
人を成長させるのは、「フィードバック+愛」
聞き手/佐々木紀彦 撮影/林 直幸
マーケティング分野のプロとして注目が高まるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)。CMOとはどんな仕事で、どんなスキルセットが必要なのか。第2回は、P&G、J&Jなどを経て、現在、レノボ・ジャパン合同会社のCMOを務めるリュー・シーチャウ氏のスキルセットを解読する。
自ら掴んだマネジャー昇進のチャンス
――P&Gで4年過ごした後に、「ドクター・ショール」で有名なレキットベンキーザー・ジャパンに転職しています。そこで学んだことはなんですか?
転職1年目はバタバタしていましたが、ある程度慣れた2年目に、ドクター・ショールのブランドを1人で担当できることになりました。
プレーヤーとして、ターゲットの設定から、ターゲットの理解やリサーチ、精神の設計も含めて、好きなだけやったので、ストレスがなくてすごく楽しかったです。
この商品で結果を出した後に、マネジャーになりました。

――最初にマネジャーをやったのは何歳ぐらいの時ですか?
社会人4年目から5年目の間くらいですので、20代後半ですね。
――かなり早いマネジャーへのシフトですね。もっとプレーヤーを極めたいという思いはなかったのですか?
ちょっと裏話をすると、当時の私の上司に当たる40代半ばのマネジャーが会社を辞めることになったのです。
会社側は、代わりのマネジャーを採用しようとしたのですが、私は「新しいマネジャーはいらない」と1週間交渉しました。「給料を上げてもらう必要もないので、ぜひ私にマネジャーをやらせてほしい。私だったら業績も伸ばせる」と粘って主張したら、受け入れてくれたのです。
ただし、仕事内容が多岐にわたるので、私の部下に当たる人間を雇ってくれました。ここから私のピープルマネジメントの仕事が始まったのです。
――自分でチャンスをつかんでいったのですね。
どうしても自分でやりたいという思いも強かったので。

――ピープルマネジャーはプレーヤーとまた違う仕事ですよね。
自分ではない人にコーチングをしながら仕事をやっていくと、「私だったらこうするのにな」と思うこともあります。最初は自分がやるよりも時間がかかって大変でしたが、部下が成長すると、自分がやらなくても同じような結果が出ることがわかってきます。
部下の成長を目の当たりにして、今まで味わったことのない達成感を感じました。いい人を採用できて、いいチームを作れれば、自分ひとりでやるよりも、10倍も100倍もパワーが出る。それが分かってからは、ピープルマネジメントの部分が自分の中でどんどん大きくなっていきましたね。
なぜフィードバックに愛が必要か
――人を育てるために大事にしていることはなんですか?
フィードバックです。
最初は何か起きると、すぐにその場で率直にフィードバックしていたのですが、それだけではダメだと気づきました。「フィードバック+愛」でないとダメなんです。
誰かのことを嫌いだったら、何も言わないですよね。フィードバックするときは、ものすごいエネルギーがいります。ポジティブなことばかりではないので、もちろん相手も嫌がりますが、言う側もかなり疲れます。でも、よくなってほしいからちゃんと愛を持って言う。そうしないと、いくら正しいフィードバックをしても、相手が受け入れてくれません。

1人ものすごく成長した部下がいるのですが、最初は、私がフィードバックをしても、眉間にシワを寄せて、納得していない感じでした。しかも、事前にすべき準備をしてないことが何回かあったので、仕事終わりに飲みに誘ってみました。
その場で、くだらない話をしながら、「私はあなたがすごく優秀だと思っていて、チームのためにすごく大事だと思っている」と伝えたら、彼女が「自分はずっと嫌われていると思っていた」と言ったんです。お互いに誤解があったんですね。そうして愛が伝わってからは、彼女もすごく頑張るようになりました。
フィードバックと「大好きだよ」というメッセージがセットになったときに、お互いが頑張れるようになるんだと思います。
――とはいえ、あらゆるメンバーに愛を注げますか?
私はマインドセットがちゃんとしていれば注げます。頑張りたい人を応援したいじゃないですか。でも、「頑張りたい」と口で言っているだけで、本気で思っていない人にはそんなに時間を使わないですね。
――そういうマインドセットの人にはどう対応するんですか?
まずはしっかり話をします。
「どうせ仕事をするのであれば、今よりも頑張って、結果を出した方がよくないですか」。そう伝えながら、「この人のどこのボタンを押せば変わるのか」を見つけていくのです。
――過去のインタビューでも、「マーケティングで大切なことは、人間を深く知ること」と言っていましたが、そこに通じるところがありますね。
マーケターは、消費者の代弁者でないといけないので、消費者を理解するために深く観察する必要があります。そのやり方は、自分のチームメンバーや周りの人と接する時にも応用できますよね。
――もともと、人間観察は好きなのですか?
結構好きです。
私は大学が社会学部なのですが、当初は商学部に行くつもりでした。
なぜ社会学部を選んだかというと、願書を出す前日の夜に、中国にいる高校時代の友人から、彼氏との別れ話を聞かされたんです。その話をヒントに、「あなたの彼氏はこういうタイプの人なので、こんな話をしてみたら」と提案してみたら、「なんでそんなに彼のことがよくわかるの?心理学でも勉強しているの?」と言われて、私は人間観察のポテンシャルがあるかもしれないと思ったんです(笑)。

――2015年には、ジョンソンエンドジョンソン(以下、J&J)のマーケティング本部長に転身しましたが、新しい挑戦に飢えていたのでしょうか?
単純にJJに入ると、部下が十数名になります。それを自分がハンドリングできるかどうか、ぜひやってみたかったんです。
――そこでも結果は出ましたか?
ビジネスの数字はよかったです。チームもすごくモチベーションが高くて、いまだにみんな仲が良いですよ。

――部下の人数が増えた時に、どうピープルマネジメントのやり方を変えましたか?
部下の数が増えたことよりも、部下のダイバーシティが増えたことによる学びが大きかったですね。香港の現地法人社長にも就いたり、多様な経験ができました。
最初の3社に共通していたのは、P&Gもレキットベンキーザー・ジャパンもジョンソン・エンド・ジョンソンも、全部消費財の外資だったという点です。
みんな似たようなフレームワークを使いますし、似たようなタイプの人たちがいますし、すごくテキパキ仕事を進めていきます。ハイパフォーマーの後ろに一生懸命ついて走っていくような形です。その意味で言うと、私自身もひとつのスタイルしか持っていなかったなと、今考えると反省するところがあります。
そのスタイルとは別のあり方を体感したのは、その次にスタートアップのFOLIOに転職してからです。
*第4話に続く。