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310社から見えてきた、マーケティングの「3つの共通課題」【西口一希①】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。310社のコンサルで培ったマーケティングメソッドを学ぶ。 <目次> 00:00 ダイジェスト 00:43 経営とマー...
「西口メソッド」で解き明かす、成長企業の盲点 - 経営とマーケティングを繋ぐ思考法
「マーケティングと経営って会社の中でうまく繋がっていない」—これは300社以上の企業相談から見えてきた共通課題だという。経営者とマーケティング担当者の間に横たわる溝はなぜ生まれ、どう埋めればいいのか?ストラテジーパートナーズ代表取締役の西口一希氏が語る「西口メソッド」から、その答えを探る。

Q. 300社以上の相談から見えてきた共通課題とは何ですか?
経営者や経営幹部から相談を受けると、ほぼ共通して浮かび上がるのが「マーケティングと経営が繋がっていない」という課題です。その根底には3つの問題があります。
1つ目は、組織の成長に伴い全体像が見えなくなる問題です。グレイナーの企業成長モデルでいう「委譲の段階」で多くの企業が困難に直面します。創業期はお客様の名前まで把握できていたのに、急成長とともに市場全体が見えなくなり、誰も全体像を把握できなくなるのです。
2つ目は、市場自体が見えなくなる問題です。お客様の姿が捉えられなくなることで、事業戦略の精度が落ちてしまいます。
3つ目は、各種指標間のロジックが繋がっていない問題です。KGIやKPIなどの指標は設定されていても、お客様の動きを捉えるロジックが欠けているため「デジタルマーケティングの効率は上がっているのに売上が上がらない」「売上は上がっているのに利益が上がらない」といった矛盾が生じます。

Q. グレイナーの企業成長モデルとは何ですか?その中で特に注目すべき段階は?
グレイナーの企業成長モデルは1972年に発表された理論で、企業の成長段階を5つに分けています。
第1段階は創業者が自分の思いを込めたサービスや商品を作るところから始まります。組織が50人程度までの段階です。
第2段階は組織が50人から100人に拡大し、トップによる指揮がまだ効く規模です。
第3段階は組織が100人から300人に増え、権限委譲が必要になる段階です。
第4段階は300人から1000人の組織で、全体調整をしながら売上・利益を拡大する段階です。
第5段階は1000人以上の組織で、各部門が必要に応じて連携しながら成長する「協働」の段階です。
特に注目すべきは第3段階の「委譲の段階」です。多くの企業がこの段階で課題を抱えたまま大きくなっています。問題の本質は財務諸表や売上・利益といった経営指標と、顧客行動との繋がりが見えなくなることにあります。

Q. なぜ組織が大きくなると市場や顧客が見えなくなるのですか?
組織の成長に伴い、レイヤーが増えることそのものは問題ではありません。問題は、売上・利益といった数値目標と、それを左右する顧客行動の繋がりが見えなくなることです。
例えば「この顧客層の行動を促すには何を提供すべきか」「顧客は何に価値を感じているのか」「そもそもターゲット顧客とはどんな人たちなのか」という解像度が低くなってしまいます。これらが社員全員、少なくともミドルマネジメントまで共有されていれば、権限委譲の問題は解決できるはずです。
トップは「そんなこと当たり前だ、毎日話しているのになぜわからないのか」と思うかもしれませんが、頭の中にある暗黙知が形式知として明文化・数値化されていないことが多いのです。さらに、創業者が想定していなかった成功パターンが生まれていることもあります。

Q. 市場全体を捉えるためにはどうすればいいですか?
多くの企業で「100%シェア」の定義が曖昧です。例えば「ビジネス映像メディア」というマーケットを考えるとき、テレビ東京やニュースピークス、個人のビジネス系YouTuberなど、様々なプレイヤーが存在します。これらを構造的に捉え、「これが市場全体だ」と定義する必要があります。
ただし、現状の市場だけを見るのでは不十分です。特にビジョナリーな企業は、将来作り上げたい市場像を持っているはずです。「5年後、10年後に100%のマーケットになった時、そのターゲット顧客は今何をしているのか」「彼らは将来、何を見ているのか」という時系列の視点も必要です。
消費財のような固定的な市場なら現状分析だけでも良いかもしれませんが、変化の激しい市場では、現在と将来の両方から「100%」を定義し、そこから逆算して考えることが重要です。

Q. ロイヤルユーザーをどう定義すべきですか?
多くの企業で「ロイヤルユーザー」の定義が曖昧です。例えば「毎日アプリを起動する人」と定義しても、1分しか見ない人と10分以上見る人では大きな差があるはずです。どちらが本当の意味で「ロイヤル」なのでしょうか。
また、ロイヤルユーザーの定義は時間とともに変化させるべきです。どんな事業も立ち上げ時から同じ形態のままではありません。例えばiPhoneは最初はシンプルな携帯電話とiPodの組み合わせでしたが、今ではパソコンを超える機能を持っています。それに伴い、Appleにとっての「最も収益性の高いロイヤルユーザー」の定義も変わっているはずです。
さらに、ロイヤルユーザーも一定の割合で必ず離脱します。業種によって離脱率は異なり、銀行や証券は比較的低い(年間5〜10%程度)ですが、QR決済や消費財は高くなります。「ロイヤルユーザーは永遠に離れない」という前提は間違いです。
Q. 経営者が見失っている顧客の実態はどのようなものですか?
経営者が見失っている顧客実態は主に3つあります。
1つ目は「心理」です。購買や契約といった行動データは数値化されていても、なぜその行動をしたのかという心理を見ている企業は少ないです。この心理が見えないとビジネスはスケールしません。
2つ目は「多様性」です。「ロイヤルユーザー」と一括りにしても、実際には様々な層が存在します。例えば「ビジネスマンで知識欲がある人」と定義していても、実際には主婦や高校生が重要なロイヤルユーザーになっているかもしれません。この多様性を見逃すと成長が頭打ちになります。
3つ目は「変化」です。時間とともに顧客は変化します。新たにファンになる人もいれば、離れていく人もいます。この変化を捉えることで、次の一手や将来の方向性が見えてきます。
これらの実態を定期的(例えば1年単位)で見直すことで、経営とマーケティングの断絶を埋めることができるでしょう。