
野村證券を辞めてファンド代表に インドでの熱き挑戦
東 成樹
インドのユニコーン企業は2022年、100社を超えた。電通のプランナー、東成樹さんが2週間、現地で活躍する日本人のスタートアップ幹部やVCに会って実況する。インドで勝つのは誰なのか。日本の未来のヒントがそこにある。
野村證券を辞めてインドへ
私がこの取材で一番初めに連絡したのが、Incubate Fund Indiaの代表、村上矢(なお)さんだ。
野村證券時代は、投資銀行部門で未上場のインターネット関連企業を担当。数々のベンチャー企業をIPOへと導いた。
村上さんは野村證券をやめて2014年、インドに家族と一緒に移住し、大学時代の友人と起業した。
それまでインドに行ったことはなかったが、その友人がふと漏らした一言に心が動かされたという。
「出張ベースでアジア各国に行っているが、インドに一番、可能性があるように感じる」
「インドで一緒に起業しないか?」
村上さんの大学での専攻は国際政治学だった。
「いつか、新興国に行きたい」と学生時代から考えていた。心がワクワクして、居ても立ってもいられなくなった。村上さんは野村證券をやめて、インドに飛んだ。
インドではコンサルティングや、日常生活上の困りごとに関する現地事業者を紹介する「便利屋」サービスを友人と進めていった。後者は日本人駐在員が主な顧客だったが、インドの富裕層にも利用されるようになった。
村上さんが移住した2014〜2015年あたりは、インドでスタートアップ投資が活発化した頃だ。投資を受けたスタートアップが資金をサービスに注ぎ込み、ユーザーをどんどん獲得していく。
企業の成長のさせ方、特に規模の広げ方に関して、日本とインドの違いを肌で感じた。村上さんは、市場理解のためにインドを駆け回り、そうするうちに、投資家や起業家とのネットワークもできていった。
赤浦徹氏から初対面で驚きの提案
そんな時、一時帰国した日本でIncubate Fundの共同創業者、赤浦徹さんと出会った。
「インドで0から、ファンドを立ち上げてみないか」
赤浦さんは村上さんに会うなり、そんな驚きの提案をしてきた。
ちょうど赤浦さんのIncubate Fundはインド進出を考えており、インドで精力的に活動している村上さんが適任と考えたのだ。
「赤浦さんとは初対面で、まだ最初のビールを飲んだくらいでのご提案でしたのでビックリしました」
最初は驚いたという村上さん。だが、瞬時にその「チャンスの大きさ」に気づく。
当時のインドはそこまで注目されていなかった。
本来は成長性のある巨大市場なのに、日本のベンチャーキャピタルの存在感は、まだまだ小さいように感じていた。
日本の投資マネーをもっとインドに持ってきて投資すれば、大きなお金にして日本に還元できるのではないか。そんな思いも抱き、赤浦さんの提案を受け入れて、インドでのファンド立ち上げに挑戦することにした。
友人と創業した会社からは離れ、別の形でインドに関わることにしたのだ。
企業の成長で街の風景がどんどん変わる
2016年にファンドを立ち上げてからは、とにかく人に会いまくった。投資家、起業家、アドバイザー。その数は、2年で2000人にのぼるという。現在は約30社に投資。投資先は急成長を遂げている。
「インドにいると街の風景がどんどん変わる。実際に投資した企業が成長し、社会を変えていく姿をリアルで感じられる点が面白いし、やりがいになります」と村上さんは話す。
例えば村上さんが来た頃は、村上さんの妻はインドではクーラーボックスを背負って、市場で肉を買っていた。今では、ニチレイも出資しているLiciousというサービスを使えば、2時間以内に新鮮な肉が自宅に届く。
「これまで百回以上使いましたが、一度もLiciousが遅れたことはありません」
数年前はまだUberなどのライドシェアもあまり普及しておらず、オートリキシャは毎回値段を交渉する必要があり、大きなストレスだった。今では、ドライバーたちがスマホを持っているのが当たり前だという。
「やはり私がインドに来た2014年ごろから変わりました。インド国外からベンチャーキャピタルの大資本が投下されて、新しいサービスが急成長していきました」

印象的な投資先ShopKirana
村上さんにとって最も印象的な投資先の一つは、初めての投資先でもあるShopKirana。2015年に創業、今年前半にはシリーズCを完了しており、資金調達総額は$50M(約65億円)を超える。その最初のラウンドから、Incubate Fund Indiaはリード投資家として投資をした。
ShopKiranaはどのようなビジネスを行っているのか。
その理解のためには、インドにあるKirana(キラナ)を知らないといけない。
Kiranaは町の個人経営店で生活に必要な日用品や食料品が何でも売っている。インド中にあり、全部で1000万店舗以上あるとも言われている。単純計算で、日本のコンビニの約200倍の数だ。

商品を卸す食料品企業や日用品企業と、Kiranaを直接結ぶための商品発注アプリを提供しているのがShopKiranaだ。
Kiranaは個人経営店だが、店に商品を並べるためには、時には100にのぼる業者へ注文をしないといけなかった。ShopKiranaを使えば、1つのアプリで商品がすぐお店に届く。注文の履歴も見られるので、ビジネスの管理に便利だ。利用店舗は5万を超えるという。
そんなShopKiranaだが、村上さんが投資を決めたのは「加盟店がまだ二十店舗くらいだった頃」だという。そのタイミングでどうやってShopKiranaを見つけ、投資することができたのか? 第4話で、「伸びる投資先の見つけ方」を聞いた。
※第4話へ続く。