
【東畑幸多②】クリエイティブ・ディレクターとしてのチーム作り
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
「可能性がある課題」の特定から始める
眞鍋 今回は、東畑さんのチーム作りについてお聞かせください。まず、メンバーを集めた時に、クリエイティブ・ディレクターとして何を話すのでしょうか?
東畑 遠回りかもしれないですが、メンバーとのディスカッションから始めます。チーム全体でクライアントの「可能性がある課題」を特定することに時間をかけるためです。
「可能性がある課題」とは言い換えると、クライアントの課題を、「世の中の人の課題」につなげること。企業の中で課題と考えていることが、必ずしも世の中の人にとって課題とは限らない。
クライアントの課題が、「誰かの課題」とつながった時に初めて、その課題は意味のあるものになる。そこを発見するために、企業側の視点だけでなく、様々な人の立場で、課題を考えることが大切です。
眞鍋 初動で明確にゴールイメージを示す方もいますが、東畑さんはディスカッションをしながら課題を見つけていくタイプですね。
東畑 そうですね。クリエイティブ・ディレクターは「可能性がある課題」と、そして企業が持つ「ポテンシャル」も同時に考えなければならないと思っています。俯瞰した視点で「ポテンシャル」を理解し、「課題」を企業の存在意義にまで成長させることができると、映像表現も企業の価値を伝えられるようなダイナミックなものになります。
眞鍋さんと一緒に取り組んだアシックス「RUN for X」企画では、デジタルの時代に、情報量が爆発的に増える中で、「人間性の回復」を、スポーツブランドの新たな課題と捉えましたよね。
シューズメーカーではなく、人間のポテンシャルをメイクするブランドへと成長する、という課題を設定できると、おのずとコミュニケーションも、映像表現もエキサイティングなものに変わっていくと思っています。
眞鍋 課題特定のために、オリエンの段階でクライアントに聞くべきことはありますか?
東畑 中長期的な目標ですね。
ブランドを考えるときには、「ロマンとソロバン」どちらも大切。今の課題を見つめながら、5年後、10年後、どんな存在になっていたいのか。そのゴールイメージを見据えた上で、今やるべきことを考えることが大切だと思っています。
企業と距離があるスタッフをアサイン
眞鍋 課題の特定から一緒に考えるので、メンバー選びもより慎重になるのかとは思いますが、どんな方をアサインしていますか?
東畑 企業が持つ人格と、そのスタッフの人格が合いそうというのが前提で、さらに、新しい視点を取り込んでくれそうな方を積極的にアサインしています。
例えばホンダの「Go, Vantage Point.」(見晴らしのいい場所へ)では、コピーライターに車を運転されない女性の太田恵美さんがいらっしゃいました。
企業の本質を捉えながらも、企業と少し距離があり俯瞰した視点も持っている方がいるといいですね。
眞鍋 ディレクションについてもお聞きしたいのですが、メンバーから出てきた案への対応について、意識している点も教えてください。
東畑 案をチェックするというより、良い部分を見つけてフォロワーになるという点ですね。いいアイデアを出すことと同じくらい「あなたのアイデアいいね!」と言うことは、大切だと最近は感じています。
眞鍋 全体としては改善の余地があっても揚げ足を取るのではなく、「この部分は良かった」と言える感覚は大事。これは世の中全体にも言えますね。
東畑 一方、クリエイティブ・ディレクターの「良い」には説得力を持たせることも重要だと思っています。なんでも褒める人でありたいわけではなく、心から「いいね!」と思ったときに伝える。信頼のあるフォロワーになることで、メンバーに自信を持たせることが重要です。
眞鍋 リスペクトできる人から、納得のいく形で「良い」と言われないと、自信をもって前に進めないですもんね。メンバーからの案を自由に引き出すための秘訣はありますか?
東畑 企画で伝えたいメッセージや、アウトプットを受け取った時の読後感は共有しますが、そこに至るまでの表現は、基本的にメンバーに託すようにしています。
「アイデア」でディレクションするのではなく、「意味」でディレクションすることは、なるべく心がけています。
先ほどのアシックスでいえば、「人間性の回復」がテーマなら、ライバルをNIKEではなく、facebookやtwitterだと捉えて、アイデアを考えてみよう。といった形のいい宿題を出せるかが、スタッフのアウトプットの質を変えると思っています。
明るくドキドキして働く姿を見せる
眞鍋 あと最近よく思うのですが、クリエイティブ・ディレクターは人によって仕事の作法が違うこともあって、育成が難しいと感じています。
東畑さんは、2022年1月に電通を退社される際、「明るくドキドキして働く姿、それ以上のメッセージはない。後輩たちの希望と誇りとヒントになる。そんな背中になりたい」と話していました。育成の面では、この言葉に尽きますかね。
東畑 三代目市川猿之助さんの「学ぶとは、感動すること、教えるとは、姿勢を見せること」という言葉がありますが、やはり自分が何に感動したかが一番学びになりますし、だからこそ講義よりも一緒に仕事をして直接影響を与えることが「教える」ということだと思っています。
眞鍋 尊敬する人と出会い続け、一緒に仕事をすることが成長には必要ですね。
東畑 そのために、なるべく自分と仕事を切り離さないことも大事だと思います。
糸井重里さんが、以前「よろこぶことと、よろこばれることの重なる場所で、ぼくは、はたらきたいです。」とおっしゃっていました。

世の中から喜ばれることはもちろんとして、自分も喜ぶ場所を主体的に見つけることで、明るくドキドキ働けます。
眞鍋 自分も喜べる場所じゃないと、体重を乗せたパンチを繰り出せない感覚もあります。自分の感性で主体的に働くことが、これからの仕事ではとても大切だと思います。