
2022/05/27
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企業の収益は、事業を展開するマーケットの規模と成長性に大きな影響を受けます。同じような事業を営んでいても、その会社が成長市場にいるか、縮小市場にいるかによって、その結果や将来は大きく変わってくるということです。
例えば、文明開化の明治時代に履物製造の企業があったとして、人々に広く普及していた草履を作るか、あるいは靴の製造販売に舵を切るかによって、将来の姿が全く違ってくるのは明白です。

転職先を決める際は、マーケットの成長性やその企業の優位性がはっきりするまで入社の決断を待ってもよいように、株式投資でもマーケットの成長性、企業の優位性を確認することが大切です。
また、ある程度の先読み力をベースに投資の一部で挑戦するのも面白いです。市場が拡大していく基調トレンドを形成する「構造要因」をなるべく早く見極めて、株価が安い初期のうちに投資することでリターンは大きくなります。
構造要因とは、市場の基調トレンドの根底を成す需要と、それを現実化するテクノロジーや社会構造の変化のことです。
例えば、1990年代の中国は、「世界の工場」として急速に発展しました。安い労働力に目をつけた外国企業の参入が相次ぎ、その流れは地方政府、ひいてはASEAN諸国まで拡大し、非常に大きな基調トレンドを形成しました。

こうしたトレンドは大きくなるほど多くの企業を巻き込んでいきますが、どれだけ早く判断し、乗り込めるかが勝負を分けます。1984年の台湾進出を皮切りに、事業の地域ドメインを日本からアジアに移したユニ・チャームは、トレンドの初動をつかんで成功した好例です。
こうした大きな流れが誰の目にも明らかになる前に、トレンドの力強さを見極めて先取りするには、構造要因を理解するのが重要です。
確固たる構造要因があればそのトレンドが長期で拡大していく可能性は高まりますし、そうでなければ短期的に終わる可能性が高いと判断できます。
構造要因に支えられて長期で拡大するトレンドにも、一時的に低迷するときはあります。また、トレンドはいつか終わり、新しいトレンドが始まります。
トレンドが力強さを失ってきたときに、それが一時的な低迷であれば投資チャンスとなりますが、トレンドの終わりであれば手出しは厳禁です。
それを見極めるのは簡単ではありませんが、まずはそのトレンドを支える構造要因が継続しているのか、あるいは終わろうとしているのかを慎重に見定めることで、ある程度は判断できるはずです。
周知の通り、中国が低賃金の労働力をてこに世界の工場として成長を遂げたトレンドは、終わりを迎えました。
次はどこでどんなトレンドが形成されているか、それはどのような構造要因に支えられているのかという見極めは、個人でも十分可能だと思います。
もちろん、今世界で何が起こっているのかということに常にアンテナを張り続けることが不可欠です。
ただし、企業を判断するうえでこのマーケットという条件は、それだけで企業の成長を支える要因にはなりません。
成長する市場には多くの企業が参入するので、競争は非常に激しくなります。成長市場でビジネスを展開しているからといって、それで安泰ということにはなりません。だからこそ、第2話と第3話で紹介した経営者の力量と革新的なビジネスモデルが必要になるのです。
例えば、バブル崩壊後の日本企業で大きく成長した二大巨頭として、孫正義氏が率いるソフトバンクグループと柳井正氏が率いるファーストリテイリングがありますが、この2社が主戦場としたマーケットは対照的です。

孫氏はインターネットという、今後の社会のインフラを成す超成長市場に早くから目をつけたのに対し、柳井氏がビジネスを展開したアパレルというマーケットは当時からすでに成熟した市場でした。競合は星の数ほどあるうえ、将来的な人口減少が見込まれる日本ではむしろ衰退する市場といえました。
それでも、柳井氏は経営者としての才覚が突出していたうえに、ファッション性に優れたカジュアル・ウェアの需要拡大という新しい気づきに基づく優れたビジネスモデルを構築したことから、成長市場でなくても成功を収めた例だといえます。

それまでのアパレル業界では生産と販売が分かれており、仕入れの失敗による在庫過剰が悩みの種となっていたところを、同社は素材調達から製造、物流、店舗企画までを一貫したブランドのもとに行うSPAモデルを導入しました。それも製造は中国の安い労働コストをてこに低価格、高品質を実現しました。
さらにフリースや機能性肌着といった新しい市場を作り出し、ブランド化することにも成功しました。
そうしたビジネスモデルの確かさに加えて、柳井氏の才覚と経営にかける情熱があったのだと思います。日本の経営者としては珍しく、変化をいとわないどころか変化するのが当たり前とでもいうようなスピード感を持って組織の舵取りをしてきました。
そして何より、「企業の使命は成長し続けることである」という明確な信念を持っています。
日本のアパレルメーカーとして世界市場を目指すのが当然であり、さらにグローバルナンバーワン企業を目指すという高い目標を決めたうえで目標達成のためのプロセスを明示し、妥協することなく実行していく姿勢に、社員も、そして株主も大いに啓発されたのだと思います。

*第5話に続く。
*本連載は毎週金曜日に更新します。第5話は6月3日に公開します。「話一覧」の左上の星をクリックすると、更新時に自動で通知が届きます。