日本再興ラストチャンス
後編:再生エネルギーで日本は勝てるか?
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2024年4月27日

電気代高騰など、エネルギー逼迫が実感しやすい中、原発をどうするべきかという議論はなかなか進まない。経済学者の成田悠輔氏をホストとして、住友商事会長の兵頭誠之氏と東京電機大学の寿楽浩太教授とともにタブーのないエネルギー議論を行った。
不確実な未来へ:日本のエネルギー課題と「課題先進国」の挑戦とは?
「持たざる国」と称される日本は、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼り、発電コストも高いという現状に直面している。さらに、原子力発電の廃棄物処理問題から再生可能エネルギーの導入、人口減少と電力需要の関係、そして未来の技術や社会構造の不確実性まで、その課題は多岐にわたり、一筋縄ではいかない様相を呈している。
本稿では、複雑に入り組んだ日本のエネルギー問題について、Q&A形式でその本質に迫る。未来の世代に何を残し、どのような選択をするべきなのか、安易な答えがないからこそ、多角的な視点からその「茨の道」を深く掘り下げていこう。
Q. 日本のエネルギー情勢において、「持たざる国」とはどういう意味を持つのか?
日本が「持たざる国」と表現されるのは、エネルギー資源、特に化石燃料に乏しいためだ。加えて、再生可能エネルギー資源においても、他国に比べて質の面で劣る実態がある。
例えば、風力発電で欧州には常に貿易風が吹く一方、日本では年間数十の台風が襲来し、風況が安定しない。太陽光についても、平坦な土地が限られる日本では広大なメガソーラーの展開が難しいといった地理的制約も大きい。このため、日本の発電コストは他国と比較して高くなる傾向にある。
過去30年、日本の産業界はエネルギーコストの高さというこのハンデを逆手に取り、海外に製造拠点を広げ、国際協力によって共に成長する道を築いてきた。これは日本の独自の生きる知恵であり、今後もエネルギーと産業、そして社会のあり方をデザインする上で、重要な強みとなる可能性を秘めていると言えよう。
Q. 原子力発電における「出口戦略」とは何を指すのか、その困難な点は何か?
原子力発電における「出口戦略」とは、運転で発生する放射性廃棄物を安全に処理し、長期的に管理するための計画を意味する。特に、高レベル放射性廃棄物はその放射能が減衰するまでに数万年から数十万年を要すると言われ、未来の社会に対する極めて重い宿題となる。
この議論を複雑にするのは、未来の不確実性である。例えば、今問題視される被ばくによる発がんリスクも、画期的な治療法が発見されれば、人々のリスク評価は変化するだろう。逆に、放射線の生体への影響がより詳細に解明され、現在予期せぬ悪影響が見つかる可能性もある。建設に数兆円、回収に30年以上かかる原発のような大規模インフラは、こうした変化の激しい時代において「小回りが利かない」投資であり、将来の選択肢を固定化する「経路依存性」のリスクを孕んでいる。
このような状況では、現在の価値観や技術水準だけで廃棄物の最終処分方法を決定することは賢明とは言えない、という意見もある。将来、より良い解決策が生まれる可能性も考慮し、当面は厳重な管理を続けつつ、後世に判断を委ねる方が倫理的であるとの考え方もあるのだ。トリチウムを含むALPS処理水と高レベル放射性廃棄物を混同せず、それぞれの特性に応じた冷静な議論が不可欠である。
Q. 過去に日本が再生可能エネルギー分野で競争力を失った原因は何か?
日本は過去、風力発電において世界トップ10に入るメーカーを有していた。しかし、「日本は台風が多く風況が不安定で、風力発電には向かない」という見方が専門家、一般市民、政治家全体に広まったことで、国産メーカーは次々と撤退し、現在は欧州や中国のメーカーが市場を席巻している。
この事例は、単なる技術の問題だけでなく、「考え方の経路依存性」が産業基盤を失わせた典型例と言える。一度「この分野は日本では無理だ」という固定観念が広まると、関連技術者の育成や工場ラインの維持が進まず、いざ社会の意識が変わって再エネ導入を加速させようとしても、失われた産業基盤の再構築には多大な時間とコストがかかるのだ。この教訓は、未来のエネルギー戦略を考える上で極めて重要である。何かに「向いていない」と安易に結論付けず、常に可能性を疑い、柔軟な姿勢で見直すことが、将来の選択肢を確保する上で不可欠となるだろう。
