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株価大暴落は不況の前兆なのか?日米の金融政策を読む
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2024年8月7日

8月5日に史上最大の下げ幅を記録した日経平均株価。なぜ大暴落は起きたのか?日銀の責任は重いのか?今後、日米の金融政策はどう動くのか?日米は不況に突入するのか?第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストに聞いた。 <ゲスト> 熊野英生|第一生命経済研究所 首席エコノミスト 1967年山口県生まれ...
株価暴落の原因と今後の見通し:景気交代の入り口なのか?
市場の株価暴落が多くの投資家を不安にさせている。なぜ株価は急落したのか、これは不況の入り口なのか、そして今後どう展開していくのか。第一生命経済研究所の熊野英生氏に解説してもらった。
Q. 今回の株価暴落の原因は何ですか?
単純に「円高だから株価が暴落した」という説明は分かりやすいですが、実際には複数の悪材料が重なっています。
まず、アメリカのハイテック株が過大評価されていたという懸念から修正が入りました。特に「マグニフィセントセブン」と呼ばれる大型7銘柄が牽引してきた相場が調整局面に入りました。
次に、トランプ前大統領の狙撃事件後に「トランプトレード」が盛り上がりましたが、その後ハリス副大統領が支持率を回復させたことで、トランプトレードの巻き戻しが起きました。
さらに、日銀が7月末に利上げを実施しました。利上げ幅自体は小さかったものの、いわゆる「バタフライ効果」のように小さな変化が為替市場に大きな影響を与え、円高方向への巻き戻しが輸出関連株にマイナスのインパクトを与えました。
このような重層的な要因が重なり、株価が大きく下落したと考えられます。
Q. 日銀の金融政策は株価暴落のきっかけとなったのでしょうか?
シンボリックだったのは日銀の動きです。3月19日にマイナス金利を解除してから、「ゆっくり進める」と言っていたにもかかわらず、わずか4ヶ月で追加利上げに踏み切りました。これは多くの市場参加者にとって予想外の展開でした。
前回の対談でも円安対策のために日銀が利上げする可能性を指摘しましたが、そのペースが予想より早いと市場が感じたことが大きな要因です。日銀が政策の枠組み(レジーム)自体を転換したのではないかという驚きがありました。
日銀は物価見通しが予想通りに進めば、さらなる金利正常化を進めると説明しており、これが年内にもう一度利上げがあるのではないかという見方につながりました。
Q. 日銀はショックを与える意図があったのでしょうか?それとも市場とのコミュニケーションミスだったのでしょうか?
両方の側面があると思います。一つは、日銀が意図的にショックを与えようとした面です。日銀総裁は0.1%から0.25%へのわずか0.15%の利上げは実体経済にほとんど影響がないと説明しました。しかし日米の金利差(アメリカ5.25%、日本0.1%)を考えると、単純な利上げだけでは円安是正の効果は限定的です。そのため、日銀はある程度のショックを与える必要があったと考えられます。
やり方の問題もあります。日銀は7月会合で利上げを明確に織り込ませませんでした。アメリカのFRBが次の政策変更を事前に市場に織り込ませるのに対し、日銀は半ば突然のサプライズとして実施しました。中央銀行の政策の原則からすれば、市場にショックを与えないようにするのが標準的ですが、日銀は利上げ幅が小さいことを考慮して、あえてショックを伴う形で実施したようです。
Q. サプライズを含む政策変更にどのようなメリットがあったのでしょうか?
主な目的は円安の是正でした。円相場は一時160円台まで進んでいましたが、これを修正したいという意図があったと思われます。結果的に140円台前半まで円高方向に動いたことは、ある意味狙い通りだったと言えます。
しかし、株価がここまで大幅に下落することは想定外だったでしょう。これは日銀の見通しが甘かった部分と言えます。
Q. 円安是正のために政治からの圧力はあったのでしょうか?
日銀の金融政策会合の直前に自民党の幹事長が金利の正常化について言及していましたし、5月7日には日銀総裁が首相官邸に呼ばれています。内容は公表されていませんが、円安是正への協力要請があった可能性が高いと見ています。
Q. 今回の反省を活かすなら、どのような利上げ方法が適切だったでしょうか?
多くの株式市場関係者は「日銀は利上げをすべきではなかった」と主張していますが、金利の正常化自体は必要なプロセスです。改善点としては、「こういう条件であれば利上げを行う」という意図を事前に示し、統計データの結果に応じて市場に徐々に織り込ませていくアプローチがあります。そうすれば、今回のような急激な円高ショックや株安ショックは軽減できたでしょう。
