動かすチカラ Nidec Way
AI時代のニューソリューション 水冷ビジネス最前線
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2024年6月30日

売上高2兆円、社員10万人を超えるグローバル企業 Nidec。 国内外の生産・開発現場のリポートなどを通して、世界最大のモーターメーカーに迫る。 今回のテーマはAI時代のニューソリューション「水冷技術」。過熱する熱対策マーケットで注目を集める水冷技術の最前線を取材する。 <ゲスト> ・岸田光哉 ...
AI時代を支えるニデックの挑戦: 熱暴走から守る水冷技術の最前線
AIの劇的な進化が続く現在、その性能を最大限に引き出すためには新たな冷却技術が不可欠である。
データセンターに設置される高性能AIサーバーは膨大な熱を発生させ、従来の冷却方法では対処しきれない問題が生じている。
この課題を解決する切り札として注目されるのが「水冷技術」だ。
モーターメーカーとして知られるニデックが、なぜ今、水冷ビジネスの最前線に立つのかを探る。
Q. AI時代には、なぜ水冷技術が不可欠なのでしょうか?
AIが急速に普及するにつれ、これを処理するAI半導体の発熱量は、従来の300W級から500W、さらには1000W級へと飛躍的に増加している。
この強力な発熱に対し、空気で冷やす「空冷ファン」ではすでに限界に達しており、AIの安定稼働が困難になった。
AIを最大限に活用するには、より効率的に熱を奪う水冷技術が必須となる。
液体で直接冷却する水冷システムは、高速で確実な冷却を可能にし、AIサーバーの熱暴走を防ぐ唯一の現実的な解決策として業界で認識されている。
経営学者の入山明恵氏が指摘するように、AI時代において最も重要なのは「いかに物を冷やせるか」であり、水冷技術はその中心にあるという。
かつてゴールドラッシュでジーンズを売ったリーバイスが成功したように、AI本体ではなく、その周辺産業に巨大なビジネスチャンスが生まれているのだ。
Q. モーターメーカーであるニデックが、なぜ水冷ビジネスに参入したのでしょうか?
ニデックの水冷ビジネスへの参入は、最先端IT産業の顧客からの「ソリューションはないのか」という声に応えた結果である。
もともと同社はHDD用モーターのスピンドルモーターや、サーバー冷却用ファンモーターなど、IT機器の熱対策に深く関わってきた歴史がある。
AIサーバーの高性能化が進み、従来のファンでは冷やしきれなくなった状況で、顧客の課題を解決するため検討を進めたところ、水冷モジュールが最も効果的な手段であると結論付けた。
一見モーターと関係ない水冷に見えるが、冷却水を循環させるポンプにはモーターが不可欠であり、ニデックのコア技術を応用できる分野でもある。
長年培ってきた技術を結集し、新たなニーズに応えることは、同社にとって必然の事業展開だったと言える。
Q. ニデックの水冷システムは、どのような点で他社と差別化されているのでしょうか?
データセンターで使用される水冷システムには、「一滴たりとも水を漏らさない」という非常に高い品質が求められる。
微細な水漏れでもIT機器に致命的なダメージを与えるため、この要求を満たせる企業は世界でも数社に限定されている。
ニデックは、かつて主力事業だったHDD(ハードディスクドライブ)モーターで培った「ヘリウム封止技術」を水冷システムに応用している。
これは、ヘリウムガスすら漏らさない超高精度な加工技術と検査技術であり、これを活用することで、水漏れリスクの低い信頼性の高い水冷システムを大量生産できる。
精密なパイプ配線やコネクタ部分での水漏れを防ぐための、高いレベルの精密加工技術がニデックの競争優位性となっている。
入山氏はこの日本の「作り込みの技術力」が、失敗の許されないAIのインフラ分野で今、まさにグローバルレベルで求められていると評価している。
Q. ニデックの水冷ビジネスの現場はどのように変化し、顧客からの評価はどうでしょうか?
AIサーバーの需要急増を受け、ニデックのタイ・アユタヤ工場では、水冷システムの生産数がわずか数ヶ月で約10倍に拡大した。
工場は24時間体制で稼働しており、元HDD製造部門の人員が新技術の習得に意欲的に取り組み、熱気に満ちている。
現場の従業員からは「紙に書いたものが形になる」という手触り感と、最先端のものづくりに携わる喜びが語られる。
これは「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」というニデックの行動指針が、現場に深く浸透していることの表れである。
主要顧客である米AIサーバー大手のスーパーマイクロ社は、ニデックを「品質、性能、納期」の全てで世界最高のソリューションを提供するパートナーとして高く評価している。
特に大量生産においても品質を維持できる能力と、迅速な対応力が信頼関係の源になっている。
ニデックの創業者である永守氏自らが顧客のもとへ足を運び、トップ同士が直接交渉することで深い信頼関係を築き、「点を線に、線を面に」とビジネスを拡大していく経営戦略が奏功しているという。
Q. ニデックは水冷ビジネスの次に、どのような未来を見据えているのでしょうか?
ニデックは水冷技術を足がかりに、常に次なる成長の種を探している。
AI市場のメインがB2C(一般消費者向け)からB2B(企業向け)へ、さらにエッジコンピューティングへと移行していく中で、その動きを先回りし、顧客の課題解決を通して新たなビジネス領域を確立することを目指している。
現在の主要顧客だけでなくNVIDIAといった企業とも定期的に打ち合わせを行うことで、未来のニーズを探り、次なるイノベーションのヒントを得ているという。
創業者の永守氏が30年から50年先の未来を見据える構想力を持つように、ニデックは常に先行投資を惜しまず、挑戦を続ける姿勢を貫く。
「宇宙で先回りするかもしれないし、地底で先回りするかもしれない」という言葉に表れるように、水冷事業で得た経験を活かし、予測不可能な未来に対しても常に準備を怠らない。
EV事業での反省を生かしつつ、顧客の困り事を解決し続ける企業であり続けることが、ニデックの目指す「10兆円企業」への道だと語る。