
2022年11月10日
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田中 鈴木さんはいかがでしょうか。数々の挑戦の中で、「変えられなかったもの」はありますか。
鈴木 僕は今から8年前に帝人のCEOになり「会社をどうしようか」というところに全力を傾けてきました。
やっていることは「伸びる分野・稼ぐ分野・伸びしろがない分野」をちゃんと分別して、伸びる分野にどんな人材を集めるべきか、稼ぐ分野はいつまで事業継続性があるかを見極めることです。これは国の経済に対しても応用できる視点ではないかと思うのです。

この国でこの先伸びる分野はなんなのか、この国は何で稼いでいくのか、そういう観点から考えると、日本という国は大変ポテンシャルが高い。気候は良くて水も豊富、この国の自然は大きな資産です。農業だけではなく、産業としてもっと活用しないともったいないですよ。
それに、国民の教育レベルも平均的に高い。このような国はめったにありません。この優秀な人材を最高に活用するための仕組みをつくれば、日本はまだまだ生きていけるはずです。そう考えると、大学教育がとても心配ですね。
何が問題かというと、大学の資金が不足して、理系では実験すら満足にできなくなっているのです。大学で研究を続けてなんとか食べていけるような環境をつくらないと、新たな天才は現れないでしょう。
冨山 おっしゃるとおりですね。
鈴木 例えばmRNAを研究したカリコー・カタリン博士も、当初は「ワクチンの役に立とう」と思って研究していたわけではありません。純粋なる好奇心で研究を続けていた、そういう熱量が結果を出す力になるのです。

ところが、今の日本の大学は5年程度の任期付きポスドクが多く、「研究を続けられない」と挫折する研究者が多いのです。
また、大学自体の運営資金もまったく足りていません。国立大学は独立行政法人とはいうものの、教授の給与体系は文部科学省に決められているため、年俸数千万円クラスの海外の有名教授を招致することができないのです。
冨山 かろうじて東京大学が、大学の自己資金でスタンフォード大学から星岳雄教授や小島武仁教授を呼んでいるくらいですね。

鈴木 最近は理系の学生を増やす目的の奨学金制度も生まれていますが、その先のポスドク制度まで考えてあげないと、状況は変わらないでしょう。
田中 スタートアップでも、理系や医療系の会社は少ないですから、なかなか声が上がってこない状況がありますね。

鈴木 おっしゃるとおり、日本には技術系のスタートアップが少ないですね。
材料系の研究レベルはすごく高いので、大学発ベンチャーなどをもっと増やせばいいと思うのですが、国立大学の教職員は兼業が難しいことがハードルになっています。
恒田 私たちも東北大学や京都大学などで、大学の持つ技術を社会実装するために産学連携型の起業支援をしているのですが、技術に深い理解のあるCOO(最高執行責任者)人材を探すのは、通常の3〜4倍の工数がかかります。

人材を支援した後の資金調達でもやはり難しい面があります。
というのも、既存の国内ベンチャーキャピタルの多くは、投資回収までに10年という前提があることが多く、リターンを見込むまでの期間がそれ以上に長くなる大学発ベンチャーには、なかなか資金が集まらないのです。
冨山 グローバルな視野で見れば、大学発のディープテックベンチャーにも多くの資金が集まっているんですよ。
東北大学や京都大学は世界的に一流のレベルにある大学なのですから、日本だけの“5パーセントの市場”を対象にすべきではありません。最初からグローバルモードで資金調達を考えるべきでしょう。
田中 まずベンチャーキャピタルの経営者に、経済同友会に入ってもらうのもいいかもしれませんね。ベンチャーキャピタルの方たちこそ、日本の規制を変えていかないと「ビジネスにならなくて困る」という人が多いのではないでしょうか。
冨山 経済同友会は外国人でも入会できますから、グローバルなベンチャーキャピタルに入会してもらい、海外からの目線で提言していただくのもいいかもしれません。
田中 それは良い考えですね。では、最後の質問になります。お二人の5年後、10年後の未来のビジョンを聞かせてください。
鈴木 僕はもともと、帝人でずっと医療分野の研究をやろうと思っていた人間です。それが、偶然にも社長を任されることになりました。運もありますが、本当に恵まれていたと思います。
そこで経営者として物の見方も変わりましたし、多くの人と知り合えましたし、それなりの技量もつきました。ここまでやらせてくれた帝人という会社に対して、「恩返しをしていきたい」という気持ちがありますね。

日本にはまだまだ変わる余地がありますから、「この分野が伸びるぞ」と新しいことを仕込んでいけたらいいというのが半分、もう半分はワークライフバランスを整えたいです。企業のトップというのは半分公人のようなものですが、もう少しハメを外したいなと(笑)。
冨山 確かに、社長になるといろいろ気を使いますよね。
鈴木 具体的に言うと、僕は社会人になってもサッカーをずっと楽しんできたのですが、この8〜9年くらいは封印してきましてね。やはり骨折やアキレス腱を怪我して動けなくなると、仕事に支障が出ますから。でもそろそろライフの部分も楽しみたいなと。
田中 いいですね。サッカーでさらに充実された鈴木さんのお話も聞いてみたいです。

恒田 冨山さんは、5年後、10年後にありたい姿をどのように考えていらっしゃいますか?
冨山 僕はつい2年前にスタートアップを起業したんですよ。まずはこの会社をIPOまで持っていき、「還暦スタートアップ」の成功モデルを目指します。
どんなスタートアップかというと地方創生を主軸とした企業体で、自分なりに社会的意義があると信じています。なぜなら、日本の課題の1つに「ローカル経済をどうするか」があるからです。

ローカル経済圏の仕事は、給与水準がものすごく低いんですよ。日本人の平均年収が400万円というものの、ローカルのサービス業では年収200万〜300万円の水準が一般的です。日本人の平均所得が下がっているように見えるのは、従来の製造業にいた人が仕事を失い、ローカルサービス業に従事する人が増えてきているからなのです。
この社会課題を解決し、事業としても成り立たせるロールモデルとして、2020年末に日本共創プラットフォームという会社をつくりました。
この会社を5年くらいの間に利益が出る形にしたいですね。ローカルには、いわゆるグローバルベンチャーとは違う形で活躍したいと思っている若者がいますので、彼らがローカルに居ながら自分らしくイキイキと活躍できる場をつくりたいのです。
恒田 すてきですね。

冨山 それからもう1つ。先ほどもお話ししたように、僕が国の規制や法律の仕組みに問題意識を持ってから20年の間に、解決できたのはそのうちの1、2割ほどです。その間、国は停滞したままで、このままでは子どもや孫の世代に「あの世代は何もしなかった」と言われてしまいます。これはちょっと悔しいですよね。
僕はこれらの問題解決のために、たまたま影響を及ぼせる立場にいるので、この立場を生かして、この国をなんとかしたいと思っています。
恒田 心強い言葉をありがとうございます。今日のお話を伺っていて、われわれ世代も目線を上げていく必要があるなと感じました。私たちも頑張ります。
田中 先輩方とつながれるネットワークをもっと活用して、産業にも社会全体にも、よりインパクトを出していける経営者を目指したいと思います。ありがとうございました。
