
【東畑幸多①】世の中に賑わいを作ることが役割
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
現代における、クリエイティブ・ディレクターの仕事とは何なのか。どのようなスキル、センス、マインドが求められるのか。電通の眞鍋亮平氏が対談を通して解き明かす。
今回のお相手は、CMプランナー出身で、眞鍋氏の後輩でもあるクリエイティブ・ディレクター東畑幸多氏。

いま世の中に必要なクリエイティブ・ディレクターの役割について語り合いました。
ワンアイデアで「賑わい」を作る
眞鍋 まず、東畑さんにとってのクリエイティブ・ディレクターの役割を教えてください。
東畑 クリエイティブディレクターの定義ではないのですが、広告の役割は「賑い」を作ることだと思っています。テレビCM、SNS、イベント、地域、ブランド、企業…様々な場所に「賑わい」を作る。人が集まれば、そこにパワーが生まれ、マネタイズもできるし、カルチャーも作られる。
賑わいを作るためには、「心を動かす」仕掛けが大切。例えば、日本三景の厳島神社。鳥居が陸にあったら普通の神社ですが、鳥居が海にあることで、奥の島がすべて神域になり、1000年たっても人が集まる場所となっています。
誰かが会議で「鳥居、海に置いてみない?」と提案した人がいたはずで。「その手があったか!」と思わず心の中でつぶやいてしまう、そんなアイデアで賑わいを作れるクリエイティブ・ディレクターを目標にしています。
眞鍋 面白いです。この考えは、CMプランナー時代からあったのでしょうか?
東畑 はい。僕は元々CMを作りたかったわけではなく、人を喜ばせることや魅了することに興味があって、広告業界に入りました。そのアウトプットの手段がたまたまCMだったという感覚です。
例えば、江崎グリコ「OTONA GLICOキャンペーン」で25年後のサザエさんを撮った時も、CMの映像を考えるよりも先に、「世の中をビックリさせたい」という思いが先行しています。
宇多田ヒカルさんを起用したサントリー食品インターナショナル「サントリー天然水」も、「今、誰が山登りをしていたら世の中が驚くか」を考えてCMを作りました。あまり映像起点で企画を考えてはいませんね。
企業が「どうあるべきか」を導く
眞鍋 東畑さんにとってクリエイティブ・ディレクターのロールモデルはどなたでしょうか?
東畑 対談にもご出演されていた古川裕也さんです。九州新幹線「祝!九州」企画でご一緒して、最初のゴール設定、最後のアウトプットの点数の上げ方、そして企業がどうあるべきかの導き方という3点を勉強させてもらいました。
眞鍋 東畑さんから見た古川さんのお話、気になります。
東畑 まずゴール設定。最初の段階で、1970年代のI ♡ NYキャンペーンで一般市民の方がミュージカル調でニューヨークの素晴らしさを語る事例を参考に出し、「市民参加型のお祭りで、伝説を作ろう」と明確なゴールを提示してくれました。
続いて、アウトプットの点数の上げ方。九州の方が手を振る映像を新幹線から撮影したのですが、最後の仕上がりを見た時に、実際に生で見た時の感動があまり伝わらず、悩んでいました。
その時、古川さんが「もう少しだけ寄ってみたら」というディレクションをして。映像を20%アップしてみると、沿道で手を振ってくれた人たち一人一人の表情が見えてくる。本物の笑顔が見えてくることで、CMのエモーションが格段に上がりました。
そして最後の点。実は九州新幹線開業の前日に東日本大震災が起きて、CMは3日間だけ放映された後、いったんお蔵入りになってしまったんです。
その時に「あのCMが気持ちを明るくしてくれる」という声が多く集まり、クライアントからも「東北へのエールにメッセージを代えて、再度放送しよう」という声が上がりました。
僕たちスタッフも苦労して作ったので、この案に前向きだったのですが、古川さんが「それはしない方がいい」と判断しました。「このCMは、東北を元気づけるために作ったものではない、九州の方たちもそのために手を振っていない。本来と違うメッセージをのせることはしてはいけない」と。
プロジェクトを、一番広い視野と深い視座で俯瞰して、企業のよき判断、よき言動、よき行動を作っていくことも、クリエイティブ・ディレクターの仕事なのだと勉強になりました。
新しい視点で、価値・仲間を見つける
眞鍋 最近は様々な業界からクリエイティブ・ディレクターが生まれていますが、自分と同じ肩書きが増えてきていることに対して、どう思いますか?
東畑 クリエイティブ・ディレクターはエキサイティングな仕事なので、とても喜ばしいことだと思います。これからの時代、新しい視点を持って、新しい価値、新しい仲間を見つけるクリエイティブ・ディレクターが増えていくでしょうね。
眞鍋 今、注目している広告業界以外のクリエイティブ・ディレクターはいますか?
東畑 例えばCOTENの深井龍之介さん。
僕も聞いている「コテンラジオ」の代表ですが、歴史のデータベースを作ることで、人生の判断に役立つ「メタ認知」をみんなに与えるミッションを持って活動をされている。新しい視点で新しい価値を世の中に届けようとされています。

あとは台湾デジタル担当大臣のオードリー・タンさん。「Fast(高速)」「Fair(公平)」「Fun(楽しい)」という市民参加型の戦術で、コロナの抑え込みに成功しました。

この間テレビで、「これからの人類は、ホモサピエンス『考える人』から、ホモコンヴィヴィウム『共に過ごす人』へ進化しなければいけない」と語っていましたが、これからの世界に必要なディレクションだと感じました。
スタジオジブリの代表でプロデューサーの鈴木敏夫さんも。彼の「監督は映像を演出する仕事で、プロデューサーは現実を演出する仕事。だから言葉を鍛えなさい」という言葉があるのですが、ここで言うプロデューサーの役割がまさにクリエイティブ・ディレクションそのものだなとも思います。

個人的にとても好きなのが、イギリスの「FC Not Alone」というサッカーチーム。「孤独」を解消するために、クラブチームをみんなの居場所だと捉える。
ウェルビーイングの新たな試みのひとつですが、「孤独」という課題に対して、新たな視点でアプローチをする、クリエイティブディレクションの力を感じる仕事です。
眞鍋 まず、社会がどうあるべきかが先にあって、そこに行くためのビジョンを示し、スポーツチームはあくまで手段。それで世の中の共感や賑わいを作るというのは、まさに我々が目指すべき姿ですね。