
【川腰和徳③】クリエイティブ・ディレクターに必要な人間力
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
「人として信頼されること」が一番重要
眞鍋 川腰さんが、クリエイティブ・ディレクターにとって一番大切だと思う要素はなんでしょうか?
川腰 うーーん。クリエイティブ・ディレクターになってまだ短いですし、まだまだ模索中で自分の中に明確な答えがあるわけではないのですが…極論は、リーダーとしての「人間力」だと思います。
特にクリエイティブのチーム編成はクリエイティブ・ディレクターの指名で作られることが多いと思いますので、メンバーを導く立場としてまず人として信頼されていないと人がついてきてくれないですし、ベストな状態で仕事を始めることができないと思っています。
眞鍋 たしかに、そもそも人間力がないと、優秀なスタッフをアサインできないですよね。
川腰 そう思います。「川腰の仕事ならやりたい」って思ってもらえるような人にならないと、そもそも良いチームが作れませんから。最初の勝負どころだと思っています。
そのためにも面白い仕事をし続けるというセルフブランディングも合わせて大切になってくると思います。
クライアントの信頼を得るためには
眞鍋 メンバーだけでなく、クライアントからの信頼獲得も大切ですよね。何か意識していることはありますか?
川腰 「クリエイティブ能力」だけで、信頼してもらうのは難しいと思っています。クライアント側の目線に立ちながら時間をかけて課題意識を理解していくことができないと、信頼関係は築けません。
そのため、クライアントと代理店という垣根を超え、人として信頼していただける機会をつくるようにしています。
例えば、最近はコロナ禍で難しくなっていますが、飲みに行ったり、仕事以外でも相談に行ったり、現場の若い方ともコミュニケーションを取ったりと、仕事を進める上で距離をできるだけ縮めたいですね。
信頼関係の構築ができると仕事の進み方もとてもスムーズになる、メンバーがより自由にプレーできるように環境をつくっていくのもクリエイティブ・ディレクターの役割なのかなと思います。
眞鍋 斬新でチャレンジングな案件ほど、アイデアだけで突破するのは難しいですよね。
せっかくいいアイデアがあっても、クリエイティブ・ディレクターとクライアントの信頼関係がないことによって消えていくものもありますからね。
第一線で活躍されているクリエイティブ・ディレクターほど、関係の構築に力を入れていると思います。
川腰 まさにそうだと思います。JR東日本、サントリーなどを手掛けたクリエイティブ・ディレクターの岡康道さんは、プレゼンの前日の夜中にクライアントの宣伝部長とマージャンをして、もうそこで企画を説明して話がついていたという逸話を聞いたことがあります。
逆算思考で世の中を変えることが役割
眞鍋 ちなみに、最近では広告業界以外にもクリエイティブ・ディレクターが増えていますが、川腰さんから見て面白い方はいますか?
川腰 イーロン・マスクですかね。ビジョンを掲げ、ゴールからの逆算で導いてくれる存在はまさにクリエイティブ・ディレクターだと思います。

人類の未来を本気で創ろうとする、そのアイデアと実現力も含めてすごいと思いますし、あんな人が今の時代に生きていると思うだけでワクワクする存在の一人です。
眞鍋 まさに目的芸術ですよね。サステナブルなエネルギーで人類が生活できるようにしたいというビジョン、そのための「自然エネルギーをため込む蓄電池」という要素、それを大量に作れるインフラを一番効率良く育てられる産業は車、そしてテスラを売っている。
要は、目的をかなえるための、車作りはひとつの手段なんですよね。世の中の人がビジョンに共感しているからこそテスラが売れています。
川腰 あとは、大谷翔平さんですかね。
彼はいずれチームを率いるような存在になるのではと思いますが、彼が高校1年生の頃に書いた「マンダラチャート」は素晴らしい逆算思考だと思います。
中心に「ドラフト1位」という夢を書き、その達成にはどんな要素が必要かを周辺に書いています。体力作り、メンタル、運…などです。夢を達成するための具体的なアクションが解像度高く書かれています。
眞鍋 「運」の要素を得るために「ゴミ拾い」にまで行動を落とし込んでいるからすごいですよね。たしかに焦点を絞った正しい努力でロジカルに夢をかなえています。
川腰 すごいですよね。運を良くするためのアクションを考えたこともなかったのですが、たしかに理にかなっている気がしました。広告クリエイティブでも、クライアントと「マンダラチャート」を作ることは有効かもしれないですよね。
あらゆる分野で活躍するために
眞鍋 今後も様々な分野のクリエイティブ・ディレクターが増え続ける中で、本当に活躍できる存在になるためには、どうすべきだと思いますか?
川腰 元々の軸足を磨き続けるのはもちろんですが、そこからさらに拡張するすべを身に付けないと、どんどん淘汰されていく危機感があります。
眞鍋 川腰さんはアートディレクター時代から3Dグラフィックもできたし、映像もできたし、領域をうまく広げているクリエイティブ・ディレクターだと感じますが。
川腰 今後クリエイティブ・ディレクターは、あらゆる業界で必要な存在になっていくと思います。
時代の変化が速すぎて専門分野だけでの拡張だけでは活躍できないかもしれないと感じます。様々な企業課題に取り組む立場として、柔軟に対応できる力を鍛えるために意識的に新しいジャンルの知識をインプットしています。
眞鍋 必要に迫られると勉強せざるを得ない部分もあるので、必然的に自分を追い込めるような新しいジャンルの仕事を増やすと効率が良い気もします。
川腰 たしかにそうですね。頭より体で学ぶ方が体験として蓄積されると思います。
眞鍋 走りながら学ぶことこそが、プロのクリエイティブ・ディレクターとしての「本当の筋力」を付ける方法ですね。