
【深井龍之介】「裏切ってくれてありがとう」SaaSビジネスの失敗が転換点
取材・構成/古澤誠一郎 撮影/竹井俊晴
日本を変えるイノベーターが仕事の軌跡と半生を語り尽くす新連載「マイヒストリー」。挑戦者たちの原点と未来のビジョンが明かされる。人気のポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」を配信するCOTENの深井龍之介CEOが、世界の未来と自分史を語り尽くす(全30話)。

企業理念を考えるのに歴史と哲学が必要
僕は大学時代に中国の古代思想を読んでから、日本史、西洋史と幅を広げ、世界の歴史の本や人文学の本を読んできました。
「勉強してビジネスに生かそう」なんてことは考えておらず、シンプルに面白いので娯楽として読んでいました。
その歴史を学んだ経験はのちにスタートアップでの仕事でも大いに生きました。

一方で、「僕は歴史を学んだ経験からいろんなアイデアを出せるけど、それを同じ経営者の人たちに共有できない」という状況にもどかしさを感じるようになりました。
例えば企業の理念を考えるときに必要なのは、歴史や哲学などの人文知です。
「この思想を踏まえた上で議論しよう」という形で過去の英知を取り込めたら、その企業の理念はより強く洗練されたものになります。

優秀な経営者も教養がなくて損している
しかし多くの経営者たちは、自分たちの頭だけで考えて、答えを出そうとしています。たかだか数十年生きてきた人たちが議論しても、世界の偉人の思考には遠く及びません。
経営者には非常に優秀にもかかわらず人文学の教養がないために損をしている人が多いと感じます。
人文学の教養は、ビジネスのスキルとしてはほとんど学ばれない。かつ何百時間と勉強しないと分からないことが多い。だから会議の席でサッと伝えても伝わるものではありません。
そうした状況を解決するアイデアとして、僕は歴史の事業をやろうと考えました。

COTEN創業、トラブル勃発
2つ目のスタートアップで働きながら準備をして、2016年に起業。会社の名前はCOTENにしました。
同時並行で手伝っている企業で社長と一緒にゴリゴリに資金調達をしていましたが、「歴史で資金調達するのは相当難しいな」と感じていました。
そのため、「ほかの事業で利益を出してから、その利益で歴史系の事業をやろう」と考えました。

そこで取り組んだのが、教育系のSaaSビジネスです。取締役の人を入れて、パートナー企業とサービスを開発しました。
そのサービスがうまく回り始めて、これから利益回収するフェーズに入りかけたところで、トラブルが起きました。
取締役が「この事業はCOTENの外でやりたい」と言い始めたんです。そのことにパートナー企業も同意していて、いわば社長の僕だけがはしごを外された形でした。

自信のなさと甘えが原因だった
僕としてはパートナー企業とCOTENがレベニューシェアをする前提で、かなりの労力をその仕事に割いていたので、めちゃくちゃムカつきました。
ただ、当時の僕は社長ではあっても立場が弱かったし、取締役やパートナーに対して、「この人たちがいるから僕はこの事業ができるんだ」という依存心がありました。
トラブルを引き起こしたのは、僕の自信のなさと甘えだったと自覚しました。
そして、「そういう気持ちで臨んだ事業からは僕の確固たる意志は出てこない」と気付きました。

人類に世界史データベースは絶対に必要
そこで「依存心を捨てて、自分が一人になっても、仮に儲からず成功もしなくても、最後までやりきれることは何だろう?」と考えて始めたのが、世界史データベースの事業です。
僕の中には「人類にとって世界史のデータベースは絶対に必要だ」という強い確信がありました。
現在のCOTENでは、メンバーのことを本当に信頼していますし、もちろん頼っていますが、依存はしていません。
明日メンバーの全員に「辞める」と言われたら、究極辞めてもらってもいい。もちろん困りますけど、そういうメンタリティーを常に持っておくことが重要だと思っています。
SaaSビジネスの失敗は、僕の大きな転換点でした。あのトラブルがなければ、僕はここまでの覚悟を決めることはできませんでしたし、今では「裏切ってくれてありがとう」と思っています。

*本連載は2話ずつ毎日公開します。明日の第25話に続く。