PIVOT TALK BUSINESS
アメリカはサッカーも世界一になるのか【前編】
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2024年8月11日

メジャーリーグサッカーから学ぶスポーツマネジメントを中村 武彦さんから学びます。 <ゲスト> 中村武彦 Blue United Co. 代表 青山学院大学卒業後NEC勤務 マサチューセッツ州立大学修士課程を経て 日本人初のMLS国際部入社 その後FCバルセロナ国際部などを歴任 2015年にBlu...
MLSの成功戦略に学ぶスポーツビジネス - 元MLS・FCバルセロナ国際部が語る
メジャーリーグサッカー(MLS)はメッシの加入で大きな話題となり、北米サッカーの勢いを感じさせている。独自のビジネスモデルと戦略でリーグの価値を高め続けるMLSの内側を、ブルーユナイテッド代表の中村武彦氏に聞いた。
Q. メジャーリーグサッカー(MLS)でのキャリアについて教えてください
A. NEC入社後、スポーツに携わりたいという思いからアメリカのマサチューセッツ大学のスポーツマネジメント修士課程に進みました。当時はアメリカでもサッカーは「不毛の地」と言われ、面接でMLSで働きたいと言ったら「メジャーリーグベースボールの間違いではないか」と言われるほどでした。その後FCバルセロナの国際部でスポンサー営業やツアーのセールスを担当し、北米・アジア・オセアニア地域を担当しました。MLSでは日本人としては初めて本部で働き、アジア担当スカウトなどを歴任しました。
現在はブルーユナイテッドという会社を経営し、3つの事業を展開しています。1つ目は日米のサッカーチームが対戦する国際大会「パシフィックリムカップ」をハワイで開催すること。2つ目はプロのeスポーツチームの経営で、FIFAeクラブワールドカップでアジア地区優勝、現在はマンチェスターシティの公認チームになっています。3つ目は自身のキャリアを活かした国際ビジネスのコンサルティングです。
Q. MLSにメッシが加入した影響はどれほどのものでしたか?
A. メッシ選手のインパクトは測り知れませんが、その前にデビッド・ベッカムがLAギャラクシーに来た時からストーリーは始まっていました。ベッカムが選手としてMLSに来た後、引退後もチームオーナーとして残り、彼のコネクションがあったからこそメッシを獲得できました。
ベッカムもメッシも共通しているのは、サッカーに興味がない人でも注目を集められること。メッシ効果はインテル・マイアミだけでなく、対戦相手のチケット価格も上がるなどリーグ全体に影響が出るよう設計されています。メッシ加入をきっかけに、スアレスなど各国のスタープレイヤーがMLSに入ってくるムーブメントも起きています。
Q. なぜMLSはスター選手を呼べるのでしょうか?
A. 純粋に給料だけを見れば中東の方が良いケースもありますが、MLSが優れているのは中長期的な視点で選手を巻き込む点です。アメリカに来た後も一緒にMLSを大きなスポーツにするというプロジェクトとして捉え、アメリカでのビジネスチャンス、家族の生活環境、子どもの教育環境などをパッケージにして提案しています。
また、ヨーロッパと比べてプレッシャーが少なく、プライバシーが守られる点も魅力です。ロサンゼルスやニューヨークに引退後も住むイメージがしやすいこともあります。ベッカムの例では、移籍前にLAギャラクシーのスタッフが試合を見せたり、ロサンゼルスの街を案内したりする「仕込み」も行っていました。