Q. 今後の金融政策はどうなるでしょうか?
今回の株価下落の教訓として、日銀の利上げはより慎重に進めるべきでしょう。多くのエコノミストが指摘するように、3月時点から経済データがそれほど強くなっていないという現実があります。
実体経済の回復をしっかり確認しながら、最終的には政策金利を1.0%程度まで引き上げることになるでしょう。あと3回程度の利上げが想定されますが、もう少しゆっくりと進めるべきだと考えます。
具体的には、アメリカ経済が大きく悪化しないという前提で、次の利上げは12月になる可能性があります。その後、来年に2回程度の利上げで1%に到達するというシナリオが考えられます。
Q. アメリカ経済の現状をどう見ていますか?
アメリカ経済には黄色信号が点滅し始めています。ISM製造業指数がここ3ヶ月ほど下向きになってきており、特にハイテク関連の需要と密接な関係があるこの指数の動向は注目すべきです。
また、雇用統計も7月は11万人の増加にとどまり、雇用の伸びが急減速しました。ISM製造業指数と雇用統計という2大指標が下向きになったことで、景気に黄色信号が点灯したと言えます。
ただし、非製造業のISM指数は50を上回って改善しており、雇用統計も単月の変動が大きいという特性があるため、もう少し慎重に見極める必要があります。
Q. アメリカは不況に入りつつあるのでしょうか?
これまではアメリカ経済は利上げにもかかわらず堅調で、ソフトランディングのシナリオを信じていました。しかし、株式市場のシグナルは重視すべきで、これまでの大幅な利上げ(5.25%という高水準)がようやくボディブローのように効いてきた可能性があります。
9月、10月にはFRBが利下げに転じると予想されますが、この利下げの効果次第ではソフトランディングの可能性は小さくなり、リスクシナリオを念頭に置く必要が出てきました。
アメリカ経済には表面的な指標だけでなく、商業用不動産の問題や金融機関のバランスシートの懸念など構造的な疲労もあります。こうした構造問題は一度問題化すると収束が難しいため、リスクシナリオとして考慮すべきです。
Q. 米国大統領選挙は経済にどう影響しますか?
アメリカ経済のもう一つの不確定要素は大統領選挙です。7月にトランプ前大統領が狙撃された際には「トランプの勝利」との見方から「トランプトレード」が活発化しました。しかしその後、バイデン大統領が撤退してハリス副大統領が立候補すると、予想外にハリス氏の支持率が上昇し、トランプトレードの巻き戻しが起きました。
トランプ氏とハリス氏のどちらが大統領になるかで経済政策が大きく異なってきます。トランプ氏は減税や財政拡大を主張しており、インフレを加速させる可能性があります。そうなるとFRBは利下げを進めにくくなるでしょう。一方、ハリス氏の方がFRBの独立性を尊重し、利下げに対してより寛容だと考えられます。
Q. 日本の景気はどうなりますか?
日本の景気循環はまだ弱さが見られます。中小企業の賃上げには時間がかかるため、本格的な好循環が定着するにはもう少し時間が必要です。
今年の春闘では5%以上の賃上げが実現しましたが、これが来年も再来年も続くかは不透明です。岸田政権は「構造的賃上げ」「持続的賃上げ」と呼んでいますが、その根拠は乏しく、景気が悪化すれば賃上げの流れも鈍る可能性があります。
悪いシナリオとしては、アメリカ経済が秋口から急速に悪化し、日本からアメリカへの輸出が停滞することで、来年の賃上げが難しくなり、好循環シナリオが縮小するというものです。
一方、プラス要因としては、円高の影響で物価上昇率が落ち着くことが挙げられます。これは個人消費にとってはプラスです。ただし、株価下落による逆資産効果と物価安定による消費刺激効果の綱引きになるでしょう。
Q. 不況のリスクが高まる中、政府はどのような対策を取るべきでしょうか?
景気が悪化すると、通常は補正予算などの財政拡張策が取られますが、日本はこれ以上の財政拡張の余地が限られています。短期的な景気対策よりも、長期的な視点で企業の競争力強化や新技術の育成など、構造的な改革を進めることが重要です。
人口減少が進む日本が持続的に成長するためには、小泉政権時代のような構造改革が必要であり、単なるバラマキ合戦ではなく、建設的な政策議論が求められます。
Q. 今後数ヶ月で注目すべきポイントは何ですか?
最も注目すべきは企業収益です。今回の株価下落にもかかわらず、直近の企業決算自体はそれほど悪くありません。円安が円高に転じたことで、円安で得られていたメリットが一部縮小した程度です。
企業収益が大きく悪化しなければ、景気全体は持ちこたえ、株価もいずれ回復すると考えられます。今後の企業収益が維持できるかどうかが、経済と株式市場の見通しを占う重要なポイントになるでしょう。