
2023年1月10日
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――多くの人にとって、いつか叶えたい夢のひとつが、海外移住。海外で仕事を得るのはハードルが高いですが、海外に住みながらも日本企業で完全リモートで働く人が徐々に増えています。Hacobuにも、そんな働き方をする人がいると聞きました。
今、海外在住の社員は2人いて、滋賀、奈良、札幌、福岡、熊本など地方にもフルリモートで働く社員がいます。実は、採用時に「どこに住んでも働ける」とうたったわけではないんです。でも、人それぞれいろいろな生き方があるし、働き方にしてもワンフィッツオールで考えてはいけないと思っています。
フルリモートで働く今の社員は、配偶者が海外赴任している、または配偶者が海外移住や地方移住を希望したという理由で働き方を変えています。生き方や家族の形はいろいろあり、働くことがそれと背反しなくてもいい。できる限り個別の事情を勘案しながら、働き方を考えたいのです。
出社すべきかどうか論も、画一的に決めなくていいと思っています。出社したほうがいいチーム、そこまででもないチームなど、様々です。それぞれ個別に切り分けて考えたほうがいい。
実は創業時、コロナの前までは同じ場所にいて、隣で議論するのが大事だと思っていたので、リモートワークに対しての恐怖心はありました。実際やってみたところ、向き不向きがあり、パフォーマンスが上がる人が出てきたし、家庭のストレスが減った人もたくさんいました。それを見て、ああ、やはり画一的に考えてはだめだと思ったんです。

そのときに、社歴の長いプロダクトオーナーの久住大樹さんが、「家族の事情があり、会社を辞めてマレーシアに行こうと思っています」と言い出したことがありました。
「辞めなくていいんじゃない? 社内の信頼関係がしっかりできているあなただったら、海外から十分にパフォーマンスを発揮できる」と言ったんです。彼は、「え、まじですか!?」と驚いていましたが、彼にとっては仕事を失うリスクを取らずに渡航できてよかったし、会社にとっても優秀なプロダクトオーナーを失わずにすんで良かった。
――やはり、社歴が長い人ならできるという感じですか。
それも職種によるんです。2022年、広報の森山美帆さんを採用したときには、「夫の仕事の関係で、ベトナム移住が決まっている」という状況でした。しかも、広報の仕事自体は初めて。それでもブランディングについて高いスキルを持っていたし、十分やっていけるコミュニケーション能力を面接でも確認できた。最初からフルリモートでも、問題なく仕事ができると判断しました。実際に、今はしっかりなじんでいます。
――最初からフルリモートでもいい、という意思決定ができるということは、採用にプラスに働きますか。
そうですね。例えば、子供が小さくて時短で働きたいという人を避けていたら、高い能力を持つ人を採用する機会は減りますよね。優秀だけどプライベートの制約があるという人はたくさんいて、その人たちが仕事と両立して働けるほうが、企業にとってもプラスです。
自分自身に子供4人がいますから、プライベートで事情があるという人の気持ちはよく分かります。幼児がいることも大変なんですが、小学校高学年になるとまた違う問題が出てきますね。
家庭とはホームベースであり、そこが安定しないと仕事のパフォーマンスがなかなか出ないのを、自分が実感しています。