Q. MLSのビジネスモデルはどのような特徴がありますか?
A. MLSの最大の特徴は、リーグ自体が株式会社になっていることです。これは「シングルエンティティシステム」と呼ばれ、投資家はチームではなくリーグに出資します。各チームはこの株式会社MLSの中の部門のような位置づけになっています。
これはアメリカのスポーツビジネスの特徴で、NFL、NBA、MLBなど北米のプロスポーツはすべて「クローズドリーグ」として運営されています。ヨーロッパなど世界の他の地域は「オープンリーグ」で昇格降格制がありますが、アメリカでは投資を集めやすくするため、スポーツ特有の不確実性をコントロールする仕組みになっています。
MLSがこの形態を選んだのは、過去の北米リーグ(NASL)の失敗から学んだからです。NALSはペレやベッケンバウアーが所属した人気リーグでしたが、各チームが個別に運営していたため、ニューヨーク・コスモスだけが強くなり、他チームが経営難で倒産。結局リーグ自体が崩壊しました。MLSはこの教訓から「ピッチ上ではライバルだが、ピッチ外ではビジネスパートナー」という考え方でリーグ全体の価値向上を目指しています。
Q. MLSの観客動員や資産価値はどうなっていますか?
A. 平均観客動員数は2万2000人を超え、1試合あたりではアメリカの主要スポーツの中で3番目の規模です。試合数は少ないため年間総数では野球やバスケットボールに及びませんが、人気は確実にあります。
チームの資産価値は1996年の創設時に500万ドル程度でしたが、現在は平均5.8億ドルと約100倍に成長しました。上位チームはロサンゼルスFC、インテル・マイアミ、LAギャラクシーとなっています。この30年間での成長は異常なほど急速です。
Q. MLSはどのようにファンを獲得していますか?
A. MLSが10チームから始まった初期に2チームが倒産した際、オーナーたちはコスト削減ではなくマーケティングへの投資を選びました。「サッカーユナイテッドマーケティング」というMLS専門のマーケティング会社を設立し、デジタル戦略やメキシコ系サッカーの取り込み、アメリカ代表のマーケティングなども一括で行っています。
特に若年層をターゲットにした戦略が特徴で、SNSの活用や選手のロッカールーム、試合中の選手や審判のマイク音声など、MLSにしか提供できないコンテンツを積極的に発信しています。ドキュメンタリーシリーズなども制作し、ファン獲得に力を入れています。
また、スタジアム設計も工夫されています。アメリカは国土が広くアウェイファンが来にくいため、ホームファンで満員にする必要があります。サッカーに興味がない人も来場してもらうため、バーの設置や子供を預けられるスペースなど、試合以外の楽しみも提供しています。スタジアムの規模も平均観客数に合わせた2万人前後の設計が多く、満員感を演出しています。
Q. 2026年ワールドカップに向けたMLSの戦略は?
A. MLSは国内市場を重視しており、特にヒスパニック系市場に力を入れています。メキシコ代表の国際試合はメキシコ国内よりもアメリカ国内で開催される数の方が多いほどです。2023年からはメキシコリーグとMLSによる「リーグスカップ」も始まりました。
2026年ワールドカップに向けては、コパ・アメリカやリーグカップ、クラブワールドカップなど国際大会を開催して徐々に盛り上げています。MLSとしては現在64カ国から集まっている選手たちがワールドカップでも活躍することを目指しています。アメリカ代表は日本と似ていてベスト16の壁を突破できていませんが、ヨーロッパでプレーするアメリカ人選手が多く、MLSの選手がどれだけ代表に食い込めるかが課題となっています。
Q. 日本人選手のMLS参戦の可能性はどうでしょうか?
A. 現在は吉田麻也選手、山根視来選手、久保裕也選手、高木彰人選手など過去最多の日本人選手がMLSでプレーしています。MLSのリーグオフィスでも日本人選手のリストが作られ、注目されています。
MLSはヨーロッパへの経路としても機能し始めており、フィジカルが強く、英語かスペイン語を身につけられるため、ヨーロッパのスカウトも常に来ています。日本からヨーロッパへの経路として、MLSを経由するパターンも今後増えていくでしょう。
実際に、GFAアカデミー卒の遠藤翼選手がメリーランド大学を経てMLSドラフト1位でトロントに入団したり、FC東京のU-17出身の隼陽介選手がマサチューセッツ大学からコロラド・ラピッツに入団するなど、大学からMLSへのルートも開拓されています。
MLSとJリーグはともに伸び代があるリーグです。ヨーロッパが歴史と伝統で発達し、MLSがビジネスとして発達する中、日本は世界レベルのスポーツビジネスとして特化していく可能性があります。