
インドで農業ビジネス 転職の末に見つけた「天職」
東 成樹
インドのユニコーン企業は2022年、100社を超えた。電通のプランナー、東成樹さんが2週間、現地で活躍する日本人のスタートアップ幹部やVCに会って実況する。インドで勝つのは誰なのか。日本の未来のヒントがそこにある。
ベトナムとインドか迷い、インドを選んだ
日本で転職を繰り返していくうちに、辿り着いたのがインドだった――。
日本発のアグリテックスタートアップであるサグリのインド法人で、最高戦略責任者を務める永田賢(さとし)さん。
大学を卒業後、大手保険会社や、人材系のベンチャー、実家の自営業など様々な職場を渡り歩いていた。
そんな中、4社目の転職を検討する際に、キャリアのリセットのために海外で働くことを考え始めた。
挑戦するなら、既に成長を遂げた国ではないほうがチャレンジしがいがある、と考えた。これからの経済成長が期待でき、なおかつ自分の競合となるような日本人や日本企業が少ないところはどこか。選択肢はベトナムとインド。2つの国で迷った。
最終的には、世界ランキング上位の大学が連なり、国際的に活躍する人材が豊富なインドに可能性を感じた。永田さんは2017年、インドに渡った。

インド農家に革命を起こす
インドの農村には8億人以上が暮らしているといわれる。
農業が社会の基盤の一つになっている一方、農業のビジネスのノウハウを確立できず、農薬や肥料の適切な使用ができない農家も少なくない。農村地の貧困も社会課題となっている。
そうしたインドの農家に「革命」を起こしているのが、永田さんたちの「サグリ」だ。
衛星データ、機械学習、ポリゴン技術を組み合わせてスマート農業普及に必要なデータ基盤を整え、データを活用した農業や与信創造を通じて農家の収益性を上げる。
サグリが取り組んでいる「改革」は主に3点ある。
①収穫量の向上
衛星データを活用して、農地を分析。生育情報・土壌分析情報を農家に提供し、天候変動に強く、収量の安定した農業を実現して、農家の所得向上につなげる。
②マイクロファイナンス事業
衛星データから農家の予想収益を把握し、農家の与信情報をマイクロファイナンス事業者に提供。その結果、農家が融資を受けて、農機具や肥料を買えるようになる。
③カーボンオフセット
衛星データを用いて、土壌化学性指標を分析することで、肥料使用料を最適化。その分の農地から排出される温室効果ガスの削減量を算出。カーボンオフセット取引を促進し、農家の所得向上に貢献。

インドのスタートアップが集うハブ的存在
最後に、永田さんの紹介で、NASSCOMディレクターのNavratan(ナブラタン)さんに会った。NASSCOMは「ナスコム」と読み、起業家たちが集うインキュベーションオフィスがある。1988年に創設された、インドのスタートアップ業界のハブ的な存在だ。
「紹介したいスタートアップがたくさんある」と部屋に通された。部屋で待っていると、次から次へとスタートアップがやってきて、サービスの紹介を始める。



EVの充電サービス、不妊治療、パソコンの中古販売など。次々と起業家たちが夢を語る。

スタートアップの隆盛の背景にある「インドの複雑さ」
NASSCOMディレクターのNavratanさんは、インドでスタートアップが盛り上がる理由をこう説明する。
「インドの90%のビジネスは個人事業主です。小さな農家や、地元のお店など個人店が多い。個人個人がばらばらにビジネスをしている、カオスな“unorganized market”だからこそ、その市場を効率的にまとめあげたサービスが勝利できます。
例えばOYO(格安宿泊サービス)は、ルームオーナーのための集客や決済の仕組みを整えましたし、Ola(※注:インド発の、Uberのような配車アプリ)は、個人ドライバーと乗客とのマッチングの仕組みを作り上げました」

永田さんから、インドで急成長を遂げるスタートアップとして、Rocketiumの共同創業者Anurag Dwivediさんを紹介された。
Anuragさんは、インドのスタートアップの隆盛の背景には「インドの複雑さ」があるという。
「インドは地域ごとに文化の違いがあり、人口も巨大で課題がものすごく複雑。だからこそ、その問いを喜んで解こうとする起業家がいる」
Rocketiumは、AI技術を用いてウェブのバナー広告のビジュアルなどを、自動生成するサービス。インドには多様な言語、習慣があり、バナー広告を作ったとしても言語、写真、サイズ調整などのカスタマイズ作業が大量に発生する。それをAIにより簡略化するのだという。
「インドには、非常に難度の高い課題に向き合う起業家たちがいます。その課題を解くために、未来のテクノロジーがインドには生まれるのだと思います」
※第6話に続く。第6話では、インドの勢いを支える「若さ」に迫ります。