
【東畑幸多③】仕事に必要とされるアイデアを生む力
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
「キカク」ではなく「キオク」
眞鍋 前回、チーム作りについてお話を聞きました。以前、東畑さんは「感動した記憶の持ち寄り」をメンバーにお願いしていると聞いたことがあります。
東畑 そうですね。どんなアイデアも「記憶」から生まれるので、メンバーには「『企画ではなく記憶』を持って来て」とお願いしていますね。話題になった記事、ドキュメンタリーでもいいし、個人的に感動した本やアニメでも、ジャンルは問いません。この個人的な「感動の記憶」が、人の心を揺さぶるアイデアを考えるヒントになります。
広告は、97%はロジックで作られます。ただ、100%ロジックで作られた広告は正しいけど、人を動かさない。
ロジックを超えるマジックを作るために、3%くらい「好き」とか「感動の記憶」を意図的に入れていくことが重要です。3%自分を入れていいというのが、広告を考える面白さでもあります。
例えば以前担当したリクルートの転職雑誌「B-ing」でショッカーが「この仕事は、オレを輝かせているんだろうか」と語るCMは、舞台で醜いモンスターがラブソングを歌うというギャップに感動した記憶がアイデアの元。
キャラクターと行動のギャップであったり、メタファーが置かれた方が、感情移入しやすくなるという気づきがヒントになりました。
眞鍋 CMプランナーだと、一人で企画を考えることが多かったと思いますが、クリエイティブ・ディレクターになってなぜこの方法に行き着いたのでしょうか?
東畑 正直に言うと、僕は優れたコピーが書けないから、生存戦略として人と違う視点を持つことを武器にしました。
「B-ing」の「この仕事は、オレを輝かせているんだろうか」というコピー自体はいたって普通の言葉。サラリーマンが言っても面白くないですが、ショッカーが同じセリフを言うと、もっと深い意味を持つ。
平凡なコピーが、どうしたらエモーショナルに伝わるのかを考える中で、醜いモンスターがありふれたラブソングを歌う、シーンの記憶につながっていきました。
「なんかいいよね」禁止令
眞鍋 普段の生活の中での感動がアイデアのヒントになる点はすごく分かります。そのためにインプットも意識して行っていますか?
東畑 有効活用しようと意識しているわけではないですが、生活の中で心が動いたことを集めるのがもはや趣味になっています。
一応メモを書いたり写真を撮ったりもしていますが、気になったことは心にストックしておくと、必要な時に勝手に心の引き出しから出てきてくれます。
眞鍋 インプットは「最新の情報と普遍的な情報の両方が大事」という話を東畑さんがtwitterでつぶやいているのも拝見しました。
東畑 はい。クリエイティブは、「普遍」と「最新」が交わるところに生まれると思っています。例えば、車の広告を考えるとき、基本的な価値は「移動」。
ただ、移動する意味は、時代によって変わっていく。googleで何でも調べれば分かる時代に、リアルに移動する価値は何だろうと考えたり、コロナ前とコロナ後でも、違う価値を定義できると思います。
SNSなどで流れ続けるフロー型の「いま」の情報と、古典やスタンダード、時代を超えて残っていくストック型の知恵と、どちらも取り入れながら「普遍」と「最新」との交点を見つけることが、ヒットするクリエイティブのポイントになると思います。
眞鍋 インプットした情報をアイデアに昇華する上で意識されていることは?
東畑:インプットの段階での「なんかいいよね」を禁止しています。自分の心が動くものに出会ったら「なぜいいと思ったか」を言語化、構造化するクセをつけることで、アイデアに転用できます。
例えば最近、心を動かされたのは、宇多田ヒカルさんのジャケットの写真です。撮影中にお子さんが見切れた写真が採用されていましたが、トップアーティストの宇多田さんも、お母さんなんだなと、自分と地続きの存在だと感じられた時に、ふと感情移入してしまったり。
お笑い芸人・錦鯉がM-1優勝時に抱き合って涙を流している写真に感動してしまったり。ジャンルは違えどすべて「パブリックイメージへの裏切り」という構造があったから共感が生まれました。この構造は、広告で人の心を動かすときのヒントになりますよね。
世の中に「ハートとビックリ」を届ける
眞鍋 アイデアを実際の表現に落とし込むときの手順も教えてください。
東畑 「ハート❤️」と「ビックリ❗️」が心の中に同時に生まれることが大切だと思っています。
「世の中をビックリさせよう」だけ考えて斬新な表現ばかりに頼っていると、ブランドの本質から離れてしまいます。
まずはブランド・商品に対する「ラブ」、好きという気持ちをどうしたら作れるのかを徹底的に考える。そして「ラブ」がどうやったらインパクト・ニュース感を持って相手に届くか「驚き」の仕掛けを考えるという順番で構築していきます。
眞鍋 なるほど。受け手から見ると、逆に「ビックリ」のあとで企業への「ラブ」に行き着く順番が多いですよね。
東畑 大塚製薬ポカリスエットの「でも君が見えた」編のCMも、うねうね動く床でのワンカット風撮影にビックリがあったけど、「find my way」というコアコンセプトに沿って、「自分の道を見つけた」という主人公の心象風景が、今の時代に迷っている視聴者のハートに届いていると思います。
眞鍋 みんな時代の先端を走りたがるけれど、逆に埋もれてしまう感情に寄り添うことも考えたいですよね。
東畑 世の中の「ビックリ」のつかみ方として、みんなと逆を向くことは大切で、これこそがいろんな人が仕事をする意味であり、面白さだと思っています。
以前、テレビ朝日『報道ステーション』のCMがジェンダーの観点で炎上した際、多くの人が、マスコミのジェンダー意識の遅れについて意見を言っていました。
そんな状況の中で脚本家の三谷幸喜さんが、朝日新聞のコラムで、今回の件で傷ついたであろう、CMに出演した新人女優さんに対するユーモアのあるエールを送っていました。世の中の声ではなく、自分の声を聞く、三谷さんらしい優しくて批評性のある視点だと感心しました。

眞鍋 ある事象に対して、「みんなの意見」で情報を捉えるのではなく、自分の心の動きや声を聞くことを意識しないとですね。
クリエイティブ・ディレクターがいいクリエイティブを作る上での秘訣をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。