
2022/12/27
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動画版の「いい会社の選び方」で説明したとおり、日本人はグローバルで見た報酬水準という点において、《横ばいジリ貧エスカレーター》に乗っている。
だから、会社選び・職業選びを真剣に考えないと、「国の不作為」という政策に流される形で、気が付いたら一緒に、世界のなかでは相対的にジリ貧な収入水準になってしまう。
1996年からの25年間、OECD平均では賃金が平均31.6%上がったが、日本はグラフの通り、横ばいだった。現在も政策変更をしていない(むしろ「改革封印」の状態)ので、この傾向は今後も変わることはない。

収入が上がらないなかで、負担のほうは、少子高齢化で重くなっていく。過去16年間では、年収700万円だと、社会保障費負担増によって手取りが540万円→529万円に、約11万円減った。
さらに消費税が倍増したため、すべて消費したと仮定した場合の「最終手取り」は、513万円→476万円へと37万円も減った。今後も、防衛費GDP比2%への倍増などの財源として、増税方針だけは決まっている(2027年度までに1兆円増税)。
それでもやっていけたのは物価がデフレ下でほとんどゼロに張り付いていたからだが、2022年は海外での経済活動再開・ロシア侵略戦争・円安による輸入物価上昇が始まり、足元では賃金1.8%増なのに物価が4.4%上がり、実質的な賃金減は7カ月連続(2022年10月・前年同月比)。2023年も物価上昇に賃金増が追い付かない状況が続くとみられる。
①賃金は大枠で横ばいが続く、②社会保障と税の負担はじりじり上がり続ける、③物価も(米欧ほどではないにせよ)上がる――。これが、マクロでみた日本経済の構造的トレンドである。
この状況は、国民が「雇用第一」政策に満足している結果なので、国民の自己責任である。
民主主義国の日本では選挙でしか修正されないが、過去10年、第2次安倍政権(2012年~2020年)は失業率を下げ続けた結果、選挙で大勝を続けた。
2021年には失業率2.8%と、コロナ禍にもかかわらず完全雇用状態となり、これはOECD全38カ国のなかで、チェコ共和国と同率で最も低い。
「仕事さえ与えておけば満足」なのが、日本人の第一の特性といってもよいくらいだ。

「低失業率」を第一に考えると、無条件に「失業させない政策=善」となる。
解雇規制は厳しいまま維持し(企業は社員を解雇できない)、コロナ禍で売り上げが激減しても、政府は雇用調整助成金をばらまいて企業に社員を抱え込ませた。
いわゆるゼロゼロ融資(保証人ゼロ、金利ゼロ)で中小企業の資金繰りを支援した結果、借金漬けで実質赤字な“ゾンビ企業”が15万社以上も生き延びている。
日本の有権者は、この政策を支持しているから、与党は政策変更の必要がなく、政権も崩壊しない。雇用第一主義政策の結果、企業が社内失業者にも賃金を払うためには、全体の賃金水準は上げるわけにはいかない。
利益のないゾンビ企業の給料水準も、上がるはずがない。賃金は上がらなくても、より優先度の高い「雇用」さえあればOK、というのが、この国における国民的合意なのである。
逆に賃金水準が世界一高い米国は、解雇が原則自由なので、コロナ禍で一時10%超の失業率に跳ね上がった。日本で同じことをしたら政権崩壊だろう。
日本人は、賃金が上がることよりも、「目の前の雇用」のほうを政治的に選択している、といえる。
以上の政治経済構造を理解したうえで、国がとるべき政策と、個人がとるべき職業選択について、以下解説する。
国民の賃金が上がらない理由は、もちろん単純に1つではなく、動画で示したとおり7つほどに集約されるが、そのセンターピンは、「給料の高い成長産業がなさすぎる、少なすぎる」点にあるというのが、1千人の取材で実感した筆者の結論である。
