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LTV最大化する経営。スバル、アソビュー、カバーに学ぶ【西口一希⑦】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。
LTV最大化は経営の究極の目的!大企業もスタートアップも取り組むべき理由
企業が持続的に成長するためには、売上よりも利益に着目し、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を最大化することが重要です。なぜ日本企業は「売上至上主義」から脱却すべきなのか?世界の一流企業はどのようにLTV最大化を実現しているのか?ストラテジーパートナーズの西口一希氏に、経営とマーケティングをつなぐ視点から解説してもらいました。

Q. なぜLTV最大化は経営の究極の目的といえるのでしょうか?
世界のトップ企業は「利益を生み出す売上」を当然の前提として事業を展開しています。例えばP&Gでは、入社時から利益目標や投資対効果を意識させる文化があります。ネットプレゼントバリュー(現在価値)という概念で、今後どれだけの利益を生み出すかを重視しています。
これに対して日本企業は長らく「売上至上主義」でビジネスを行ってきました。その背景には二つの要因があります。一つは金融環境の違いです。日本では低金利が続き、株主からの利益期待値が海外ほど高くなかったため、売上拡大に注力しても批判されにくい環境がありました。もう一つは、人口増加期には市場も拡大し、売上を上げれば自然と利益も増える構造があったことです。
しかし、これからの時代は違います。マイナス金利の解除や資本コストへの意識が高まる中、大企業もスタートアップも利益重視の経営に変わらなければなりません。そのためには、顧客構造を理解し、継続的に価値を買い続けてくれるロイヤルカスタマーを育てることが不可欠です。

Q. スバルはどのようにLTV最大化の経営を実現したのですか?
スバルは顧客分析により経営戦略を大きく転換した好例です。長年「走り」や「上質さ」を訴求してきましたが、顧客データ分析の結果、ロイヤリティを左右する最大の要因は「ぶつからない安全性」だということが判明しました。
実はスバルは安全性に徹底的にこだわり、アメリカでは死亡事故率が最も低いメーカーとして評価されていました。しかし、その強みが十分に訴求されていなかったのです。また、車の購買決定には女性の関与が大きいことも分かりました。
これらの発見に基づき、戦略を「走りの好きな方に対する情緒的な訴求」から「家庭を守る女性向けの安全性訴求」へと転換しました。その結果、テレビ広告あたりの指名検索数が14.5倍に増加し、ディーラーへの来店者数も大幅に増えました。さらにウェブサイトも見直し、ランディングページの直帰率を40%から27%に改善しました。
重要なのは、単なる印象や思い込みではなく、データに基づいて自社の強みと顧客ニーズの接点を見つけた点です。購買サイクルが8〜9年と長い自動車業界では、こうした変化の効果は長期にわたって現れます。

Q. アソビューの事例から学べることは何ですか?
アソビュー(遊び体験予約サイト)も顧客分析によって大きく成長した事例です。当初は20代男女向けのアソビューを提案するビジネスでしたが、詳細な顧客分析を行ったところ、興味深い発見がありました。
単月や短期間のユーザー数では確かに男女20代が多かったものの、累計で見るとランキングが大幅に変わり、家族連れが最もロイヤルなユーザーだったのです。20代は単発のイベントには来てくれるものの、リピート率が低かったのです。
この発見を受けて、アソビューは家族向けの訴求、家族向けのCRM、家族向けの提案内容へと戦略を転換しました。コロナ禍という大変な時期を乗り越え、ユーザー登録者数は着実に増加しています。また、通常の顧客ピラミッドに加えて「スーパーロイヤル顧客」という区分も設定し、より精緻な顧客戦略を展開しています。
Q. LTVを最大化するために重要な要素は何ですか?
LTVに最も影響を与えるのは「頻度」です。売上は「顧客数×平均単価×平均購買頻度」で計算されますが、様々なビジネスの相関分析を行うと、LTVと最も相関が高いのは単価ではなく頻度であることが分かっています。
多くの企業、特にD2Cなどでは単価アップや関連購買を重視しがちですが、それによって頻度が落ちてしまうと結果的に顧客離脱につながります。一方、頻度を上げる施策(値引き以外の)を行うと、単価も自然と上がる傾向があります。
これは人間の習慣を考えれば理解できます。1回に大量購入するが年に1回しか来ない顧客と、少量ずつだが毎月購入する顧客では、後者の方が継続性が高いと予想できますし、データでもそれが裏付けられています。
例えば大手企業の分析では、同じ商品カテゴリーでも購入する商品によって継続率が大きく異なることが判明しました。ある化粧品メーカーでは、スキンケア、特にオイルを購入した顧客が最もLTVが高く、ハンドクリームやギフト購入者は売上には貢献するもののリピートしにくいことが分かりました。このような分析によって、どの顧客にどのような提案をすべきかの戦略が明確になります。

Q. カバー(ホロライブ)の経営から学べる点は何ですか?
VTuber事業を展開するカバー株式会社の例は、顧客と一体化する経営の重要性を示しています。同社の特徴は、谷郷元昭CEOをはじめとする経営陣が自らVTuberの世界に入り込み、「ヤゴ」という名前でVTuberとしても活動していることです。
幕張でのファンイベントでは、谷郷CEOが企業の代表としてではなく「ヤゴ」として登場し、ファンから熱狂的な歓迎を受けました。これは経営者が顧客と同じ空気を吸い、同じ感覚で価値を体感しているという、きわめて珍しい例です。
このように顧客との距離が近いビジネスは中小企業には見られますが、上場企業でトップがここまでユーザーと近い距離感を保っているケースは稀です。企業が大きくなるほど経営者と顧客の距離は離れていくものですが、カバーはむしろ最前線に立ち、顧客と一体化する経営を実践しています。これにより、顧客の声や体験を直接理解し、本質的な価値提供ができているのです。
Q. LTV最大化のための第一歩は何ですか?
最も重要なのは、ロイヤルユーザーの声を直接聞くことを習慣化することです。様々な分析方法や戦略がありますが、全ての基本はロイヤルユーザーとの対話にあります。
経営者は多忙なため、レポートやデータだけでロイヤルユーザーを理解しようとしがちですが、それでは本質は見えてきません。自分自身がロイヤルユーザーの声を聞き、使用シーンを見る機会を定期的に持たないと、想像の産物になってしまいます。
まずは現在定義しているロイヤルユーザーに会い、「どうやって使っているのか」「何が楽しいのか」「何を望んでいるのか」などを理解することから始めましょう。そこから顧客を構造的に捉え、分析する必要性が見えてくるはずです。
このアプローチを続けることで、自社サービスの本当の価値が何か、どのような顧客に提供すべきかが明確になり、結果としてLTVの最大化につながります。