日本再興ラストチャンス
後編:成田悠輔と考える、観光大国への道
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2023年9月2日

【collaborated with 経済同友会】 日本再興ラストチャンス。日本が失われた30年を経て、これからどのように経済を再興するべきなのか。経営者と有識者と対談を通じて、日本再興に向けた具体的なアクションプランを発信していく。 【Sponsored】
「稼ぐ観光」のジレンマ:日本の観光業が抱える深層と未来
インバウンド需要が回復し、日本の観光業は再び注目を集めている。しかし、その華やかな表面とは裏腹に、賃金水準の停滞、老朽化した設備、硬直的な規制など、構造的な課題が根深く横たわっている。本記事では、日本の観光業が直面するこれらの問題の本質を掘り下げ、真に「稼ぐ観光」を実現するための道のりをQ&A形式で考察する。
単なる一時的なブームに終わらせず、持続的な成長と地域活性化の礎とするためには、現状を正確に認識し、大胆な変革を推進する必要があるだろう。
Q. なぜ日本でライドシェアがなかなか進まないのか?
日本でライドシェアが普及しない最大の要因は、「白タク」行為を禁じる厳格な規制にある。これにより、ホテルや旅館が有料で送迎サービスを提供することすら、「白タク問題」として明確な法的ガイドラインがなくグレーゾーンとなっている。事業者はその曖昧さから、新たなサービス提供に踏み出しにくい状況がある。
地方の観光地では、タクシーの台数不足やレンタカーの供給不足が深刻であり、奄美大島のような離島ではタクシーが数台しかなく、観光客の移動手段が著しく制限されている。これは地域経済の機会損失を招き、観光体験の質を低下させる大きな問題となっている。規制の緩和は移動の自由度を高め、観光客の利便性向上と地域経済の活性化に直結すると考えられる。
Q. 観光業の生産性の低さが日本の経済成長を阻むのはなぜか?
日本の観光業の生産性の低さは、経済全体の足を引っ張るほど深刻である。特に宿泊・飲食業における一人あたりの付加価値は194万円と、全国平均の約3分の1に過ぎず、製造業が生み出す貢献を相殺してしまうほど低い。
「おもてなし」の精神を過度に強調し、それが低価格サービスとして提供されてきた結果、「サービスに見合った対価」という考え方が浸透しなかった。この低価格・低賃金構造が業界の魅力を低下させ、新たな人材確保や賃金上昇を困難にしている。質の高いサービスを提供し、それに見合う価格を設定することで、従業員の賃金向上に繋げ、産業全体の生産性向上を図る必要がある。
現状を打破するには、付加価値の高いサービスを提供できる事業者に対して適切な賃金支払いと継続的な設備投資を促す仕組みが不可欠である。これにより「観光業=最低賃金・過酷な労働」という負のイメージを払拭し、健全な成長を促せるだろう。
Q. 多くの観光地の宿泊施設はなぜ時代遅れなのか?
日本の多くの観光地の宿泊施設、特に地方の旅館は、かつて隆盛を極めた社員旅行などの団体客向けに作られた設備が更新されないまま、現代まで存続している。これは約半世紀にわたる設備投資の不足が原因であり、その結果、現在の個人旅行中心のニーズ(広い客室、部屋付き露天風呂など)に対応できていない。
修繕費用をかけず、古い畳や老朽化した施設で営業を続ける背景には、過去の収益を将来への投資に回さなかった経営判断、そして国内旅行客の減少による資金的な余裕のなさがある。低価格で何とか存続しようとする姿勢は、結果的に顧客体験の質を低下させ、業界全体の魅力を損なっている。
現代の旅行者の求める価値に応えるためには、大胆な設備投資と施設の刷新が急務である。新しいホテルは地域全体のイメージ向上と他の店舗の活性化にも繋がるため、単独の施設だけでなく地域全体で新しい価値創造に取り組むことが重要だ。
Q. インバウンド戦略の真の目的は経済効果だけではないのか?
日本政府が推進するインバウンド戦略の本来の目的は、単に「世界平和」といった理念的なものではなく、人口減少社会において、国外から「稼ぐ」ための経済戦略である。
外国人観光客は日本の納税者ではないため、公共施設などを無料にする必要はなく、サービスに見合った適正な対価を求めることで利益を最大化するべきだとの考え方もある。このビジネス意識が欠如すると、観光は産業としての成長を見込めない。
興味深いことに、「外国人向け」に整備された観光資源やサービスは、結果的に日本人の利用者をも増やす効果がある。東京国立博物館の事例では、外国人向けに解説を充実させたところ、日本人訪問者も激増したという。これは、質の高いサービスや情報は、国内外問わず観光客を引きつける力を持つことを示唆する。
このように、インバウンド戦略は、地方の過疎化やゴーストタウン化が進む地域において、国土の維持・活性化を図るための重要なツールとしての側面も持つ。新しい宿泊施設や文化施設を建設することは、日本の未来を守る国土投資であると考えられる。
Q. 「観光公害」は本当にあるのだろうか?その本質とは何か?
「観光公害」という言葉が取り沙汰されることがあるが、その本質は「観光客が多すぎる」ことではなく、受け入れ側のインフラ不足、行政の対応の遅れ、そして需要に応じた適切な価格設定の失敗にあると指摘されている。
例えば、バスの混雑やゴミの増加は、バスの増便や清掃回数の増加といった行政サービスで解決できる。その費用は、観光税の導入や入場料の値上げといった、観光客からの収入で賄うことが可能である。住民のために安価に設定されている庭園などの施設も、実態として大半が観光客によって利用されているケースが多く、利用実態に合わせた料金改定が必要だ。ヴェネツィアやバルセロナなどと比較すると、日本の現状は「公害」と呼べるレベルではないと認識できる。
真の観光公害は、受け入れ側が需要に対応できないことで生じる住民の不満であり、その解決策はインフラ投資と料金制度の見直し、すなわち行政と事業者の適切な対応にある。
Q. 観光が提供する「体験」の真の価値とは?
観光の価値は、経済的な側面だけに留まらない。古代ギリシャのグランツアーや日本の「お伊勢参り」に代表されるように、観光のルーツには自己の世界観を広げ、精神性を高めるための「体験」があった。
現代においても、異文化に触れ、異なる価値観を体験することは、自分たちの文化や考え方を客観視し、人生を豊かにする重要な機会となる。日本ならではの文化や「人の温もり」といったものに触れることで、訪問者はメタ認知を促され、自己の内面的な成長へと繋がるのだ。
付加価値は、単なる経済合理性で測れるものではなく、高級寿司店の「ネタ」の価値が原価だけで決まらないように、空間、サービス、そしてその場所が持つ物語といった総合的な体験全体から生まれる。日本には多様な文化や歴史が存在するため、「日本人」「外国人」と一括りにして論じることは意味がない。
訪れる人々が自分なりに日本の多様な側面を感じ、発見し、それを通して豊かな経験を得られるような、柔軟で奥行きのある観光のあり方が追求されるべきである。日本の独自性を一方的に押し付けるのではなく、訪れる人がそれぞれの価値を見いだせる選択肢を提供することが理想的な観光へと繋がるだろう。