マスメディアではそれ以外の6つについて熱心に語られているが、それらは枝葉末節の第2層以下であって、本質的な第1層のテーマではない。

賃金増については、日銀の黒田総裁をはじめ「春闘に期待する」という発言が多いが、これは昭和時代のまま思考がアップデートされていない証拠だ。トヨタ自動車の豊田章男社長でさえ懐疑的であることは、以下発言からもわかる。
「自動車・部品産業は2009年以降、賃上げ率は約2.2%/年となっており、これは全業種平均(約2.0%)を上回っております。しかしながら、この『流れ』の中に組み込まれているのは、私どもがよくいう『(自動車関連産業)550万人』のうちの約3割の人々であって、残りの7割の人たちは現在『話し合いの場』にすら立てておりません」「連合と経団連との話し合いは毎年やっておりますけれども、あれも約8割の方が話し合いに入れていないんですね」(2022年11月17日、記者会見)
豊田社長の言うとおり、労組の組織率は、労働者全体の2割を割っており、よって、この労使交渉によって日本全体の給料トレンドが上がることは起こりえない。
春闘など、年に1回のガス抜き大会で、セレモニーみたいなものである。物価は毎月上がるが、賃金が上がるチャンスを年1回に制限していたら、どんどん実質賃金は下がってしまう。
「給料は、転職によって上がる」のがホワイトカラーの世界標準だ。仮に、給料の高い成長企業が事業拡大につき人材を大規模に募集し、そこに低賃金企業からどんどん転職していけば、一気に2~3割の給料が上がる。
引き留めるために、低賃金企業のほうも、内部留保を取り崩して賃金を引き上げる。こうして、年1回の春闘ではなく、毎月、毎週といった単位のスピードで、全体の水準が上がる。
そういう高賃金企業への転職者をいかに増やせるか――がセンターピンである。そのためには、規制改革・構造改革によって投資チャンスを生み出し、新産業を創出しなければいけない。
これはスタートアップだけでなく、大企業の新事業でもよい。
たとえば農業の規制改革で企業が農地を取得しやすくなれば、内部留保を貯め込んでいるサントリーあたりが農業に参入し、1千人規模の新事業部が数年で出来上がり、35歳で年収1千万円くらいの賃金水準で、どんどん中途採用するかもしれない。
生保損保、銀行、通信、放送、出版、新聞、農業、教育、医療、介護、福祉…と、日本経済は、とにかく岩盤規制だらけで、がんじがらめになっている。
おいしいマーケット、いわば《成功が約束された肥沃な土地》には、規制をかけて新規参入できない状態にして、《砂漠のような報われない土地》でスタートアップを頑張れ、と言っているわけだ。
安倍政権は、アベノミクス3本の矢について、第1の矢(金融政策)、第2の矢(財政政策)を実行したが、第3の矢である産業構造改革による成長戦略については、その「1丁目1番地は岩盤規制改革だ」とまで首相が述べていたものの、既得権に阻まれ、まったくやらないまま10年が経った。
金融・財政政策によって、資金はジャブジャブとなり、企業の内部留保も500兆円を超えた。お金は潤沢にあるが、規制によって投資チャンスが生まれないから、新事業が生まれず、スタートアップも生まれず、高い給料を払える成長産業が育たない――というのが、今の日本経済である。
もちろん、マスメディアがこのテーマに触れられないのは、自分自身の既得権問題があるからだ。
電波オークション規制や日刊新聞法規制、さらには軽減税率など、ありとあらゆる特別な規制に守られている。規制改革をされたら困る人たちがマスメディアを経営しているので、この問題はタブーにならざるをえない。
民間のエコノミストは理解している人も多いが、言うと次回から出演できなくなるから、忖度して口をつぐむ。また、発言しても編集でカットされる。こうして完全犯罪的に、日本人の賃金は、その「上がらない構造」すら国民に伝わらないのである。
