
P&Gで出会った「勝つ仕組み」と「2人の上司」
聞き手/佐々木紀彦 撮影/林 直幸
マーケティング分野のプロとして注目が高まるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)。CMOとはどんな仕事で、どんなスキルセットが必要なのか。第2回は、P&G、J&Jなどを経て、現在、レノボ・ジャパン合同会社のCMOを務めるリュウ・シーチャウ氏のスキルセットを解読する。
新卒で入ったP&Gのカルチャー
――CMOとして、CMOになるために、どんなスキルセットが必須だと思いますか?
最初にP&Gに入社しましたが、マーケティングのフレームワークに関するトレーニングがとてもしっかりしていました。本当に学校に通うような感じで、基礎から学びましたね。トレーニングを受けながら、OJTで学んだのがキャリアの出発点です。

――過去のインタビューで、最初の2年間は“ゆるふわ社員だった”と語っていましたね。
はい、ゆるふわでした。
ただ、2年目の評価フィードバックで「普通」と査定されたことが、心にグサッと刺さりました。
私は無駄なことが嫌いな性格なのですが、毎日仕事に8時間しっかり集中していたのに、上司から「時間の使い方を見直すべき」とフィードバックを受けたのです。
P&Gはドライにビジネスの数字でKPIを見る会社なので、それに慣れるためにも、私自身がマインドセットを変えないといけないと思いました。同じ時間を使うなら、結果を出すために私の時間を使うべきだと気づいたのです。
――一言で言うと、P&Gはどんなカルチャーなんでしょうか?
アーミーでしょうか。
いい意味で、システムがとにかくしっかりしています。P&Gシステムの中にいれば、みんながホームランは打てないにしても、ヒットを打ちやすくなります。

新卒が学ぶガイドラインやプロセスがあるのですが、そのプロセスを踏んで新商品をローンチすると、大失敗することはほとんどありません。勝率を上げるための方法論が確立しているのです。
例えば、新商品をローンチするときに、バイヤーさんに見せるサンプルを作るのですが、私が働いたそこまでシステムしっかりしてない会社などでは、「実は頼み忘れていました!」というひやっとした場合もありました…。
しかし、P&Gの場合は、4カ月前に記入すべき資料の中に「サンプルは頼みましたか?」というチェック項目があって、ミスが起きにくい仕組みになっています。P&G時代はこれが当たり前と思っていたのですが、「4カ月前にチェックする」というタイミングも含めてものすごくしっかりしています。
こうした方法論を新卒で学べたのは、とてもよかったですね。
ただ、システムがすごく優れているだけに、誰が抜けてもいくらでも代わりがいる。会社側は困らない。それが個人としては、ちょっと悲しいところではありますね。
印象的だった2人の上司
――P&G出身のマーケターは、刀の森岡毅さんや元スマートニュースの西口一希さんなど、数字やデータや論理に強い方が多い印象です。
西口さんが「N1マーケティング」という顧客起点マーケティングの考え方を打ち出していますが、私もN1のインサイトと数字のコンビネーションで見るのが好きですね。

そもそもP&Gには、ビューティケアとダーティケアの2つのカテゴリーがあって、出身によってカルチャーや方法論に違いがあります。
ビューティケアはヘアケアやSK-IIといった美容系のプロダクトで、ダーティケアは洗剤やジョイといったプロダクトです。ダーティを綺麗にするという意味で、ダーティと呼ばれていました。
ビューティケアの人たちは、数字はもちろんですが、感覚とかエモーショナルな面を大事にする傾向があります。一方、ダーティケアはより日常的な商品なので、プライシングなどがとても大事です。ドラッグストアの前に積んでいるジョイが298円か348円かで売り上げは大きく変わりますので。
――特にP&Gの中で影響を受けた人はいますか?
私は上司にはとても恵まれましたね。
最初の上司の上司が森岡さんでした。ものすごくパワフルで、森岡さんからいろんな話を聞いて、戦略的な考え方がいかに大事かを学びました。ビジネスを戦争に例えると、マーケターとは軍師であり、自分の持っているリソースと相手の持っているリソースを分析した上で、勝ち抜かないといけないと教わりました。もう「キングダム」の世界ですね(笑)。

もうひとり、印象的だったのが、Ajit Nayakさんというインド人の上司です。
2006年から2009年にかけて、日本と韓国のヘアケアブランドを担当していて、今は、アジアパシフィック全体のシニアバイスプレジデントを務めています。
何がすごいかというと、インド人の40代男性なのに、日本人の20代女性の感覚やインサイトをすごく的確に理解していたのです。普通は、海外のエクスパットの場合、現地のことは現地に任せるというスタンスの人も多いのですが、自ら細かくリサーチしていました。
「なんでこんなに日本人のインサイトを深く理解できるのですか?」と聞いたら、日本人の感性を理解するために、週末に京都の柊家など日本を感じられるところに通っていると言っていました。

しかも消費者の声をすごく細かく聞いていて、ディレクターなのに、全てのリサーチインタビューに自ら出席していました。消費者を理解しようという姿勢がすごく勉強になりましたね。
実際、彼がディレクターをやっていたときに、日本でパンテーンが初めてシェアナンバーワンになりました。h&sも彼がいたときにローンチしたブランドです。
――P&Gを辞めた後も、P&Gとの縁は続いているのですか?
その後、レキットベンキーザー・ジャパンに転職しましたが、そこの上司もP&G出身でした。マットというアメリカ人で、すごくロジカルで数字をしっかり見る上司でした。数字面でいろいろと突っ込まれて「ああ、そうだ!確かに正しいな」と感じることが多かったですね。彼に、数字の見方や組織の作り方を教えてもらいました。
実は次に移ったジョンソン・エンド・ジョンソンの上司もP&G出身でした。スタートアップのFOLIOに転職するまでは、上司は全員P&G出身者でしたね。
*第3話に続く。