保守思想からすると違和感があります。何かを改革する際に求心的な改革はあまり好ましくないと考えています。
フランス革命のように「アンシャンレジーム(旧体制)をぶっ壊せ」と言うのは良いのですが、その先に新しい形がなければ無責任です。単に現体制に不満があるから壊すというのは政治のあり方として無責任だと思います。先を見据えた上で改革を進めていくのが本来のあるべき姿です。
政治手法として国民の力を結集させるのは一つの方法かもしれませんが、その先に政治家として冷静に着地点を描けているならば、それは一つのやり方として認められます。
Q. エネルギー政策についてはどのような考えをお持ちですか?
現在のエネルギー基本計画については一部違和感があります。DXの進展により電力需要が急増することは明らかでした。情報通信産業だけでも電力消費量が爆増します。しかし、当時の政府内では経済産業省と総務省のデータが整合しておらず、統一された見解がありませんでした。
先進国として、毎年国民に節電要請をするような状況は理想的とは言えません。どのような状況でも安定供給を確保し、できるだけ安価に提供することが、暮らしを守り産業競争力を高めることにつながります。そのためには、原子力については安全性を担保した上で再稼働を進め、リプレース(建て替え)も含めて検討すべきです。
ただし、一つのエネルギー源に偏ることは危険です。現行のエネルギー基本計画では再生可能エネルギーを36~38%とする目標がありますが、これは理論的根拠というより「カーボンニュートラルを進めなければならない」という前提から逆算した数字のように思えます。
再生可能エネルギーは重要ですが、太陽光パネルなどは特定国に依存しており、サプライチェーンの観点からリスクがあります。また、国富の流出につながる可能性もあります。さらに、再エネの導入には調整電源としての火力も必要になり、LNGは備蓄に向かないため供給リスクもあります。
したがって、様々なシナリオを想定してバランスの取れたエネルギーミックスを目指すべきです。より現実的なエネルギー基本計画に見直し、中長期的には核融合などの次世代エネルギーも視野に入れるべきです。
Q. 原発再稼働を加速させるには何が必要ですか?
原発再稼働を加速させるには、安全性をしっかり担保した上で、政治的な働きかけを強めることが重要です。地域の皆さんのニーズに応え、国としてもっとコミュニケーションを取り、できることがあれば積極的に実施すべきです。
また、原発産業については、「原発への依存度を低減する」という現行計画の表現を見直す必要があります。若くて優秀な人材が「原子力を学んでも将来性がない」と考えないよう、国としてポジティブなメッセージを発信すべきです。廃炉にも長期間かかり高度な技術が必要ですし、産業力強化のためにも原子力は必要という明確なメッセージが重要です。
Q. 再生可能エネルギーの買取制度はどうすべきですか?
現在のFIT(固定価格買取制度)からFIP(フィードインプレミアム)制度に移行していますが、これを急に廃止すれば国家賠償問題になりかねません。問題は、これから再エネ設備を建設しようとする人たちに対する制度設計です。
一つの案として、国産設備に限定するなどの要件を付けることも検討すべきです。日本が世界と競争できる分野、例えばペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、地熱などの技術開発をしっかり進めながら、国民負担をできるだけ減らす方向で再エネに取り組むべきでしょう。
Q. 「新日本創造計画」とは何ですか?
「新日本創造計画」は、全国各地に産業クラスターを作り、地方創生と経済成長を同時に実現する構想です。熊本のTSMCプロジェクトのように、国が一定の資金を投入し、民間企業を呼び込むことで、地域に新たな産業基盤を形成します。
TSMCの誘致により、約60社の企業が熊本に進出または工場を拡張し、雇用機会が増え、所得や賃金も上昇しています。若い人材も集まり、地域が活性化する好循環が生まれています。10年間で約20兆円の波及効果があるとされ、国の投資額を上回る税収が見込まれています。
この成功モデルを半導体だけでなく、航空宇宙、海運、データ、金融、グリーンなど様々な産業分野に拡大し、地域の特性やニーズに合わせて展開します。国と民間企業、研究機関が連携し、10~15年先を見据えたビジョンを共有しながら進めることで、東京一極集中の是正にもつながります。
Q. 賃上げを持続的に実現するには?
賃上げを持続させるには、新たな産業政策を通じて地域の中小企業を巻き込み、プロジェクトを成功させることで企業収益を上げ、労働分配率を高めることが重要です。
また、大企業と中小企業、元請と下請けが対等な立場で共存関係を築き、働く人の7割を占める中小企業が適正な価格転嫁を行い、賃上げに回せる収益を確保できる環境を整えることが必要です。資材価格や電力価格、労務費が上昇する中、サプライチェーン全体で賃上げができる構造的な環境を作っていくべきです。
国が直接できることとしては、保育や介護などの現場の賃金を引き上げることが挙げられます。これらは公定価格のため、国が賃上げを主導できる分野です。民間企業に賃上げを要請するのであれば、まず国が率先して保育や介護の現場に物価スライド制度のようなものを適用することも検討すべきです。
Q. 労働市場改革についてはどう考えますか?
労働市場の流動性を高めることは必要ですが、日本型の「メンバーシップ型雇用」が全て悪いわけではなく、バランスが重要です。ただし、現在の人口構造や社会状況を考えると、労働市場は自然に変化せざるを得ません。労働市場が売り手市場になる中で、現行の雇用法制が適切かどうかは検討する必要があります。
労働市場の流動性が低いと労働規制が強くなり、賃金が上がりにくい構造になります。成長産業に人材が移りやすくなるよう、雇用法制のあり方を見直すべきでしょう。
Q. 為替と国力の関係をどう捉えていますか?
本来、国力が向上すれば通貨価値も上がるため、円高に向かうのが自然な流れです。ただし、経済のファンダメンタルズを反映していない急激な市場変動は好ましくありません。
貿易収支の改善は重要な課題です。特にデジタル収支の赤字は国富の流出を意味します。現在、インバウンド観光やゲームなどのコンテンツで稼いでいる部分が、デジタル分野の赤字で相殺されている状況です。
日本企業はプラットフォームやAI、クラウドなどの分野で出遅れているかもしれませんが、半導体の例のように、国家戦略として位置づけ、国内にデータセンターを整備し、デジタル化を進め、日本企業がサービスを提供できる体制を整えることが重要です。
Q. 社会保障の「第三の道」とは何ですか?
社会保障の「第三の道」とは、給付か負担かというゼロサムの議論ではなく、人生全体で見た時間軸での考え方です。また、医療費の増加が見込まれる中で、予防医療に重点を置くという発想の転換も含みます。
病気になってから治療するより、事前に健康増進にお金をかけた方が、生活の質も国の財政も良くなります。デジタル技術を活用したパーソナルヘルスレコード(PHR)や電子カルテの普及により、重複検査や投薬を減らし、医療費全体を削減できます。
その削減分を財源として、例えば健康保険をあまり使わない人の保険料を下げるなど、特に若い世代の社会保障負担を軽減する方策を検討すべきです。社会保障負担が減れば、実質的な減税効果も期待できます。