本来は、規制改革で新産業創出→その産業で必要なスキルが顕在化→セーフティーネットを含む「リスキル」のインフラ整備→(解雇規制の改革→)転職活発化による生産性が高い企業への人材移動→賃金上昇、という流れになる。
大本の規制改革がない状態でリスキルだけやろうとしているのが今の日本政府で、それではダメなのだ。身につけたスキルを生かした人に、高い給料を払える企業が同時に誕生していることが大前提となる。
セーフティーネットが必要な理由は、冒頭で述べた通り、「低失業率」を世界でも最も望んでいる国民性なので、米国式に解雇自由にする法律は、絶対に国会を通らないからだ。
解雇規制の改革は、やるとしても一番最後になり、それも、働く者の権利を強化する内容(中小企業にも高めの割増賃金支払いを罰則つきで義務付けたうえで解雇可能とする)でなければ、国会を通らない。いわば、アングロサクソン型ではなく、ノルディック型である。
現状では、経済的な規制改革や、雇用の解雇規制改革は、政治課題にものぼっておらず、《失業率さえ低ければ皆で貧しくなっていく分にはOK》という、うっすらとした国民的合意がある。日本国民は、賃金よりも雇用を選んでいるので、この流れは容易には変わらない。
以上のとおり、世界における日本の「相対的な低賃金化」のトレンドは、いわば完全犯罪状態で、修正は期待できない。
となると、かなり慎重に企業や職種を選ばないと、国と一緒に個人も沈められてしまう。報酬水準という点で、もっとも自分に合った形で会社選びをするには、まずこちらも、現状の全体像を把握する必要がある。
以下は、社会に出て10年強が過ぎ、職業人として一人前になる35歳時点で、手取り年収がどのくらいになるか(縦軸)を、その企業の平均勤続年数(横軸)との関係でマッピングしたものである。主要な職種や人気企業・業界が網羅されている。

本来、この図がなければ、人生設計はできない。家を買うのも、子どもの教育費を計算するのも、投資に回すのも、すべて手取り収入が基本的な原資となるからだ。
日本は北欧のような福祉国家ではなく、生活も教育も自己責任が原則で、国に頼ることもできない。
したがって、全国の高校生・大学生が、学校の1時限目の授業でこうした正確な事実を知るべきで、むしろ政府が情報収集して国民に情報提供すべきだが、あまりにも「闇の中」となっているため、筆者が20年余りをかけて現場取材で明らかにした。
それぞれのエリアの雇用リスク面の特徴や向いている人など、詳しい説明は単行本の通りだが、大枠で理解してもらいたいのは、平均勤続年数が長い右側のエリアの企業に入り込むチャンスは新卒時の1回だけ、ということだ。
これは世界のなかでも日本だけといえる特徴で、俗に「新卒カード」と呼ばれる。中途で入る場合に比べ、少なくとも10倍はハードルが下がり、そもそも中途採用をほとんどしない会社も多い。よって、右→左への転職は容易であるが、その逆がほとんどない。
この図を見るだけでも、いかに日本の労働市場が歪んでいるか、が見えてくる。
本来、こうしたマッピングにおいては真ん中に企業が集積するものだが、日本は逆に、真ん中が薄い。赤丸で印したように、平均勤続年数が5~15年くらいで35歳手取り600万円(額面800万)くらいの転職市場に、有名企業が続々と誕生しなければいけない。
要は、サイバーエージェントやリクルートのような会社だ。
そこのエリアの層が厚くなれば、中小企業からだけでなく、古い会社から転職しても賃金が上がるため、日本全体の賃金水準も上がっていく。
だが前述のとおり、政府が規制改革を怠っているため、新しい会社が生まれないのが現状だ。となると、凡人は、まずは右側の古い昭和企業からスタートしてキャリアを積み、時を見て左側へ転職または起業――が正攻法となり、ハイスペックな自信家のみ左側からのキャリアをスタート、となって、二極化は必然となる。
結局、最後は政府の「政策不作為」問題に行きつくのである。