――社長が「家庭と仕事の両立が大切」と実感していることは、会社のカルチャーにも影響していそうですね。
ちゃんと定義はされていないけれども、みんな「そういう会社」だと思っているんじゃないかな。マネジメントメンバーも含めてみんな、保育園送迎などの用事をスケジュールに入れて公開しているし、家庭の事情を織り込んでいる。
朝、子供が駄々こねて保育園に行ってくれないときには、「保育園送迎失敗につき少し遅れます」と断れば、みんな理解し合ってサポートする。「分かるわ~」という共感が多い(笑)。
――物流DXという社業に何か通じるところはありますか。
そうですね。会社のバリューに「Think outside the box」というものがあります。当たり前だと思っていることも「本当にそれって正しい?」と問い直すという意味です。物流の世界ではみんなアナログで頑張っていて、紙でやり取りされることが普通だったけれども、それは本当に当たり前なのかと疑うところから、会社が出発しています。
だから僕は、前提とか慣習は疑いたくなるんです。例えば、営業の電話をかけまくるべきだという慣習があれば、それって効率いいんだっけ?と常に問いたい。
Hacobuのバリューのなかに、「正反合」という変わったものがあります。ヘーゲルが確立した弁証法における3つの概念で、ある命題(テーゼ=正)を否定する命題(アンチテーゼ=反)、それらを統合する命題(ジンテーゼ=合)に至る。この弁証法を皆ができるようにしたいんです。
ある前提があったら、必ず「反論はない?」と確かめる集団でありたいんです。反論がないほうが怖い。正と反が出そろって、何が違うのかを検証していくうちに、対立構造にある論点は、別の方法で解消できることが見えてきますから。
マレーシアに行った久住さんの場合を「正反合」で考えると、「海外に行くことを諦める」「仕事を辞める」という2項対立があり、「本当にその2つしか解はないんだっけ?」と考えていくうちに、リモートで働く選択肢が出てきた、といった具合です。
森山さんの場合もそうです。広報は、パーティーやセミナーに出席して人脈をつくるイメージがありますよね。僕のこれまでいた会社でも、どのパーティーにも出席する優秀な広報の人がいました。でも、Hacobuにはそれは必須ではないと考えたわけです。
誰でも完全リモートワークがOKなわけではありません。久住さんのようなプロダクトオーナーが、転職直後からの海外リモートであれば、それは難しいと言うと思います。人で判断しています。
――地方・海外リモートの人もいれば、リアル出勤する人もいる状況でのルールづくりはどうですか。
ベースとしての就業規則はありますが、「うちはリアル出勤またはリモート」「全社週1日出社」などの号令はかけないようにしています。チームの事情によってそれぞれ決めればいい。
オフィスは教会と一緒のようなものであるという理論を持っています。キリスト教徒は教会に毎日行くわけではない。時々行って、歌を歌ったりしてお互いキリスト教徒だと認識し、ボンディングをはかっています。それと同じだと思っています。
国内リモートで働くエンジニアは、だいたい月に1回は出社してご飯を食べに行ったり、話をしたりしていますね。交通費は出張扱いにして、全額出るようにしています。また都内にいるメンバーのなかにも、時々ワーケーションをする人はいますね。
配偶者が里帰り出産するから、その間リモートで働くという人もいます。出産後いかに妻と生まれたばかりの子のケアをするかは、その後の夫婦関係に大きく影響するじゃないですか。
――さすが、4人の子育てを経験している父の意見ですね。
そうなんですよ。僕は、男性の社員がもうすぐ子供が産まれると言ってきたら、むしろ「ここ、大事だから!」とアドバイスしています。育児休業を取る、里帰り先でリモートで働くなど、特に産後の期間は男性も家庭を優先できるように話し合っています。
この感覚は子育てに参画していない男性社長にはなかなか分からないと思います。「男性も育児休業を取るのはいまどきの社会の要請だから仕方ない」ではなくて、夫婦関係を安定させて、長い目で仕事のパフォーマンスを上げるために必要なんです。
――社長が決めたことに、社員から「反」が出て変更したという例はありますか。
なんだろう……たくさんありますね。意思決定の場合は、必ず社内で他の人に「これはどう思う?」と聞くようにしています。自分が正しいとは限らない。
バリューを作りなおすというプロジェクトを1年近くかけてやりましたが、私が最初につくったバリューは、社員に「これでどう思う?」と投げかけたところ、1つ以外はほとんど変わりました(笑)
例えば「Give It Try(とりあえずやってみよう)」というバリューがあったんです。これは僕の人生訓でもあり、イノベーションには重要だと思っていたんですが、メンバーから「Give It Tryが免罪符になっていないか」という反論が出てきました。
「事業が大きくなってきた今は、とりあえずやってみることが弊害になる場面が出てきた」という指摘です。そのとおりだなと思って、変えました。

――最近はTwitter社を買収したイーロン・マスクが、ハードワークを求めたということも話題です。スタートアップにとっては「家庭が大事なのは分かるが、ハードワークしないと会社が立ち行かない」というジレンマもあります。
僕はハードワークは家庭を犠牲にすることではないと思っています。時短勤務をする人が効率を徹底的に考えてものすごい濃度で働くということがありますよね。だらだら働くよりも成果を上げることもある。
ハードワークを実現するために、目標設定が高く、PDCAを回すループが早いです。目標に対してできているかを、マンスリーでフィードバックしますが、その内容はかなりストレート。

年下のリーダーから、バシバシ「ここを改善してほしい」と言われるのも当たり前です。最初はこの文化に慣れない人もいますが、「バカだと思われたとしても、別にいいんじゃない?」とアドバイスしたら吹っ切れることもありました。大企業で培ったプライドを持っていても何も役に立たない。
バリューのひとつに、「Respect others」があります。これが、僕が提案して唯一残ったもの。社長だろうがどんな経験をしていようが、人間としては平等。相手の立場がどうであっても、「それって違うんじゃないの?」と思ったら反論するし、フィードバックする。
――それも「正反合」に通じますね。
はい。僕自身の哲学として、「正反合」によって、どんな難しい局面も乗り切れると思っているんです。
「ワークハード&ファミリーファースト」ができないと、日本はダメになる。実際に、少子化がいろいろなボトルネックになっていて、いかに子供を育みながら生産性を高めて仕事をするかは日本に突き付けられている課題です。物流の課題を解決すると同時に、それを解決するのも、スタートアップであるHacobuの役割だと思っています。

※2023年1月11日公開の第2話では、実際に海外・地方でリモートワークをする社員の話を紹介。