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LTVの誤解 1:5と5:25の法則【西口一希⑤】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。
LTVを売上で見てはいけない?マーケティングに潜む「1対5の法則」と「5対25の法則」の本当の意味
ライフタイムバリュー(LTV)はビジネスの成長に欠かせない指標として広く認知されていますが、その本質を理解し正しく活用できている企業はどれほどあるでしょうか。ストラテジーパートナーズ代表の西口一希氏は、多くの企業のマーケティング現場で見られるLTV運用の誤りと、その背後にある「1対5の法則」と「5対25の法則」について解説します。

Q. LTVとは何ですか?そして多くの企業はどのような誤りを犯していますか?
LTV(ライフタイムバリュー)は、顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値を指します。本来の定義では、LTVを伸ばすことは経営そのものと言えるほど重要な概念です。
この10年で広く知られるようになったLTVですが、現場での運用を見ると、計算方法そのものが間違っていたり、運用の仕方が誤っていたりするケースが非常に多いです。
最も大きな誤りは「LTVを売上で見る」という点です。LTVは売上ではなく、「累計利益」で見るべきなのです。売上の数字だけを追うと、本質を見誤る可能性が高くなります。
Q. カスタマーダイナミクスとLTVの関係について教えてください
カスタマーダイナミクスとは、顧客がどのように動いていくかを可視化したものです。9つのセグメントに分けた顧客層の動きを追跡することで、どの層がどのように変化するかを把握できます。
LTVを上げるためには、主に2つの方向性があります:
1. 「積極的なロイヤルユーザー」を増やすこと(利益を生み出す顧客の創出)
2. 「ロイヤルユーザーの離反」を防ぐこと(利益を生み出す顧客の損失を防ぐ)
つまり、利益を生む顧客を増やしながら、同時に利益に貢献する顧客の損失を防ぐことが重要です。これがLTVを高める本質です。

Q. 「1対5の法則」とは何ですか?
「1対5の法則」とは、新規顧客を獲得するコストが、既存顧客を維持するコストの約5倍かかるという経験則です。
例えば、あるメディアのファンになった人は、新しいコンテンツが出たら自分から探して消費します。一方、新規顧客は認知してもらうところから始まり、一つのコンテンツが気に入らなければ別のコンテンツを提案するなど、多くの労力が必要になります。
実際には業界によって数字は変わりますが、新規顧客獲得は既存顧客維持よりもコストがかかるという原則はあらゆるビジネスで成り立ちます。多くの場合、この比率は5倍以上になることもあります。
Q. 「5対25の法則」について説明してください
「5対25の法則」は、顧客の離反率を5%改善すると、利益率が約25%改善するという法則です。これは「1対5の法則」の別の側面を表しています。
既存顧客は特別な働きかけがなくても継続的に購入してくれるため、コストのかからない売上、つまり高い利益をもたらします。このような顧客を失うと、利益が大きく落ち込むことになります。
一方、新規顧客は多くの投資が必要なため、利益率が低くなります。両法則は本質的に同じことを異なる角度から述べているのです。
Q. なぜLTVを売上ではなく利益で見るべきなのですか?
同じ10万円の売上でも、新規顧客からの10万円と継続顧客からの10万円では、利益貢献度が全く異なります。
新規顧客からの売上は、獲得コストが高いため、利益貢献がゼロか、むしろマイナスになることも珍しくありません。一方、継続顧客からの売上は、追加コストが少ないため利益貢献が大きいのです。
LTVを売上で見ると、短期的に新規顧客を大量に獲得すれば一時的にLTVが上がったように見えますが、これらの顧客が継続しなければ、長期的にはLTVは下がっていきます。利益ベースで見れば、継続率の低い新規顧客獲得はLTVにマイナスの影響を与えることが明確になります。

Q. 離反顧客の復帰コストと新規顧客獲得コストの違いは何ですか?
一般的に離反顧客を復帰させるコストは、純粋な新規顧客を獲得するコストよりも安くなる傾向があります。しかし、多くの企業ではこの二つを区別せずに計測しています。
例えば、「ダウンロード忘れていませんか?」というメッセージは、離反顧客には有効ですが、これを新規顧客獲得のクリエイティブとして評価すると、効果が高いと誤認してしまいます。
重要なのは、新規獲得コスト、継続コスト、復帰コストを区別して測定し、それぞれの投資対効果を正確に把握することです。そうしないと、真に効果的なマーケティング活動を見誤る可能性があります。

Q. スタートアップにとって、これらの法則はどのように適用されるべきですか?
スタートアップの初期段階では、当然ながらロイヤルユーザーが存在しないため、新規顧客獲得に注力せざるを得ません。しかし、ただ闇雲に顧客を獲得するのではなく、獲得した顧客の中で継続する人としない人を分析し、なぜ継続するのか・しないのかを理解することが重要です。
スタートアップの成功は、このトライ&エラーの学習サイクルをいかに速く回せるかにかかっています。どのような顧客にどのようなサービスを提供すると継続的なロイヤル顧客になる可能性が高いのかを見極める能力が決定的に重要です。
成功している大企業も、かつてはこの段階を経験しています。しかし、その苦労の過程は表面化せず、成功した結果だけが見えるため誤解が生じがちです。実際には、ほぼすべての成功ブランドが初期において多くの失敗を経験しながら、スケールする方法を発見してきたのです。
Q. LTVを正しく理解し活用するために、企業は何をすべきですか?
1. LTVを売上ではなく累計利益で測定する
2. ロイヤルユーザーの離反率を把握し、なぜ離反するのか分析する
3. 新規顧客獲得、継続顧客維持、離反顧客復帰のコストを区別して測定する
4. 短期的な投資効果だけでなく、長期的な顧客価値も考慮した意思決定をする
5. 新規獲得からロイヤル化までの顧客ジャーニー全体を一貫して設計する
特に重要なのは、顧客セグメントごとの動きを可視化し、どのセグメントがどのように変化しているかを継続的に分析することです。これにより、真に価値ある顧客を特定し、効果的なマーケティング戦略を立案できるようになります。
LTVの本質を理解し、利益ベースで考えることで、持続可能な事業成長への道筋が見えてくるでしょう。