
青天井のハイリターン 日本にはないインドの勢い
東 成樹
インドのユニコーン企業は2022年、100社を超えた。電通のプランナー、東成樹さんが2週間、現地で活躍する日本人のスタートアップ幹部やVCに会って実況する。インドで勝つのは誰なのか。日本の未来のヒントがそこにある。
インドの小売市場の約9割を占めるよろず屋
前回の第3話では、Incubate Fund Indiaの代表、村上矢(なお)さんがShopKirana という有力スタートアップに投資した話を紹介した。
「ShopKiranaという成長有望なスタートアップに、日本のファンドが初期ラウンドから出資できたのはなぜですか」
私がそんな質問をすると、村上さんは「有望なビジネスモデルから逆算して、スタートアップを探しているからです」と答えた。
インドに移住して村上さんが驚いたのはKiranaの存在だ。
いわば町のよろず屋さん的な小さな店舗で、インドの小売市場の約9割を占める。実際に、店主が地域のお客さん一人一人の名前を覚えるなど、個人のお客さんとの結びつきも強い。

Kiranaは有力なビジネスなのに、大きな課題があった。
Kiranaの仕入れにおける商品発注の煩雑さだ。さらに商品をKiranaに卸すメーカー自身も、Kiranaを通して自分たちの商品がどの店舗や地域でどのくらい売れたのか、把握できていなかった。
課題があるからこそビジネスチャンスがある。村上さんはそう思ったという。
日系大企業も断念したビジネスチャンス
実は村上さん以外にも、他の日系大企業がKiranaのビジネスに注目していた。とある日本企業が、数億円かけてKiranaの実態をリサーチしていたそうだ。
だが、店主ごとにビジネスのやり方はばらばら。仕入れや購買データを整理することができず、「実態が分析できなくて撤退した」という。
村上さんはこう言う。
「属人的な市場だからこそ、デジタル化に取り組むスタートアップがあれば投資しよう、と逆算して考えていました。Incubate Fund Indiaではまず、有望なビジネスモデルを考えつくします。そして、それに当てはまるベストなスタートアップや起業家を探し出し、声を掛けるという投資スタイルを得意としています。常に先手先手で考えるのです」
ビジネス課題があれば、それを解決できる企業があると考え、想像する。そうやってアンテナを張って探していると、実際にそうした起業家やスタートアップと本当に出会える、と村上さんは信じている。
村上さんが、スタートアップイベントでShopKiranaと出会ったのは2016年だ。
自分たちが考えていたビジネスモデルを手がけるスタートアップにまさに会えた、と感じた。
運も良かった。ShopKiranaは、バンガロールのような大都市から離れた、インドールという中規模都市を拠点にしており、なかなか出会うことができない。その日は珍しくイベントに参加しており、多方面に足繁く通っていた村上さんだからこそチャンスを得ることができたといえるだろう。
「まさに、自分たちが考えていた事業を手がけている」と考え、投資をオファーした。
倉庫の一角から高層ビルの最上階へ
当時のShopKiranaのオフィスは倉庫の一角。
エアコンもない中、日々、汗だくで議論してサポートするうちに、創業者3人とは家族ぐるみの付き合いになった。相手に子供が生まれればギフトを贈り合い、連休は家族で一緒に遊びに行くこともある。

シード投資の段階から向き合っているからこそ、インドに一時赴任するのとは異なる濃密な付き合いができる。
ShopKiranaは今、創業地であるインドールの高層ビルの最上階にオフィスを持つまでになった。

個人事業主大国インド
インドと日本、どちらで仕事をするのが良いのか?
村上さんは「ベンチャー投資家目線の話ですが…」と断った上でこう答えた。
「インドはハイリスクでありながら、青天井でハイリターンが期待できる国です。評価額が1兆円を超えるような未上場起業がたくさんあります。一方、日本はミドルリスク・ミドルリターンの国ではないでしょうか。競争も激しいですが、ベンチャーキャピタルとして成功した時のリターンが大きいのは、間違いなくインドだろうなと思います」
村上さんが何度も強調したのが、インドは「個人事業主大国」だということだ。
成功するスタートアップの大元には、多数の個人事業主の存在がある。ユニコーンを支えているのは、Kiranaのような小さい店舗で経営をしている多数の個人たちなのだ。
「この国の経済を、そのような個人たちが支えているんだっていうのはすごく大事なポイントだし、インドでビジネスをする時、そのことを忘れてはいけないと思っています」
※第5話に続く。第5話では、転職を繰り返し日本を飛び出し、インドで農業ビジネスに革命を起こす企業のCSOとなった永田賢さんに話を聞く。