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2割のロイヤル顧客が8割の利益をもたらす【西口一希③】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。
パレートの法則の罠とは?20%の優良顧客に焦点を当てるべき理由
多くのビジネスで、一部の顧客が収益の大部分を生み出すというパレートの法則が当てはまると言われています。しかし、この法則を実務で活かせていない企業が多いのが現状です。ストラテジーパートナーズ代表の西口一希氏がパレートの法則の罠について解説します。

Q. パレートの法則とは何ですか?
パレートの法則は「顧客の20%が収益の80%を生み出す」という経験則です。イタリアの経済学者パレートによって提唱されたもので、実は正確には必ずしも「20:80」の比率ではなく、上位集中が起こるという現象を指しています。この比率は37:63や15:85など、状況によって変わり得ます。
期間の捉え方によっても数字が変化しますが、重要なのは「上位集中が必ず起こる」という点です。これは驚くべきことに、P&G、ロート製薬など様々な業界、様々な企業で同様のパターンが見られます。

Q. パレートの法則を実務で適用する際の注意点は?
パレートの法則を実務に適用する際、売上だけでなく「累計の利益」で見ることが重要です。なぜなら、同じ10万円の売上でも、初めて購入した顧客からの売上と、5回目のリピート客からの売上では意味合いが全く異なるからです。
新規獲得コストは高いため、初回購入は利益が出にくい一方、リピート購入は利益率が高くなります。そのため、「少数の顧客が中長期の累計利益の大部分を左右している」という視点が必要です。
Q. どのようにしてパレートの法則に基づく分析を行えばよいですか?
分析は比較的簡単です。例えば、過去3年間に一度でも購入した顧客リストを出し、売上ランキングで並べ替えてみると、売上合計の6~8割が顧客数の2~3割から生まれていることがわかります。
さらに精度を上げるには、各顧客に対してかけたコスト(営業コストなど)を概算で割り振り、売上から引いて利益を算出すると、上位集中の傾向がより明確になります。
この分析を可視化すると非常に興味深い発見があります。上位の顧客と下位の顧客には明確な違いがあり、これを理解するだけでも、営業活動やリード獲得の方針が変わってきます。
Q. パレートの法則の「罠」とは具体的に何ですか?
パレートの法則の罠とは、日々の業務で目の前の顧客に一生懸命尽くすことが、必ずしもロイヤル顧客を育てることにつながらないという現象です。
例えば、飲食店に100人の顧客が来店したとします。一生懸命接客して改善点や良かった点を聞き、それを翌日から実践していくというサイクルを繰り返していると、実は「中長期であまり貢献しない80%の顧客」の意見に引っ張られてしまう傾向があります。
なぜなら、100人のうち80人の印象の方が強く残り、多数決的に影響を受けてしまうからです。また、2度と来店しない顧客は「もう来ない」とはっきり言わないので、その顧客の意見を取り入れても長期的には効果がありません。

Q. ロイヤル顧客を見極めるにはどうすればよいですか?
ロイヤル顧客を見極めるには、一定期間(半年や1年など)の顧客データを振り返る必要があります。リピートで来店する顧客の特徴、初回に何を注文したか、どんな目的で来たか、どんな体験をしたかなどを分析すると、ロイヤル化しやすい顧客の特徴が見えてきます。
重要なのは、商品の購買サイクルに合わせた期間で分析することです。日用消費財なら1年程度、車のような耐久消費財なら4~5年、理想的には8~9年といった長期間で見る必要があります。
例えば、ある消費財で3年間の分析をした場合、20人が平均16回購入(計320回の購買)し、80人が1回だけ購入(計80回の購買)したとすると、全400回の購買のうち80%が20人の顧客からもたらされたことになります。これこそがパレートの法則の実例です。
Q. 成功している企業はどのようにパレートの法則を活用していますか?
成功している企業の好例として、ウォルマートとKマートの違いがあります。1980年代、ウォルマートは「エブリデイ・ロー・プライス」戦略を採用し、価格の上下を極端につけませんでした。一方、Kマートは「ハイ・ロー」戦略で、出店時に大幅値引きやプロモーションを行い、その後価格を戻していました。
結果として、Kマートは初期の売上は高いものの、利益が出るまでに時間がかかり、キャッシュ回収が遅れて出店スピードも遅くなりました。対してウォルマートは安定した成長を遂げ、早期に利益を上げることでキャッシュを回収し、出店速度を上げていきました。
これはウォルマートが「継続性の高い顧客」を重視する戦略を採用し、長期的な関係を築ける顧客層にフォーカスした結果だと解釈できます。
Q. ロイヤル顧客と新規顧客のバランスはどう取るべきですか?
成功している企業、特に飲食業などでは、ロイヤル顧客を大切にしつつ、新規顧客も適度に取り入れるバランスを取っています。ロイヤル顧客だけでは自然減もあるためジリ貧になり、新規だけでは定着率が低くなります。
理想的なのは、ロイヤル顧客からの紹介で新規顧客を獲得するモデルです。これにより連続性が生まれ、新規顧客がロイヤル化する確率も高まります。重要なのは「どのようなお客様がロイヤル化するか」を理解し、その特性を持つ新規顧客を意識的に獲得することです。
Q. 現代のビジネスではどのような課題がありますか?
多くの企業、特に上場企業では単年度会計や四半期会計で戦略を立てるため、短期的な売上に目が行きがちです。しかし、「新規顧客を獲得すること」は比較的簡単でも、「継続してくれる確率の高い新規顧客を獲得すること」は非常に難しいのが現実です。
またスタートアップでよく言われる「ライフタイムバリュー(LTV)とカスタマーアクイジションコスト(CAC)」の考え方も誤解されていることがあります。LTVは累計の未来の利益を指す一方、CACは現在発生するコストであり、獲得した顧客が本当に長期的に利益をもたらすかどうかは不確実です。
多くの企業が陥る落とし穴は、獲得コストを単純に下げて新規獲得数を増やすことに注力するあまり、継続性の低い「下位80%の顧客」を増やしてしまうことです。

Q. 企業がパレートの法則を活かすために必要なことは?
企業が真にパレートの法則を活かすためには、中長期の売上と利益に貢献する顧客は誰か、その顧客が求めるサービスや商品は何か、競合と何が違うのかを見極める必要があります。
また、時系列で考える視点も重要です。多くの企業は中長期計画を立てていても、それが顧客ベースで1年目と3年目が繋がっていないことが多いのです。「どういう顧客層が1年目、2年目、3年目と継続的に売上と利益を生み出すのか」という視点を持つことが、持続的な成長には不可欠です。
この単純でありながら強力な分析フレームワークを活用することで、限られたリソースを効果的に配分し、長期的な成長と利益を実現することができるでしょう。