Q. 人口が減少する中で、日本の電力需要はどのように変化すると考えられるのか?
人口減少は電力需要の減少に直結するという考えは、必ずしも正しくない。確かに総人口は減少するが、世帯数自体は意外と減らない可能性がある。例えば、一人暮らしの増加は、各世帯がそれぞれ冷蔵庫を持つことで、世帯当たりの消費量は少なくても、国全体の冷蔵庫総数は変わらない、あるいは増加することで総電力需要が減少しないという状況を生み出す。
また、高齢化が進み、自宅で日中を過ごす人が増えれば、日中の暖房や照明といった在宅電力需要は増加する。さらに、運輸部門がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトすることで、交通分野の莫大なエネルギー需要が電力系統に乗ってくる可能性も高く、これも全体の電力消費量を押し上げる要因となる。そのため、単純に人口減で電力需要が減少するとは言い切れない。
将来的には、過疎化により「限界集落」化する土地を、原発用地や大規模再エネ設備のための「専用エリア」として活用するようなアイデアも出るかもしれない。しかし、これは「国土を汚染するリスクを受け入れる」という価値観の大転換を伴うため、社会的な深い議論が必要となるだろう。
Q. 日本のエネルギー課題を解決する上で、強みとなる部分は何か?
日本の強みは、その卓越した「きめ細やかな制御技術」にあると言える。再生可能エネルギーの導入を拡大するには、天候によって変動する電力供給と需要をリアルタイムで精密にバランスさせる必要がある。大規模発電所から一方向に電力を送るこれまでのシステムではなく、多様な供給源と需要家を相互につなぎ、複雑な電力を調整する「スマートグリッド」のようなシステム構築は、日本の得意とする分野だ。
例えば、電気自動車のバッテリーを地域全体の巨大な蓄電池として活用し、電力需要のピーク時に放出したり、供給が過剰な時に充電したりするといったシステム制御は、日本のエンジニアリングの粋を集めて実現できる可能性を秘めている。これをマネタイズする仕組みを構築できれば、新たなビジネスチャンスも生まれるだろう。
また、人口減少や高齢化といった課題に世界でいち早く直面する「課題先進国」である日本は、この経験を活かし、省エネルギーかつ持続可能な新しいライフスタイルや社会システムを世界に提案・実証する役割を担える。高効率な家電や住宅、地域冷暖房システムなど、きめ細かな暮らしに根ざした技術と生活スタイルの両面からのアプローチは、日本発のイノベーションとなり得るのだ。
Q. 将来の不確実なエネルギー問題を乗り越えるため、私たちはどのように考えるべきなのか?
エネルギー問題には、唯一絶対の正解は存在しない。原子力、再生可能エネルギー、いずれの選択肢にも多大なコストとリスク、そして「茨の道」が待ち受けている。この複雑な状況において重要なのは、安易な解決策に飛びつくのではなく、常に多角的な視点から問題と向き合い、見直しを続ける「柔軟な姿勢」である。
社会全体のエネルギー消費量を削減するためのライフスタイル変革も不可欠だ。集合住宅における熱源共有システムや、東京都が推進する太陽光パネル・蓄電池・EVを組み合わせた補助金制度など、家庭レベルでの効率改善も重要なピースとなる。このような供給と需要の両面からのアプローチを常に組み合わせながら、検討を進める必要がある。
電力料金が下がることは一時的に喜ばしいかもしれないが、それは問題意識を薄れさせ、長期的な議論を停滞させる危険もはらむ。このエネルギーを考える上で、「誰にも理解できない複雑系」としての現実を国民全体が共有し、正解のない問いに立ち向かう「対話の継続」こそが、将来にわたる持続可能な社会を築くための唯一の道なのだろう。