
2022年7月24日
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今から5年前、子どもたちの「対話」をテーマにしたドキュメンタリーを撮るプロジェクトをスタートしました。
舞台は保育園。子ども同士の話し合いを重視する園に長期撮影のご協力をいただき、春夏秋冬1年間、カメラを抱えて通い、「こどもかいぎ」の様子を記録したのですが、想像以上に大人が学べる内容に仕上がったと自負しています。

実際、完成した作品を日本を代表するビジネスリーダーに見ていただいたところ、楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史さん、ソニーグループシニアアドバイザーの平井一夫さんなど、驚くほどのビッグネームの方々から賛辞をいただきました。
そのメッセージの多くが、「子どもたちから対話の力を学ぼう」というものです。「チームマネジメントや、ファシリテーションの極意が詰まっている」という感想もよくいただきます。


「こどもかいぎ」とは、その名の通り、子どもたちが輪になって、あるテーマについて意見を出し合うミーティングです。
大人が1人、ファシリテーターとなって補助はしますが、主役はあくまで子ども。できるだけ自由に発言できる雰囲気を尊重し、友達の発言に対して耳を傾ける姿勢を応援します。

話し合いのテーマは、最初は「好きな色は何?」といった答えやすいものから始まり、より具体的に「遠足でどこに行きたい?」、さらに「命」や「死」など抽象度の高い深いテーマへと、回を重ねるごとに展開していきます。
作品では、主に年長クラスの5歳児6人の「こどもかいぎ」の様子を追ったのですが、ご想像のとおり、最初は「カオス」そのものでした(笑)。
すぐに遊び始めて全然座っていられない子、自分の話が長くて止められない子、家庭事情をペラペラと喋ることに夢中な子、何か言いたそうなのに発言を促しても黙ってうつむいてしまう子。話を途中で遮られて「僕はもっと話したかったんだ!」と腹を立ててベソをかく子もいました。
子どもだから仕方がないよなぁと笑ってご覧になる人も多いかもしれませんが、これ、「大人の社会の縮図」とも言えませんか。
忖度なく、ありのままに自分を表現する子どもたちの姿は、ある意味で分かりやすく「会議の難しさ」「コミュニケーションの難しさ」を表しています。

他者との対話の中に生まれる葛藤や衝突を、どう解決していくのか。回を重ねるにつれ、子どもたちは「相手の話を遮らずに聞く」「嫌なことは嫌だと、自分の言葉で伝える」といったコミュニケーションスキルを獲得していきます。
「こどもかいぎ」の観察を始めて半年ほど過ぎた頃、こどもたちの頭の中で起きている思考の過程が、まるで漫画の吹き出しのように見えるようになりました(下図)。

子どもたちの成長から、カメラを回す僕自身が多くを学びましたし、同時に感じたのは、幼少期から「対話力」を養う重要性です。
小学校に入る手前の5歳前後の子どもたちは、自我も芽生え、言葉での意思疎通はできるものの、まだその表現力は形成過程にあって、感受性もとても豊かです。
“常識”や“普通”という概念がまだない時期に「対話力を磨く機会」を十分に得ることができれば、自分の気持ちを他者に適切に伝え、相手の気持ちも汲み取りながら一緒に問題解決できる大人へと育つはずです。

日本の幼児教育で対話力を養う取り組みがもっともっと広がれば、いじめや暴言・暴力、引きこもり、DVやストーキングなどの犯罪といったさまざまな社会問題の予防・解消につながるのではないだろうか。
そんな気づきから海外の事例をリサーチしていくと、教育先進国といわれるフィンランドでは、ある時期から国をあげて「国民の対話力を高める」ための施策を強化したのだそうです。そして何十年と時間をかけて、コミュニケーション力という社会資産を築いていった。
また、僕が映画修業のために4年ほど暮らしたカナダでも、未就学児が通うプレスクールで、対話力を養う「サークルタイム」が定着していました。感心していると、現地の友人から「日本ではやっていないの?なぜ?」と逆に驚かれたことを覚えています。

つまり、対話力は経験によって磨かれる。「日本人は対話が苦手」というイメージは、単に「場数の不足」によるものであり、トレーニング次第で克服できるものなのです。発達心理学の専門家によると、他者との関係性をつくる基礎力は10歳前後までに育まれるのだそうです。
幼少期から対話のトレーニング機会を多く持つことができれば、より効率よくスキルを身につけられるはずです。
実はこの映画を撮ろうと思った最初の動機は、もともとコミュニケーションが苦手な僕が、当時5歳だった娘との関係を改善してもっと会話ができる父親になりたいという、とても個人的な悩みが発端でした。しかし、撮影・編集を進めるにつれ、これは社会全体の課題解決になるはずだと確信するに至ったのです。
※後編の第2話に続く
