PIVOT LEARNING
【星野リゾートに学ぶ③】観光の未来とステークホルダーツーリズム
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2023年3月15日

経営者や専門家がビジネスの基礎や最新テーマを教える「PIVOT LEARNING」。星野リゾート代表の星野佳路氏に「真似されないビジネスモデルの創り方」を聞いた。
「数字を追うだけでは時代遅れ」-星野リゾート代表が語る新しい観光のあり方
観光業界は新型コロナウイルス後、大きな転換期を迎えている。単に観光客数や消費額という数字を追い求める時代は終わり、地域社会や環境との調和を重視する「ステイクホルダーツーリズム」という新しい観光のあり方が世界的に注目されている。星野リゾート代表の星野佳路氏に、日本の観光業界が進むべき道について聞いた。

Q. コロナ禍を経て、世界の観光業界はどのように変わったのでしょうか?
コロナ禍の3年間で、観光客がいない状態を経験した世界中の人々は、空気が綺麗になり、渋滞がなくなるなど、生活環境の快適さに気づくことになりました。例えば、ハワイのワイキキビーチは観光客がいない間、美しいビーチに戻りました。同様に京都の嵐山なども本来の姿を取り戻していました。
私自身も年間70日ほどスキーをしますが、インバウンドが来ていなかった2年間は雪山が最高の状態でした。旭岳のロープウェイが1時間待ちということもなく、雪面も綺麗なまま滑ることができました。経営者としては厳しい状況でしたが、スキーヤーとしては「このまま続いてほしい」と感じるほどでした。
この体験は私だけでなく、世界中の人々が共有したものです。コロナ後に観光業が回復する中で、「本当に以前のような混雑した状態に戻りたいのか」という問いかけが世界中で起こっています。
Q. 「ステイクホルダーツーリズム」とは何ですか?
ステイクホルダーツーリズムとは、観光産業に関わるすべての利害関係者が公平なリターンを得られるようにする考え方です。従来は旅行会社、ホテル投資家、バス会社など観光ビジネスを行う主体が中心でしたが、それだけでなく地元コミュニティ、環境、そして旅行者自身も重要なステイクホルダー(利害関係者)として捉えるアプローチです。
過剰な渋滞で地元住民に不便をかけたり、自然環境を過度に汚染したりするような観光のあり方は持続可能ではありません。世界の観光地では、このステイクホルダーツーリズムを実現するための取り組みが始まっています。
例えば、イタリアのベネチアは1日の観光客数を制限し、事前予約制を導入しました。また入場料を倍以上に引き上げ、週に2日は完全に観光客を遮断する日を設けるなど、海水が自然の力で綺麗になる時間も確保しています。
Q. 日本の観光政策の課題は何でしょうか?
日本は依然として「2019年の数字を早く取り戻そう」「2030年に訪日外国人6000万人、消費額15兆円」という目標を掲げていますが、世界の潮流は変わってきています。私が2022年の夏にニュージーランドなど各地のDMO(観光地域づくり法人)のトップと話した際、彼らは「2019年の観光には戻らない」と言い、新しいモデルを目指していました。
世界の観光地では「自分たちにとってありがたいと思う観光客だけをターゲットにしよう」「ありがたくない人は来ないでほしい」という考え方に変わってきています。例えばニュージーランドのクイーンズタウンは、1泊だけの観光客を断ると言っています。バスで来て1泊し、ホテル内で食事をして翌日自然の中で写真を撮って次の場所に行ってしまう観光客は、地元には渋滞をもたらすだけで経済効果が少ないためです。
むしろマオリ文化に敬意を持ち、博物館や工芸品に興味を示す観光客を歓迎したいと考えています。同じ10万人の観光客を迎えるなら、そういった文化に関心のある人々を選びたいというわけです。
Q. 日本はステイクホルダーツーリズムのために何をするべきですか?
日本がステイクホルダーツーリズムに貢献できる重要な取り組みが3つあります。
1つ目は「マイクロツーリズム」の推進です。近距離の旅行は移動距離が短いためCO2削減に大きく貢献します。さらに、遠方からの観光客よりもリピート率が高いというメリットもあります。例えば、ニューヨークから草津温泉に年3回来ることはないでしょうが、群馬県前橋からなら3回、4回、5回と訪れることは十分考えられます。
2つ目は「連泊の推進」です。この点で日本は世界で最も遅れています。日本の国内旅行の平均宿泊数は1.2泊程度にとどまっています。年間10泊の旅行をするとして、10回の行き来をするより、例えば5回の旅行で2泊ずつするほうが環境負荷は大幅に減ります。交通移動によるCO2排出は観光産業全体の49%を占めており、日本はそれ以上かもしれません。
3つ目は「消費者の行動変容」です。私たちはホテルでペットボトルの廃止やプラスチック製品の削減に取り組んでいます。今後は歯ブラシの提供も見直したいと考えています。調査によると、現在ホテル利用者の43%は自分の歯ブラシを持参しています。ホテル業界全体でこうした取り組みを進めれば、ゴミの削減につながります。
Q. 京都のような観光地はどのように変わるべきでしょうか?
京都のような人気観光地では、まず桜や紅葉のような混雑シーズンはあえて宣伝しないことが重要です。すでに十分な観光客が訪れているからです。代わりに需要の平準化を図るべきでしょう。
次に連泊の推進も必要です。星野リゾートの「界 由布院」では1泊の予約は受け付けず、365日すべて2泊以上の滞在のみ受け入れています。これには多くのメリットがあります。ホテルの生産性が上がるだけでなく、連泊するお客様は地域のアクティビティに参加することで、地域の事業者にもお金が回ります。また顧客満足度調査によれば、1泊よりも2泊の方が満足度が高まります。
さらに、混雑する人気スポットでは、花園町の事例のように1日の入場者数を制限し、事前予約制を導入することも検討すべきです。入場料を日によって変えるダイナミックプライシングも有効です。これは利益最大化ではなく、需要の平準化が目的です。
このように「ステイクホルダーツーリズムを目指そう」という意識を持つだけで、やるべきことが見えてきます。この概念を日本で早く定着させることが重要です。